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デジタル×外商×富裕層 三越伊勢丹がめざす「特別な百貨店」に未来はあるのか

三越伊勢丹ホールディングス(東京都/細谷敏幸社長)の2021年3月期連結業績は、売上高が対前期比27.1%減の8160億円、営業利益は209億円の赤字(前期は156億円の黒字)、当期純利益410億円の赤字(前期は111億円の赤字)だった。コロナによる臨時休業や景況感悪化による消費の低迷などが影響した。同社の本格的な巻き返し策とは?

三越伊勢丹のめざす新しい百貨店が、業界浮上の起爆剤となるか

インバウンド消失が鮮明に

 都内の旗艦店がコロナの影響をもろに受けた。前期実績比での減収額は、伊勢丹新宿本店が670億円、三越日本橋本店が317億円、三越銀座店で384億円だった。前期522億円だった免税売上高は46億円に激減。まさにインバウンドが“消失”したことが数字でも証明されたかたちだ。

 百貨店からの変態―—。苦境が続く百貨店業界は、コロナ禍でいよいよ窮地となり、ビジネスモデルの抜本改革が唯一の生き残り策といえる状況にある。

 そうした中で、業界トップの同社が練り直しの末に示した中期経営計画は、百貨店が百貨店として存続するための可能な限りの施策が熟慮の末に取捨選択をしながら、したためられたものとなっている。

復調のキーワードは「特別」

 同社が目指す新しい百貨店のかたち。それは「特別な」百貨店だ。簡単にいえば、顧客を富裕層に大幅にシフトし、デジタル化によりパーソナル対応を強化した次世代型百貨店への深化といえる。

 それ自体に特別に真新しさはない。だが、スーパーやショッピングモールとの境界があいまいになり、居場所が中途半端になっていた百貨店の、ある意味の原点回帰と本格的なデジタル化への対応であり、長くもがき続けた百貨店業界がようやくゴールを明確にしたといっていいだろう。

コロナ禍で鮮明になったターゲット

 ハラを決めさせたのは、コロナで鮮明になった富裕層のロイヤリティの高さだ。同社代表執行役員社長の細谷敏幸氏はコロナ禍での顧客の動きについて次のように述べている。

「 ロイヤリティの高いお客さまが戻ってきた。商品分類別に見ると、ハイタッチなサービスが必要な MD はコロナ禍でも非常に好調だ。例えば、宝飾時計、化粧品、美術。リアルでしっかりとした接客を行い、ストーリー性を持った中でお買い上げ頂いている。そこ(そうしたカテゴリーの好調さ)はより際立っていると感じている」。

 もともと上質な顧客が集う特別な場所が百貨店といえるが、いつの間にか集客を意識するあまり、マスを相手にした品揃えとなり、大衆化。その結果、柔軟に深化を続けるショッピングモールやスーパーとの差が薄れてしまった。

 コロナ禍では、資産をさらに増やした富裕層が百貨店に流れ、高額品を軸に旺盛な消費活動を行った。全体の売上が低迷していたこともあり、逆に「際立った」ワケだ。

  元来、 売上の主軸であった「外商」というビジネスモデルが、やはり不況でも強いことが証明されたといえ、同社がそこに活路を見出すのはある意味で自然の流れともいえる。

 ただし、単に富裕層に的を絞るだけでは、これまでと大きくは変わらない。そこで同社は「次世代型外商」の推進へ5つの施策を示した。

 (1)新宿と日本橋両本店の“憧れと共感”の象徴へのリモデル(2)地方の中小型戦略の完成。(3)リアルとオンラインのシームレスな顧客体験価値の提供(4)2.8次産業として仕入れ専門からの脱却(5)外商セールスとバイヤーの協業による新しいMDとサービスの拡充。

 これらは、富裕層の満足度を高めるための商品力、店舗価値の向上が軸となり、「特別な百貨店」としての上質感を追求する取り組みとなる。富裕層や上顧客をターゲットにするといっても、厳選するわけでない。「いつかは買ってみたい」と思わせる憧れの対象としてのブラッシュアップであり、潜在顧客への共感も見据えた店舗設計、品揃えを徹底する。

 DXも本格推進する。絞り込んだ客層をより深く知ることで、最大限の満足度を追求するためだ。

「年収 1000万円以上のお客さまはこの 10 年で 2 倍以上になり、かつ、情報が増える中で価値観や感度が高まっている。その中で選ばれるためには、全てのお客さまと深く繋がり、付き合うことが必要。例えば外商においては当社のデジタルや、バイヤーとセールスを組み合わせるなど世界でも例があまりないことが当社は出来る。そこでのダイレクトマーケティングをベースに、お客さまのお困りごとの解決のため新たなサービスや商品を作り出していく」と細谷社長。小売では最上の接客力をデジタル化でさらに進化させ、「最上のおもてなし」を実現する。

 グループ力も最大化する。同社はこれを「グループ連邦」と呼び、旅行、金融、スーパーなどの各グループ企業との連携を強めることで“経済圏”とし、内部での還流を促進。捉えた顧客を流出させない体制を整備する。

 いずれの施策もポストコロナを見据えた各企業の戦略と根本は同じだ。構造改革とデジタル化――。それでもターゲットを富裕層に定め、「特別な百貨店」を目指すという方向性はポジショニングが十分に考慮されており、戦略としては理にかなっている。

 デジタル化は均質化を加速させる側面もあるが、「特別感」だけはたとえ技術が進歩してもリアルではカバーしきれない。そこも踏まえての着眼とするならば、同社の中計が示す百貨店の未来形は、ひとつの模範解答に近いといえる。

 

もちろん、実現にはなによりも社員の意識改革が重要になる。これこそが最大の壁かもしれない。

 

 同社は22年3月期、営業利益30億円を見込み、中期的には18年度水準(営業利益292億円)を回復。その後、過去最高営業利益を更新し、営業利益500億円をめざす。

 2期連続の赤字をバネにV字回復を宣言した三越伊勢丹ホールディングス。時期は定められなかったが、その実現は、そのまま百貨店業界の行く末を左右するといっても大げさではないだろう。