逆風吹き荒れるアパレル企業にも業績回復の兆しが見えてきた。企業も投資を再スタートし、課題であったデジタル・シフトや流通改革に着手し始めたように見える。一方、3大プラットフォーマー(Amazon、楽天、Zホールディングス<ヤフー、LINE、ZOZO>)の動きも激しい。新しいD2C (ECによる工場直販モデル)に「ひねり」を加えた、例えば、ZOZOTOWNの「YOUR BRAND PROJECT」のように、単に流通の簡素化を行うだけでなく「限定ブランド」をデジタル技術を使って集合知を結集、イノベーションプラットフォーム(集合知から得られる新しい企画を取り込む)の動きも出始めた。この戦略は私の予想通りで、ZOZOのプラットフォーム内には将来のモンスター企業の卵がうようよ生息している。これらを孵化するインキュベートに力を入れる戦略は極めて正しいと思う。ZOZOが一歩先に出たということだろう。
しかし、産業界に目を向けると、ECに関して、拭いきれない懸念がある。今回はそのことについて解説しよう。
ECとリアルを区別する意味はない
お客は「ECを携帯」して入店する
企業組織を見ると、「EC事業部」という形で、拡大するECを一つのチャネルと捉え、また、「EC」と「リアル店舗」のように、両者を区別し語っている。しかし、街にでて消費者を観察すれば、すでに「EC」の主戦場は、PCから「タブレット」と「スマホ」に移り変わっている。自宅がEC、外がリアル店舗などという化石時代の発想は、一部の人の行動になりつつあることを知るべきだ。いま、タブレットは販売員のツール、スマホは消費者のお買い物の道具になっている。
このように、ECはスマホの中に入り込み、消費者とともに物理的に街で徘徊している。インテージマルチデバイス調査**によれば、自宅などでPC画面を通じてインターネットを利用するスタイルが主流だったのは2015年まで、16年にはスマホ利用が逆転し、その差をどんどん広げている。とくにZ世代と呼ばれる若者にいたってはPC利用によるネット閲覧が60%程度に下落しているのに対し、スマホの利用が90%以上に拡大。さらに、ECによるお買い物は、まだAmazonなどはPCが強いものの、楽天、メルカリなどはすでにスマホがPCを追い抜いている(メルカリはアプリが1位、スマホが2位でPCはもっとも低い)。AmazonのPC比率の高さはファッション動向を見れば相当不安がある。**https://gallery.intage.co.jp/mobile2020/
第6波のリスクはあるものの、緊急事態宣言も解除された。朝のビジネスパーソンの通勤風景はというと、昔の「紙の新聞や漫画」を読む人はほぼ見かけなくなり、ほとんどの人がスマホを使ってゲームをしたりネットを閲覧したり、中には電車やバスの中でお買い物をしている人までいる。かくいう私自身も、外出するときは、お財布は持たなくともスマホだけは必ず携帯するようになった。電子決済の普及により、すくなくとも都内では現金もクレジットカードも不要になった。電車、バス、タクシーなどの公共機関からランチや外出中のおサボりコーヒーまで電子決済で完結する。
つまり、今の時代は、ECを語る時、「自宅」か「外」かという二元論でなく、ECは消費者とともに街を動き回り、消費者の道具の一つになっていると認識すべきなのだ。
「試着したブランドの商品を自社ECで買ってくれる」という幻想
当然、消費者は「リアル店舗」に行く時でさえ、「スマホ=EC」を携帯して入店する。また、自宅でも家族はスマホをいじってチャットを楽しんだり、密かなお買い物をしており、それは夜か昼かなど時間も関係ない。「EC in the pocket」というのはそういうことだ。つまり、今の消費者はECを携帯してリアルに入店するのである。そこには、同一テナント、同一ブランドによるチャネル連携という概念も存在しない。
例えば、実際に触ったり見たりしないと不安な商品がメルカリで安く販売していたとする。サイズは一応、記載されていても、やはりファッションは着てみなければ雰囲気はわからない。その場合、消費者は正規品を売っているブランド店舗で試着し、鏡を見ながら自分のサイズや着てみた雰囲気を把握。その後、
