メニュー

着用機会激減、オンライン採寸増える中、三陽商会オーダースーツブランドが対面接客にこだわる訳

2019年秋冬からオーダー専業ブランド『STORY & THE STUDYストーリー アンド ザ スタディー)』を展開している三陽商会(東京都/大江伸治CEO)。きめ細かい補正技術やスタッフの高い接客ノウハウを強みに、着心地まで重視したクオリティの高いビジネススーツを提供している。あくまでも初回は店舗での対面販売にこだわり、コンサルティング力の高さで勝負。細かい補正も追加料金一切なし、国内の縫製工場で対応する。『STORY & THE STUDY』の全貌と今後の戦略について、事業本部 コーポレート・エコアルフ ビジネス部 コーポレート第二課 課長 猿渡伸平氏に話を聞いた。

価格やトレンドではなく、ジャストフィット、着心地重視のビジネススーツを提供

STORY & THE STUDYの南青山サロン

―オーダーメイドブランドの中での『STORY & THE STUDY』の立ち位置は?

猿渡 低価格でカジュアルに着用できるオーダースーツを展開しているメーカーも多いですが、当社はあくまでもトレンドに左右されないオーソドックスなビジネススーツにこだわっています。一人ひとりにジャストフィットした、着心地の良いオーダースーツをご提供したいのです。

 カジュアルスーツであればオーダーメイドでつくる必要はないというのが私たちの考え。カジュアルなものはトレンドで着丈なども変わってきますが、高品質なビジネススーツは流行り廃りがない。何年、何十年たっても着ることができます。

 値段は49000円から、平均価格帯は79000円。決して安いとは言えませんが、『STORY & THE STUDY』は、あくまでもビジネススタイルのスーツで押していきたい。品質にこだわり国内工場で縫製してこの価格は、むしろ抑えられている方だと思っています。

―販売状況はいかがでしょうか?

猿渡 『STORY & THE STUDY』を立ち上げたのは2019年秋、銀座に直営店を出したのが最初です(現在は閉店)。その後すぐに新型コロナウイルス感染症(コロナ)が流行し始め、当初の想定通りには進んでおりませんし、ビジネスのポテンシャルがどの程度あるのかもまだ手探りというのが正直なところです。

 ただ、当社には20年前に立ち上げた『三陽山長』という高級ラインの国産シューズブランドがあり、すでに多くのお客さまに信頼いただいています。こちらも69000円となかなかの値段ですが、リモートワークの普及でビジネスブランドが苦戦している中、おかげさまでしっかりとシェアを維持できているんです。『三陽山長』のシューズを選んでくださるお客さまは、当然きちんとしたビジネススーツを着用されます。『三陽山長』のお客さまにも『STORY & THE STUDY』を少しずつ知っていただける段階にきており、スーツと靴をセットで選んでいただくケースも出てきています。

 コロナによって働き方が大きく変わって出社の機会が減り、スーツの需要が減っているのはたしかです。ただゼロにはなりません。たとえば週に1回、月に1回と出社するときに、スーツを着てオンとオフの切り替えをしたいという声も多く聞いています。「出社するときにはビジネススーツで」という需要は確実にあるはずです。

「きめ細かい補正技術」「コンサル型接客技術」「国内工場」が大きな強み

カラーやデザイン提案も強み

―他社のオーダースーツと違う点はどこでしょうか?

猿渡 『STORY & THE STUDY』の強みは、細部へのこだわりと熟練スタッフの接客技術です。いずれも、スーツを70年以上作り続けてきたことで磨かれたノウハウです。

 メンズの場合、補正箇所は実に69箇所。お一人おひとりの体型に合わせて細かい部分まで補正することで、体型にピッタリ合った端正なスタイルに仕上げるだけでなく、着心地が快適な一着を作り上げます。

 それを支えるのが、知識豊富なスタッフのスキル。骨格診断やイメージコンサル、パーソナルカラー診断などの有資格者もおり、お客さまがどんな場面でスーツを着用するのかをお聞きした上で、その方に合ったカラー、デザインをご提案しながら、細かいアドバイスができるのが大きな強みです。

―オーダーはリアル店舗でのみ可能なのでしょうか?

