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ネットスーパーと実店舗の両輪で成長 西友最高経営責任者代行 ミッチェル・スレープ

2008年4月に西友(東京都)が米ウォルマート(Walmart)の完全子会社になってから約10年がたつ。同社は他社に先駆けてネットスーパー事業を開始するなど、先進的な取り組みを続けてきた。西友は今後、どう成長していくのか。今年2月にCEO代行に就任したミッチェル・スレープ氏に聞いた。

重点施策はネットスーパー、楽天との提携も順調

──2017年を振り返るとどのような年でしたか。

スレープ まず、18年はウォルマートが西友を完全子会社化して10年の節目の年です。この10年間、西友は売上高を伸ばし続けました。また、直近4年間は既存店売上高もプラス成長を続けています。

1967年8月16日生まれ。カンザス州ウィチタ出身。ウィチタ州立大学卒業後、サンダーバード国際経営大学院にて国際マネジメント修士号取得。1995年米ウォルマート(Walmart)入社。国際部門の不動産・建築エリアを担当。その後、M&A、業態開発、店舗運営などの要職を歴任。その間、アルゼンチン、韓国、メキシコ、インドに赴任。2015年西友COO就任。2018年2月、西友およびウォルマート・ジャパン・ホールディングスCEO代行(現職)

──とくに重点的に取り組まれたのは何でしょうか。
スレープ
 ネットスーパー事業です。配送センターを効率的に活用することで、ネットスーパー事業を伸ばしてきました。この事業が成長したことで、既存店売上高にもプラスの影響を与えています。

 今年の下半期には楽天(東京都/三木谷浩史会長兼社長)との提携で、「楽天西友ネットスーパー」という新たなビジネスも始まります。こういった取り組みはすべて17年から種をまき始めていました。

──今年1月に楽天との提携を発表されましたが、その後の進捗はいかがですか。

スレープ とても順調に進んでいます。下半期に楽天西友ネットスーパーを開始するという、従来の予定通りに進んでいます。

西友と楽天は考え方が似ており、われわれはともに国内ネットスーパーのリーディングカンパニーをめざしています。

──ネットスーパー事業はどういった顧客層をターゲットにしていますか。

スレープ 幅広いお客さまにご利用いただきたいというのが目標で、とくに性別、年齢は限定しておりません。

18年1月、楽天との提携を発表。下半期から「楽天西友ネットスーパー」を開始する

──ネットスーパーと実店舗の今後の投資バランスについてはどのように考えていますか。 

 ネットスーパーは西友の中でも急速に成長している事業です。潜在的な可能性として、どこまで成長できるのかというのを見極める必要があります。

スレープ バランスよく、両方に投資する予定です。われわれが想定しているよりも、日本でネットスーパーの普及が早ければ、ネットスーパー事業への投資の比重を重くします。お客さまのニーズを見ながら、それに合わせて投資する予定です。

──将来的にネットスーパーと実店舗の売上高の比率はどのようになると思いますか。

スレープ 今は圧倒的に実店舗が多い。ネットスーパーは開始してからまだ日が浅いからです。ですが、ネットスーパーの伸び率は非常に大きい。今、小売業界がこれまでにないくらい大きく変わっています。

新店よりも既存店改装、EDLPをさらに深める

3カ月間価格を変えないという「プライスロック」。対象商品を拡大し続けている

──今後の出店戦略について教えてください。

スレープ 新店はチャンスがあれば出したいと考えています。しかし、現在は未来の新しい西友を既存店の中でつくるために、改装に力を入れています。全店舗を対象に、店舗の若返りを図っており、毎年、大小合わせて30~40店舗を改装しています。前期は大森店(東京都品川区)、ひばりが丘店(東京都西東京市)などをリニューアルしました。改装によって、客層も広がるし、来店頻度も高まり、1人当たりの買い上げ点数も上がります。

──店舗事業で好調だったものは何かありますか。

スレープ 生鮮食品です。西友は、品揃えの最適化を図りながら、品質をよりよくしていく取り組みを進めています。とくに、青果、畜産の数字がかなり伸びています。

 これができるのは、「アンガスビーフ」のように、ウォルマートのグローバル調達網を活用して、スケールメリットで高品質の商品を安く仕入れられるような、もともとすぐれた商品があるからこそできる施策です。

 世界中を見ても、生鮮食品はネットスーパーと同様、ウォルマートグループ全体で成長している分野です。

より効率的な運営をするための実験を行っている柏東店

──価格政策についてはどのようにお考えですか。

スレープ 価格は下げ続けます。それがわれわれのビジネスモデルだからです。つねに効率改善することによって、無駄なコストを削減し、浮いたお金を商品の値下げに投資します。このウォルマートのビジネスモデルがあったから、西友は長く存在し続けることができています。

実験店舗では品出ししやすい棚を導入している

 EDLP(エブリデー・ロー・プライス)施策の1つである「プライスロック」はお客さまからも高く評価していただいています。プライスロックはお客さまに対して3カ月間価格を固定するという約束です。今年5月にはさらに食品・日用品のプライスロック対象商品を約600品目追加し、平均で7%値下げしました。今後も対象商品を拡大していく予定です。

──さらに効率的な店舗運営をするために、どのようなことに取り組んでいますか。

スレープ 現在、より店舗を効率的に運営するための実験をしています。物流センターから店舗までの商品の運び方や、品出しのプロセス改善、それぞれの部門での管理方法。それらすべてのやり方を見直しています。もちろん、接客レベルは落とさずにです。