OMO(オンラインとオフラインの融合)戦略を唱える企業が多い。それら企業は、ECを店舗に持ち込み、「店舗とECを融合させる」ところまでは理解していると思う。だが、実際の購買行動の段階において、「消費者が試着したブランド店舗で買うのは幻想だ」ということを理解しているだろうか。
すでに前回報告した通り、いわゆる消費者同士の二次流通市場は2兆円に迫っており、うち約40%が衣料品であるという事実から、推定市場規模は8000億円ある。ただし、二次流通はディスカウントが常識だから、80%オフを割り返せば、流通量は正規上代ベースで約4兆円、つまり、今のアパレル市場規模の約半分に相当するマーケットが二次流通やC2C(個人間取引)で流通している。さらに、今後、SDGsの観点から新商品を作ることはますます難しくなり、デニムを中心に二次流通が急拡大している米国のような状況は日本でも進んでいくだろう。
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ECは決済場という変わらない本質的機能要件
私は、EC、リアル店舗、そして、コンビニや郵便局をそれぞれ、決済場、体験場、受取場に再定義せよと説いてきた。
つまり、これからはあらゆる小売産業が隣接事業に進出し、アパレルがカフェをやり旅行業にまで拡張する。ホームセンターが生鮮食品を売り、小型店舗を出すなど、商品政策(MD)による産業分類は無意味となる。百貨店は百貨店城下町の文化を支える人が集う場となり、ディスカウンターは、正規品のプライスアンブレラ(正規価格の傘)の下で、商品を値引き販売し、ブランドが正規価格で粘れば粘るほど希少性が拡大し、大切に使われた商品を二次流通企業が買取り大儲けする。このように、すべての小売、流通産業が立体的に交差し、競合の動きを予測しなければ競争負けする時代になっている。
しかし、変わらないものはある。それは、リアル店舗は「体験」を提供、ECは「決済」を提供、そして、ラストワンマイルは宅配ボックス、コンビニ、郵便局などが候補となるだろうという本質的機能要件だ。このような産業のデコンストラクション(作り直し)がテクノロジーの進化によってなされるとしたら、企業のバリューチェーンやお金の流れは大きく変わってゆく。商品と逆方向にお金が動くなどというのも化石時代の発想となり、南下政策の行き着く先として、広告のように企業はお金を全く別の企業からもらい、調達コストがゼロとなる時代も来るかもしれない。
今、アパレルは「ディスカウントしない」ことを掲げているが、こうした取り組みは過剰仕入をし、余った在庫をオフプライスストアで叩き売られる構造を変えなければ、やがて、自分達が客寄せパンダになってゆく可能性がある。
したがってアパレル企業は、消費者起点に立ったベネフィットを考えることが必要になる。例えば、車であれば外国車の新車だと3年から5年の無料点検と修理がついているが、中古車なら半年がせいぜいだ。これと同様にアパレルにおいても、正規価格で買ってくれたお客を思い切って優遇する施策が重要だ。例えば、新商品がマーケットに出る前に優先的に販売する他、コートなどの重衣料では、色の塗り直しや補修、再プレスや無条件の新品交換などの3年保証を行うなども考えられる。
例えば、私はカメラが趣味なのだが、カメラ業界ではマップカメラという企業が面白いことをやっている。ここで新商品や中古品を買ったら、買取を3%アップするという買い取り優待券を配っており、高価なレンズやカメラも臆することなく買ったり売ったりできるのだ。www.MapCamera.com
今、アパレルに必要なのは、やがて購買の中心となる世の中の消費者の動きをしっかり観察することだ。そして、そこから想起されるリスクをつぶさに挙げるとともに、他産業でそれらリスク対応を行っている事例をベンチマークする。最後に、マクロ的な考察から競合の動きを先読みし、自社のビジネスモデル改革を行う、あるいは、自社に取り込むことを行うべきだ。
*河合拓単独ウェビナー後半 個別企業の戦略と改革編 を10月27日に開催!
講演テーマは「アパレル産業の今と未来」第三段階
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https://ameblo.jp/takukawai/entry-12701203940.html
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)