ハニーズホールディングス(ハニーズHD、福島県/江尻義久社長)の2021年5月期決算は、売上高453億6800万円(前年同期比6.6%増)、営業利益37億6700万円(56.5%増)、経常利益39億7100万円(59.0%増)、親会社に帰属する当期利益24億300万円(4.4%減)となった。
開発の超効率化で負けない戦術確立
アパレル不況と言われて久しい。そうした中、同社の売上は2013年に600億円を超えたピーク時から緩やかに下落基調にあるものの、大崩れすることはなく、堅調にポジションをキープし続つけている。2021年5月期は、コロナ禍で業績が乱高下しながらも前期を上回る売上となり、復活の兆しもみえつつある。
コロナ禍で大きなダメージを受けたアパレルの多くは、それ以前から旧来の販売手法を変えられず、コロナによる消費者志向の変化と営業制限等でとどめを刺されたともいわれる。そうした中で、存在感を示し続けた同社がコロナでも大きな影響を最小限に留めたのはある意味で必然といえる。
製造小売として磨いたスピードと柔軟性
同社最大の強みは製造小売としてのスピード感と柔軟性だ。もともと、自社で企画から製造販売までを行うビジネスモデルで、流行りの商品を研究し、すぐに商品化することで“旬”を逃さず、タイムリーに売り切ることで低価格とトレンドを備えたアパレルとして躍進した。
生産拠点も早くからASEANに移し、低コストでの生産体制を構築。不況や有事にも強い基盤は確立していた。
一方で、国内市場の縮小を見据え、中国進出を果たしたものの、思うように利益を上げられず、さらなる躍進を遂げることにはブレーキがかかった。その間に、新興アパレル企業やEC化率の高まりで徐々に存在感を薄め、一介の低価格帯婦人アパレル企業に収まりつつあった。
中国撤退でトンネル脱出
だが、18年に中国から完全撤退したことで、比重を再び国内へシフトすると徐々に勢いを取り戻す。そうした中で、新型コロナウイルスが発生し、またしてもブレーキがかかるが、ここでEC化が加速したことが、同社にとってはいい具合のアクセルとなった。
店舗の拡大ペースに比べ、ECへのシフトは緩やかだった同社だが、低価格でトレンドを反映したアイテムは、ECとの親和性が高い。加えて、ECではよりユーザーの声を取り入れやすく、同時に自社企画の発信もしやすいため、同社の強みをより活かすことができる。
象徴的なのは、コロナによるテレワークの浸透だ。アパレル全体で見れば、洋服の必要性をさらに下げるマイナス要因だが、低価格でカジュアルなラインを軸とする同社にとっては、「必要だけどお金をかけるほどではない」微妙な存在となった洋服に新たな価値を付加し、提案する絶好の機会となった。
EC化率高め、訴求力ある商品づくりで強みを最大化
実際、同社はテレワークにおけるファッションのポイントをSNS等を活用し積極的に発信。それに呼応したアイテムを独自開発するなどで、売上を伸ばした。女性社員比率が高い同社だけに、働く女性の深層心理を理解している点も共感を呼ぶ企画立案に大いに貢献した。
他社の動向や市場トレンドを見極めてから、スピーディーに商品開発する「後出しじゃんけん型」から、時代の流れに合わせた商品開発とその提案によって顧客を引き付け、トレンドをつくるスタイルへとシフトしたことで、同社はもともとの強みをより効果的に活かせるようになったわけだ。
EC化率を高めることは873店舗(21年5月末)を誇る店舗とのさらなる相乗効果も期待できる。オムニチャンネル化の推進はもちろん、オンラインショップとのより立体的な連動企画の実施など、販促および顧客の利便性のさらなる向上にもつながる。
また、コロナのような有事の際の補完的役割も期待できる。
同社もEC化に注力する方針を固めており、22年5月期にはEC化率を今期の8%から10%とすることを目標に定めている。
これらにより、同社は22年5月の連結業績を、売上高470億円(当連結会計年度比3.6%増)、営業利益45億円(同19.5%増)、経常利益45億円(同13.3%増)、親会社株主に帰属する当期純利益29億円(同20.6%増)と見込む。
マネすることで売れ筋の開発コストを下げ、確実に売れる商品づくりに徹する負けない戦術から“流行りがなくなった”洋服に買ってもらえる価値づけをして提案するスタイルに進化したハニーズ。まさにスピード感と柔軟性がなせる業を最大限に活かしながら、同社はここ数年の下降トレンドを脱し、再び上昇曲線を描くことになりそうだ。