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JA全農たまご 代表取締役社長 小島 勝
卵の集荷から物流、企画提案まで、フルラインアップの強みを生かす!

2005年、全国農業協同組合連合会(全農)の鶏卵販売事業のすべてを移管し、設立されたJA全農たまご(東京都)。全国の営業・物流拠点、生産者とのネットワークを強みに、鶏卵市場でトップシェアを誇る。今年は新商品を積極投入し、さらなるシェアアップを図る。小島勝社長に経営戦略を聞いた。

伸長する卵生産量、約16%のトップシェア

小島 勝(こじま・まさる)●1982年4月、全国農業協同組合連合会入会(福岡支所畜産生産部)。2011年1月、全農本所畜産総合対策部次長。16年6月、JA全農たまご常務取締役。同年11月、代表取締役社長就任

──JA全農たまごの鶏卵事業にはどのような特徴がありますか。

小島 われわれは全農の100%子会社で、全農グループの鶏卵事業を一手に引き受けています。大手ナショナルチェーン、有力リージョナルチェーン、生協、そして鶏卵専門の卸売業などのお客さまへの販売を通じて、日本の生産者の卵を全国の消費者にお届けしています。

 全国規模で事業を展開しているということもあり、当社の発表している鶏卵の取引価格は、農林水産省による「安定基準価格」の指標にも使われています。業界のリーディングカンパニーとして、鶏卵事業ではフルラインアップの機能を提供しています。

 フルラインアップというのは、集荷、物流、企画提案、卸、ブランディング、宣伝など、鶏卵に関するありとあらゆる機能です。これを流通業のお客さまに提供しています。われわれは全国の鶏卵生産者と取引しており、営業所や支店、物流センターも全国に設置しています。こうした全国にネットワークを持つ当社ならではの事業を展開できるのがいちばんの強みだと考えています。

──2016年をどのように振り返りますか。

小島 国内での卵の生産量は年間250万トン前後と言われています。農林水産省の統計によると16年の生産量は256万トンで、対前年比1.6%増と順調な伸びを示しています。われわれは40万トン前後を取り扱っており、約16%のシェアを占めています。

── 生産量が伸びた要因をどのように見ていますか。

小島 1つは家庭での卵の消費の伸びです。理由として考えられるのは、一昨年に厚生労働省による「日本人の食事摂取基準」が改定され、コレステロールの摂取基準値が変わったことです。卵はコレステロールが多く含まれるため、これまで1日1個が適量とされていましたが、コレステロールは体内で常に一定に保たれるように調節されており、1日に2個以上食べても、脳卒中や心臓病に影響はないといわれています。こうしたこともあって、家庭での消費は確実に伸びており、1人当たりの年間消費量は約10kgに達しています。今年5月の消費量も前年同月を上回りました。このほか、総菜やスイーツなど中食分野での業務需要の伸びもあります。

 もう1つは価格の安定です。牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵といった動物性たんぱく質を含む食材の中で、牛・豚・鶏はすべてこの1、2年のあいだで価格が上がってきています。しかし鶏卵については、多少上昇傾向にはあるものの安定しています。国内で供給できる動物性たんぱく質を摂取できる食材として、手頃な価格を維持できているのです。

──卵は物価の優等生と言われます。価格が安定している理由は何ですか。

小島 生産性が向上していることです。たとえば以前は、鶏が1年間に産む卵の平均数は250個ほどでしたが、今や300個超にまで上がっています。鶏の健康を維持する飼養管理、衛生管理、そして育種改良という技術革新により、鶏種の性能が飛躍的によくなっています。これが大きな要因です。

 物価の優等生とひとことで言いますが、その陰には生産者の大きな努力があります。飼料の価格に関しても非常にシビアです。だからこそわれわれは、ウィン・ウィンの関係になれるような提案を生産者にしなくてはいけないし、流通業にもそんな提案をしていきたいと考えています。

特許を取得した「とくたま」、新商品を積極投入

──17年度の重点施策は何ですか。

小島 17年度は新商品を積極的に投入しています。

 われわれの既存商品に「しんたまご」という商品があります。この商品は、飼料に国産玄米を加えたほか、健康維持をサポートするオメガ3脂肪酸を強化しています。オメガ3脂肪酸とは亜麻仁油やエゴマ油などの植物油に含まれているα-リノレン酸、魚油に含まれているDHAやEPAなどの脂肪酸の総称です。しんたまごは一般の卵と比較して、α-リノレン酸を約3倍多く含んでいます。

 この「しんたまご」の“兄弟”に当たる位置づけの商品として、7月に発売したのが「とくたま」です。「とくたま」は、卵かけご飯にとくに適した生食用鶏卵を生産するための飼料で飼養しました。通常の飼料に加え、糖蜜・魚粉・米油を最適比率で配合していて、通常の飼料に含まれている動物性油脂は使用していません。JA全農の畜産部門や研究所などを含めて全農グループ一丸となって開発した商品で、飼料については特許を取得しました。「とくたま」はオンリーワンの、非常に尖った商品です。今後、さらに商品に磨きをかけていきたいと考えています。

 また、同時期に「ふつうのたまご」を発売しました。消費者が思わず選んでしまう卵というコンセプトを掲げ、選びやすいネーミングで、パッケージデザインも店頭で目につきやすくしました。飼料には植物性たんぱく質飼料を使っています。

 いずれの商品もまずは東日本で先行販売し、順次全国へ拡大する予定です。ナショナルブランドの商品として、われわれの強みを発揮し、今後も商品開発を強化していきたいと考えています。

── 商品開発で重視していることは何ですか。

小島 鶏卵産業を持続可能(サスティナビリティー)なものにするために貢献したいと考えています。生産者と協力して、平飼い卵や放し飼い卵をはじめ、オーガニック卵などの商品開発に取り組んでいることもその1つです。