猿渡 現在、店舗は日比谷と南青山の2店舗。初回は店舗へご来店いただいていますが、2着目以降はオンラインでご購入いただくことも可能です。

 また、8月から新たに「訪問オーダーサービス」もスタートしています。自宅でゆっくりオーダーしたい方、ご来店が難しい方も、出張費無料で店頭同様のオーダーができるのでぜひご活用いただきたいです。

国内の自社工場で縫製を行い、最短2週間で完成

レディスの価格帯はジャケット3万3000円から、ボトムス1万6000円から

―ラインアップを教えてください。

猿渡 メンズはスーツ・シャツ・スラックスで、スーツは「RERAXING TRAD」「BRITISH ORIGINAL」「ITALIAN MODERN」「NEW TARLORED」の4モデルをご用意しています。一番人気はスタッフの着用率が最も高い「ITALIAN MODERN」。スタッフは皆、『STORY & THE STUDY』の広告塔であるとの意識で店頭に立っています。スタッフの姿を見て素敵だな、かっこいいなと思っていただけている証拠だなと思っています。

―レディースのラインアップは?

猿渡 スーツ・シャツ・ボトム・ドレスです。男女の購入比率は8:2とメンズのご購入が圧倒的に多いのですが、実は女性の方が男性より体型に合ったスーツと出会うのが難しい。特にボトムス選びに悩んでいるという声が多いんです。

 そこで、レディース向けはボトムス単品に力を入れています。スカートならタイト、フレア、パンツはワイド、ストレート、テーパードといったデザインを揃えています。着用した際のシルエットも大切ですが、どういう場面で着るのか、着たときにどういう動きをするのかなどをお聞きし、動きやすさやしわの出方まで考慮してご提案。立ったり座ったりを繰り返すお仕事なら、座った際にインナーが出ないように後ろだけ股上を深くしようとか、動きを考慮した補正を入れていきます。

こうした細かい補正ができることを口コミやSNSで知って、ご来店いただくケースが増えてきています。

―生産は国内でしょうか?

猿渡 国内の自社工場ですべての縫製を行い、最短2週間でのお届けが可能です。OEM生産の場合、パターンの補正は工場のパタンナーが行うのが普通ですが、当社ではすべて社内のパタンナーが対応しているので、細かい補正があっても店頭スタッフとパタンナーがやり取りしながら作っていくことができるんです。短納期で細かな補正に対応できるのは、技術部門が内製化されていて国内工場にこだわっているからこそです。なお、補正に関わる特別料金は一切いただいていません。

高級シューズブランド『三陽山長』とのコラボで認知度アップに期待

―現状の課題と今後の戦略を教えてください。

猿渡 19年秋冬に立ち上げてからまもなく2年ですが、課題はずばり認知度が低い点。ブランドを知っていただくためにInstagramFacebookTwitterを運用していますが、フォロワーはまだ少ない状況です。

 今後は、ブランド立ち上げから20年続く『三陽山長』のドレスシューズとセットでのプロモーションに注力していきます。購買層も3050代と同じで、価格帯も同等。歴史があるだけにSNSのフォロワーも伸びているので、その認知度を活用していくことが急務だと考えています。

 『STORY & THE STUDY』単独で店舗を増やすことは考えていませんが、お客さまとの接点を増やす活動として「訪問オーダーサービス」のほか、企業の内定者向け、新入社員向け研修などの場を使って、スーツの着用法についてのセミナーを行っていく予定です。

 コロナによる働き方の変化でビジネススーツを着る機会はたしかに減っています。それでも不動産業界はじめお客さまと接する機会が多い業種や、女性の社会進出に伴ってジャケットスタイルの需要はまだまだある。今後も私たちは、スーツ文化を広めていく活動を地道に行っていきます。

事業本部 コーポレート・エコアルフ ビジネス部 コーポレート第二課 課長 猿渡伸平氏