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わずか80坪!バーニーズ ニューヨークの小型店が、反転攻勢の狼煙である理由

消費増税、コロナ禍と、立て続けに大打撃を受けたのが高級ファッション市場だ。この分野の有力専門店であるバーニーズ ジャパン(東京都/関口正美CEO)も、例外ではなかった。しかし、小回りが利き、機動力のある小型店という新フォーマットを開発。8月にオープンした西武渋谷店内のインショップでの成功を目指している。

日本初となる百貨店のインショップ

バーニーズ ニューヨーク西武渋谷店の店内

 「バーニーズ ニューヨーク」と言えば、「都心部にある、大型の高級ファッション専門店」を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。ところが、そんなイメージを塗り替える新業態が誕生した。

 827日、東京都渋谷区にオープンした「バーニーズ ニューヨーク西武渋谷店」は、西武渋谷店のB1階にテナントとして入居、売場面積は約80坪とコンパクトだ。「こうした百貨店のインショップは、日本では初めての試みです」と、バーニーズ ジャパン取締役・営業本部シニアディレクター兼クリエイティブディレクターの谷口勝彦氏は説明する。

 同社の既存店は、売場面積が平均で約1000坪、路面店が標準的なスタイル。ファッション専門店としては、かなり大型と言えよう。

 既存店の商品構成は、ウエアからバッグ、シューズ、アクセサリーといった服飾雑貨まで幅広く、メンズ、レディス、ベビーまでラインアップしている。また、ビジネスシーンにも、カジュアルシーンにも対応しており、セレクトブランドのみならず、バーニーズ ニューヨーク限定商品やオリジナルコレクションも充実している。

 「あらゆる最新ファッションを一堂に集め、トータルのスタイル提案ができる」というのが、バーニーズ ニューヨークの大きなセールスポイントなのだ。したがって、「できれば1000坪くらいのスペースがないと、世界観を表現できないというポリシーだったのです」と谷口氏。それでは、なぜ小型店の開発に乗り出したのだろうか?

小型店なら出店のチャンスが拡大

バーニーズ ニューヨークを象徴するウィンドウディスプレイ

 本国のバーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)は1923年、ニューヨークで創業した米国を代表するファッション高級専門店(スペシャリティストア)として、日本でも広く知られている。しかし、2019年に経営破たんし、ブランド管理を手がけるオーセンティック・ブランズ・グループ(ABG)が事業を承継した。再建策の一環として、小回りが利き、機動的に出店できるインショップのフォーマットで、「サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)」の店内にも、売場を積極的に増やしているという。

 バーニーズ ジャパンは、もともと伊勢丹と米国バーニーズ ニューヨークの提携によって設立され、2013年からセブン&アイグループ入りしている。同社も、2019年の消費税率10%引き上げ以降、高級ファッション市場が逆風を受ける中で苦戦を強いられていた。そこに、コロナ禍が追い打ちをかけたかたちとなっている。

 谷口氏は、「都心部で大型店を出店するのはいっそう難しく、リスクも大きくなっています。一方で、コロナ禍によって、都心部ではファッション専門店などのクローズも相次いでいるので、新たなスペースも生まれている。実は、小型店は、出店のチャンスも拡大しているのです」と話す。

 そんな中、グループのそごう・西武から西武渋谷店への出店の打診があった。コロナ禍で、百貨店としても、集客力の高いテナントをできるだけ誘致したい。そこで、米国バーニーズ ニューヨークにも相談したうえで、上記の経緯から新業態のチャレンジに打って出たわけだ。

 場所は、入り口近くの「百貨店の顔」とも言える、もともとスーパーブランドが入居していたスペース。「例えば、B1階の外壁は、3つの大きなショーウィンドウのうちの一つを、独立した壁面を立てた仕様に変更させていただきました。ウィンドウはバーニーズ ニューヨークの象徴という考え方ですので」(同)。

 百貨店とのシナジーも狙いの一つ。とりわけ、バーニーズ ニューヨークとしては、メーンターゲットである富裕層にリーチしやすくなった。

 「渋谷エリアに進出するのは初めてで、新規のお客さまも獲得できています。既存の客層は4050代が中心ですが、西武渋谷店は30代のお客さまも多いですね。渋谷エリアの富裕層に強く、外商部門などからお得意さまを紹介していただけるのにも助かっています」(同)。

オリジナルコレクションや独自仕入れ商品を強化

オープン記念の限定アイテム「カラー」のフーディ

 一方で、バーニーズ ニューヨーク西武渋谷店は、小型店であるため、品揃えをどのように集約するかが大きな課題。ポイントとなったのは、百貨店のインショップであるという特性だ。

 「百貨店内のほかの売場とすみ分けを図るため、オリジナルコレクションや独自仕入れ商品を強化しました。西武渋谷店にすでに入っているブランドでも、当社でしか取り扱いのないエクスクルーシブモデルなら、競合しないので、取り扱いが可能なわけです」(同)

 例えば、オープン時の西武渋谷店限定アイテムとして、メンズウエアでは、「カラー」のフーディ(税込み39600円)、ウィメンズジュエリーでは、「マルコム ベッツ」のダイヤモンドとタヒチパールのネックレス(同330万円)などを発売した。

 バーニーズ ニューヨークのアイテムのうち、オリジナルコレクションの割合は約20%。「お客さまからのニーズが高い、バーニーズ ニューヨークらしい、半歩進んだデザインのアイテムを増やしていきたいですね」(同)。ABGとも提携して今後、日本未発売の海外ブランドなどを発掘していく方針だという。

 もともとバーニーズ ニューヨークはメンズが主力で、ウエアの売上の6割以上を占めるため、渋谷店もメンズは、ウエア、シューズ、バッグ、アクセサリーとフルラインで揃えたが、ウィメンズは、バッグやアクセサリーに絞り込んだ(オープン時には期間限定で、隣接するプロモーション売場でレディスアパレルも販売)。

 開店から1ヶ月の西武渋谷店の販売実績は、新規顧客を獲得できており、手ごたえを感じていると、谷口氏は自信を示している。「西武渋谷店を成功モデルとして、水平展開していきたいですね」とも意気込みを語る。

 具体的な新店プランはまだないそうだが、水面下では出店の引き合いが増えているという。「条件さえ整っていれば、インショップは、百貨店だけでなく、ショッピングモールなどのケースもありえます」(同)。

取締役・ 営業本部シニアディレクターの谷口勝彦氏

 また、小型店のフォーマットとしては、インショップ以外の路面店タイプなども想定される。立地条件によって、商品構成を変えていく考えで、「ニーズがあれば、メンズライン、ウィメンズラインに特化したフォーマットなども考えられるでしょう」(同)。

 小型店という新たな武器を手に入れたことで、バーニーズ ジャパンの反転攻勢が、いよいよ本格スタートしそうだ。