 また、卵という身近な商品だからこそパッケージも重要になります。たとえば、デザインの見栄えをよくしたり、生産者の顔を載せてつくり手が見えるようにしたりしています。このほか、パックの中に紙ラベルを封入する新タイプのパックを前述の「ふつうのたまご」には採用しています。従来品はパックにラベルを貼りつけるシールタイプが主流でしたが、パックとラベルを分別廃棄しやすいと評判も上々です。

── 加工品ではどのような商品に力を入れていますか。

小島 温泉卵やゆで卵などに力を入れています。なかでも、「とろとろ半熟ゆで卵」という商品は、黄身がしっとりした半熟状に仕上がっており、非常に完成度の高い商品で好評です。このほか、加工業者の使いやすさを重視し、割卵して卵殻を除いた「液卵」も取り扱っています。これも、厚焼き卵などの卵料理やパンやスイーツの原料として販売が伸びています。

消費者に直接提案、レシピ動画を配信へ

── 販売先である流通業との取引に変化はありますか。

小島 ドラッグストア向けが伸びています。ドラッグストアというと、やはり「健康」や「予病」がキーワードになってきます。われわれは、「しんたまご」をはじめとして葉酸を添加した栄養強化卵など、健康を意識した商品をラインアップしていますので、ドラッグストアに適した商品を提供できます。また、全国に物流拠点を持っていますから、効率のよい物流も提案できます。さらに、これからはEC(ネット通販)向けについても提案を強化していきたいと考えています。

── 販促施策で力を入れていることはありますか。

小島 消費者のお客さまに卵を食べてもらうことが何より大切だと考えています。その点で、お客さまに直接提案できる機会として有効ととらえているのが料理レシピです。

 料理レシピは、本社に設置したキッチンスタジオを使って、当社の管理栄養士が開発しています。食品スーパーのバイヤーさんと一緒に開発することもありますし、外食向けにメニューを開発し商談の際に提案することもあります。また、サラダのレシピの場合はドレッシングのメーカーさんと組んで企画提案をするなど、クロス・マーチャンダイジングにも力を入れています。

 昨年度から試験的に取り組んでいるのは、料理の手順がわかるレシピ動画です。卵パックに動画のリンクを記載したり、売場でモニターを設置したりすることを企画しています。

 また、小学生を中心にした「親子料理教室」を長年、全農と一緒にやってきています。将来のファンづくりにつながる取り組みですから、今後も続けていきたいと考えています。

── 昨年8月、西武新宿線「下落合」駅前にスイーツ店「たまごCOCCO by JA全農たまご」を出店しました。ねらいは何ですか。

小島 われわれの直接の取引先は流通業のお客さまです。消費者のお客さまとは間接的に接しています。ですから、消費者のお客さまに、卵のおいしさを伝えていくための試みとしてスイーツ店を出店することにしました。当社としては初の試みで、「しんたまご」を原料にプリンやロールケーキなどのスイーツを、パティシエによる手づくりで販売しています。

 消費者のニーズを探るという面では非常に役に立っています。ただ、固定客は増えていますが、1店舗では販売量が少ないため、より広くお客さまへ伝えていくことがこれからの課題です。今は製造と販売のノウハウを蓄積している段階です。今後、多店舗展開し事業として軌道に乗せたいと考えています。

全国ネットワークと全農のグループ力

──同業他社との差別化ポイントは何ですか。

小島 全国に商品を流通させられるということです。全国の生産者との連携も強みです。われわれは全国にさまざまな規模の生産者とのネットワークを持っています。

 卵の自給率は96%と畜産物でも唯一高い商品です。需要に対してきちんと供給できている産業なのです。生産者の意欲も非常に高い。そうした生産者に生産してもらい、われわれが販売をサポートするというかたちで関係を強化していきたいと思っています。

 全農グループには、畜産経営に役立つ技術を開発する「飼料畜産中央研究所」や、家畜の健康と病気の研究をする「家畜衛生研究所」があります。クリニック制度という、農場の衛生状態を定期的にモニタリングし、チェックするシステムも持っています。全農と組み、技術的なサポートもできます。既に多くの生産者に活用いただいています。

──全国に拠点があり、全農グループの協力が得られるのが強みですね。

小島 全農には「畜産生産部」があり、畜産物の飼料原料の輸入も手がけています。研究所に加え、飼料の工場もあります。そうしたグループとしての総合力を結集したのが、飼料から食味までこだわった「とくたま」という商品です。商品開発において、グループとしての総合力は非常に大きいと思っています。

 また、そうしたグループの力は営業活動に活用できます。農畜産物を広く扱うのが全農の強みで、グループには畜産物以外の米や野菜などを扱う会社もあります。将来的には卵の提案だけでなく、流通業のお客さまのニーズに応じて農畜産物も提案できるようにしたいと思っています。

──中長期的にどのように成長していこうと考えていますか。

小島 国内では今、卵の消費が伸びています。そのなかで、卵のことであれば隅から隅まで解決できるような会社になりたいと思っています。集荷、物流、企画提案まで一貫して提供するには、一定の取扱量がなければできません。そのために、販売数量を伸ばすことに注力したいと思います。中食・外食向けの需要の開拓にも力を入れていく考えです。

 社員に伝えているのは、「迷ったときには経営理念に立ち返り、それに沿った仕事をしよう」ということです。われわれの経営理念は、「新鮮、美味、安心な商品」、そして「高品質なサービスの提供」です。高品質の商品を生産者につくっていただき、高品質なサービスを提供することで、小売業や消費者のお客さまに喜んでいただく。それを通して日本の鶏卵産業に貢献し、ひいては日本の食と農の充実につながればと思っています。