メニュー

グローバルSPAと真逆の理由でSDGsを強化するスーパーブランド、その隠された高収益の真実

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長がウイグル 問題について記者たちからしつこく質問され、その回答に批判が集まった。この問題をとりあげながら、アパレル業界でハイブランドとユニクロやH&MなどのグローバルSPAが推し進めているSDGs(持続可能な開発目標)の背景が全く異なることについて説明したい。さらに今回は、これまで私が一語ってこなかった「メゾン」と呼ばれるスーパーブランドについて説明したい。当然、私の経験の中には、こうしたトップブランドのビジネスモデル、および、日本のそれとは全く異なる仕事の進め方に関する分析と日本企業では考えられない高収益の秘密を知っている。今日は、誰も語らなかった、トップメゾンと呼ばれるスーパーブランドのビジネスモデルについて、リアルな実態を語りたい。

imamember/ istock

不可逆的に進行するデジタル化、戦略をいかに立てるか?

 本論に入る前に言いたいことがある。先週、私は「世界的アパレル不況のトリガーはEC化にあり」と説明した。ECでは「同列横比較」と「単品勝負」にあうため、ユニクロなどグローバルに展開するSPAプレイヤーと単品比較で負ける。本来、クロスマーチャンダイジングや空間演出で作り上げる付加価値(ブランド力)が壊れ、コスト勝負になる。私が論理展開を行い説明したのはこういうことだ。これをもって、幾人かの読者から、「では、ECをやめてリアル店舗に戻せば良いのか」という批判をもらった。だが、私は前稿においてEC化を否定していないし、ましてやリアル店舗に戻せ、なども言っていない。

 私は、ECが不況のトリガーとなったという事実から、「不可逆的に進行するデジタル化において、いかなる戦略を立てるのか」を本稿を通じて読者に考えてもらいたいのだ。僭越ながら、「ECがトリガーとなった」からといって、ではリアル店舗にもどそう、と短絡的に考える発想こそ、バブル時代の勝利の呪縛から逃れず、成熟社会でも負け戦を繰り返している最大の理由であると自らの思考の浅さをご認識いただきたい。

 

20年も前からSDGsに取り組み、従業員満足度も高い企業

 先日、あるアナリストが世界規模の調査を行った結果、「世界の消費者の中で、圧倒的に多い層が『環境配慮型衣料品』を求めている」とぶち上げた。この調査結果は、私からみると理解不能な結果であった。それでは、この調査結果がいかに作為的かつミスリードであるか、ハイブランドとの関係を踏まえ説明しよう。

 さて、私は、どうも調査結果がおかしいと感じ、それらの類似調査現場のいくつかに同行した。そこで行われているのは驚くべき素人手法だった。例えば、以下の如くである

 このように、私が実際に見た調査手法は、おおよそフェアとは思えないものが多いかマーケティングの基本をないがしろにするものが多かった。移り変わる世の中の消費者心理に置いていかれないよう、私は可能な限り、実際の調査の場に立ち会っているが、上位職の人間は未熟なジュニアに調査を放り投げ、素人調査が横行していたわけである。

 断っておくが、私は企業のSDGsに大賛成の立場であるが、事実ベースに裏打ちされていない定量データからは何の示唆も生まれないうことだ。

 消費者調査で最も大事なことは、まず自分自身が世の中の人の導線観察から来る「購買ストーリーの把握」を感じ、自分自身が筋の良い仮説を持つことだ。当たり前だが、数字というのは、筋の良い仮説シナリオがあり、それを裏付けるためのものだ

 それでは、話をより具体的な企業活動のケースで紹介しよう。実はいまから20年前、私がコンサルタントとして最初に手がけた仕事はThe body shopを展開するイオンフォレスト(現・ザボディショップジャパン)だった。

 当時から同社は、動物愛護、人権保護、環境に優しいなどを自らの企業活動のコアとしながら、一切の無駄な広告は避ける、いわゆる戦略PRをすでに手がけていた。また、そこに激しく賛同する層(その多くは富裕層である)を囲い込み、ネットなどない時代に口コミで同社のブランドは世界に拡大していった(という話だった)。

 驚くべきは、当時の、従業員満足度(ES)の高さだった。働いている誰もが社会に正しく貢献しているという使命感のようなものを抱き、The Body shopで働くことに誇りを持っていた。これは、まだ経営学も経済学もわかっていない私にとって、とても新鮮だった。

 

SDGsへの取り組みは、超ハイブランドと超ローブランド二択だけ

難民活動を支援するファーストリテイリング

 ファッション誌をみれば、あちこちでSDGsへの取り組みが上げられているが、どれもスーパーブランドであることにお気づきだろうか。前述のマズロー欲求5段階説で説明されている通り、人は、まず自分が生きてゆくという基本的な欲求が満たされれば、社会に貢献したいと思い、さらに高次な欲求に昇華する。

 もっと平たくいおう。先週書いたDo Classe の創業者は、創業時「ペットフード通販に、当時めずらしかった高額通信販冊子を同送すれば富裕層に届く」と考え、同送カタログをしたそうだ。この分析は見事にあたり、当時からカタログ通販は安ものという固定概念を破り、同社の高額品を売るカタログはしっかり富裕層に配られたそうだ。そして、ランズエンドなどの経営をやっていたこともあり、もともと通販業務に明るかった同社は、高額肥料品通販という領域を開拓したのである