現在、店舗効率化によるコスト削減効果を商品価格や品質・鮮度および利便性に再投資することでお客さま価値を高める、「私たちの約束」プロジェクトを進めており、その実験を柏東店、竹の塚店、永山店の3店舗で実施しています。下半期にはもう1店舗追加する予定です。そこで得たノウハウを新店や改装店に反映し、広げていきます。

PBの開発は英アズダをモデルに

──プライベートブランド(PB)の開発状況について教えてください。

スレープ 西友では「みなさまのお墨付き」というPBを展開しています。これは開発時に実際にお客さまのご意見を聞き、お客さまから高評価を得ない限り商品化できない、という仕組みで開発された商品です。お客さまの声を取り入れて開発しているという点で、このPBは世界のウォルマートグループの中でも高い評価を得ています。

PBの「みなさまのお墨付き」。商品開発時に顧客の意見を取り入れ、多くの支持がない限り商品化されない 

このアイデアはウォルマート傘下だった英アズダ(18年4月、英セインズベリーと合併)の「Chosen By You」というPBを参考にしています。開発の背景には28カ国にあるウォルマートグループの存在があり、それぞれのノウハウを学び、自分の国で生かしていくことができるのがウォルマートの素晴らしいところです。

──商品政策(MD)についてはどのようにお考えですか。

スレープ 特別なものを用意しています。後日発表させていただきますが、画期的な商品を販売する予定です。ぜひ今後も注目してください。

──次に、プロモーション施策についてお聞きします。1年前から、働く女性をターゲットに「やっぱコスパ」というキャンペーンを行いました。手ごたえはいかがですか。

スレープ このキャンペーンは成功しました。ネットスーパー事業と同様、若い主婦を軸足に置きながらも、より幅広い層のお客さまに低価格で価値ある商品を提供していきます。これまで無事プラス成長を重ねることができたのも、そのおかげです。

──西友のプロモーションはわかりやすくてユニークなものが多いです。では、今年はどんな印象的な販促を行う予定ですか。

スレープ 今年2月に「安いクセして。」というキャッチフレーズを用いて、プロモーションを行いました。これは価格が安いにもかかわらず、品質がすぐれている商品を販売する、という意味です。お客さまからも評価いただいたので、これを続けていきたいと考えています。このキャンペーンを主軸に、お客さまにワクワク楽しんでもらえるようなプロモーションをいろいろやっていきたいと考えています。

女性リーダーを育成、初の地区長誕生

──人手不足問題についてはどのように対策しますか。

スレープ いろいろなプログラムを実施しています。まず、採用チームを本部に設置し、多種多様な人財を採用するようにしています。

 また、採用するだけでなく、成長し続けてもらうことが大事です。15年からはウォルマートグループ共通で実施している「Woman In Retail(ウーマン・イン・リテール)」というプロジェクトも開始しました。これは、店舗アソシエイトの約7割を占める女性の活躍・成長を通じてビジネスを成長させることをめざし、店舗の女性社員を対象としています。われわれのビジネスに関していろいろなことを学んでもらい、女性リーダーの育成や将来の女性リーダー候補者を発掘することを目的としています。これまでトータルで約220人が参加し、初めて女性の地区長も誕生しました。

 女性のお客さまが多いことからも、多種多様な女性リーダーを育成するというのはわれわれにとっても優先順位の高い問題です。

──では、スレープCEO代行のミッションは何ですか。

スレープ 西友はこの10年、成長軌道に乗り続けてきました。私のミッションはその成長を続けることです。お客さまにより品質の高い商品を安い価格でお届けすること。そのために運営の効率化を図ること。まだまだやれることはたくさんあります。その変革を、スピード感を持って進めていくことです。

──急激にビジネスを成長させるために、時間を買うという意味で、現在、日本でM&A(合併・買収)を行うことは考えていますか。

スレープ とくに今すぐM&Aを行うというプランはありません。ただ、チャンスがあれば検討する可能性はあります。お客さまによりよいサービスを提供するにはどうすればよいか、という視点で考えています。

──一方、アマゾンジャパン(東京都/ジャスパー・チャン社長)は急成長を続けています。どのように対策しますか。

西友は重点施策の1つにネットスーパー事業を挙げる
 

スレープ われわれは以前から生鮮食品を取り扱ってきましたので、生鮮食品の販売の仕方を熟知しています。ネットスーパーにも力を入れています。さらに楽天とのパートナーシップで、販売力をさらに強化していきます。

──今後の西友、ウォルマート・ジャパンの経営体制について教えてください。

スレープ 短期的には大きな変更はありません。もちろん長い目で見れば、企業の展開フェーズにおいて最適な経営体制を構築する必要がありますから、当然必要に応じて変化していくでしょう。

──ウォルマートのダグ・マクミロンCEOとはどのようなお話をしているのですか。

スレープ 楽天との提携でダグが来日したとき、「スピード感を持って、どんどんチャレンジするように。Go fast!」と言われました。ダグの言うとおりです。小売業界は今までにないスピードで変わっており、今いる場所に安住するという選択肢はありません。

──最後に、スレープCEO代行は西友に来て約3年になりますが、西友の強みや特徴的だと思うことを教えてください。

スレープ 西友の社員にウォルマートカルチャーが根付いていることが印象的でした。お互いにフランクに、透明性を持って接するというオープンな文化です。そして、現状に満足せず、つねにビジネスをよくしていこうという情熱。これもウォルマートのDNAです。