 「CPA(成果単価)が、、、」など、横文字を使う人は多いが、こうした相関性を見事に見抜き獲得コストを安価に抑えた手腕はさすがと言わざるを得ない。金がなければ知恵を使えということだろう。あえて言おう。自分の昔の経験でしか語れないコンサルと称する連中の口車に乗っECに参入。Amazonや楽天に滅多斬りにされたカタログ通販企業は後を絶たない。私は、それらの尻拭いを幾度もやった。もちろん、そんな話を信じる方も悪いが。Do Classeは、市場をしっかり見、自分で考え、常識とは逆張りのカタログ通販で勝負を挑み事業を拡大していった。さらに、ブランド化に至っては、代理店に頼むなどという古典的手法に頼らず、むしろリアル店舗こそ最高の広告塔であると考え、立地のよい場所にリアル店舗を出店しブランドを確立していった。

 その後の同社の躍進はいまさら書くまでもないが、 ここでいいたいことは、ハイブランドとは消費者も自我確立・維持欲求など遙か昔に満たされ、むしろ「社会的意味がある自分でありたい」と思う層に訴求をしているということでである。

 例えば、あるトップ・メゾンは、15年前から余った服を赤十字に寄付し、当時、アフリカなどに送っていた。日本でユニクロが猛威を振るっていた時期だったから、「日本人はユニクロしか買えないが、アフリカの難民はハイブランドを着ている」という冗談話をよく覚えている。

 これに対し、ユニクロやH&Mなど、世界規模で事業を展開する企業もSDGsへの取り組みは積極的に見えるが、上記に上げたトップ・メゾンとはやや事情が異なっている。彼らグローバルSPAの中心顧客は年収でいえば300万円程度。とても、社会活動にプレミアム料金を払う余裕などない。彼ら、彼女達の言葉を借りていわせていただければ、「安くてかわいければいい」ということになる。

 しかし、決算発表をしたファーストリテイリング柳井正会長兼社長にウイグル問題について記者たちがしつこく回答をもとめ、「2兆円の売上を支える社会責任」を追求する様をみると、ハイブランドとは違った事情が見えてくる。

 

早くも3刷!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!

アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。

 話はややそれるが、米国GAFAMなども同様、Facebookは幾度もデータ漏洩や活用について問題を起こし、米司法省のやり玉にあげられているが、Appleは一貫してプライバシー保護を主張し、リサイクルや買取、二次流通など、私が何年も前からアパレルでも導入せよ、ということをやっている。こうした動きから価格競争に陥っているスマホの中でiPhoneだけが高価格を維持し日本でも高いシェアを維持している。

 ユニクロの最近のテレビCMをみても、一昔前の世界同一CMのようなグローバルトーンから、いつしか、サザンの曲が流れた身近なイメージを私たちに植え付けようとしているようにみえる。私はAppleのやりかたの方が潔いと感じるが、ようは、経営学でいう「コストリーダシップポジション」をとるユニクロ、ZARAなどのガリバー企業は、その巨大さゆえに社会的責任が重大となり、ハイブランドによるSDGs対応とは別の意味で、まわりからSDGs対応を求められるわけだ。

 ハイブランドが、マーケティング的観点からの対応とするなら、コストリーダーシップであるグローバルSPAは、むしろ必要に迫られ、いや、もっと受動的な意味でいえば、その社会的責任が巨大であるがゆえにSDGs対応が必要となってくる。両社は全く別なのである。

モノマネの先には破滅しかない中間価格帯企業

 問題は、中間価格帯のアパレルだ。このセグメントは、ある意味、社会活動に回せるほど潤沢なブランド維持費用があるわけでもなく、また、社会的責任のやり玉にバイネームで挙げられることもない。某セレクトショップ社長が、「我々は、同じトップスを1000円で売る企業、そして、10万円で売る企業に囲まれ、1万円で売らねばならない」(これは相当難易度が高い)といっていたのが印象的だ。ようはメリハリがないのである。

 社会がとがった人達による構成になってくると、いわゆる勝ち組と負け組の明暗差が、消費者も企業でもハッキリする。結果、超ロープライスか超ハイプライスかの二択に分かれるというのが私の分析だ。冒頭でいい加減な調査を紙幅をとったのは、こうした調査とおぼしきものに、単に数字です、という理由だけで、そもそもの調査設計がいい加減なものを盲信し、製品・市場(顧客)の関係を見ずに対応をあやまると、痛い目にあうということが言いたいわけだ。

絶対にコストと利益を公開しないトップ・メゾン

 ここからはベールに包まれたスーパーブランドの驚くべき収益性の高いビジネスについて解説したい。世界的メゾンブランドの仕事をしていると、奇妙なことを感じることが多い。彼らの会社に入ると、半数以上が外国人で社内はほとんど英語でコミュニケーションがなされている。日本の「ベタ」な仕事のやり方を知っている私は、外国人に日本の仕事ができるのか、といつも不思議に思っていたが、そのカラクリがようやくわかったことがある。

 まず、彼らは、守秘契約を結んでも、売上は教えてくれるがコスト・利益は絶対におしえてくれない。企業再建をやり、常に企業価値をEBITDA (税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益) で考える私は、すぐさま「在庫はどうなっているのか」と聞き直したところ、彼らは「LDP: Landed duty paid 日本に輸入された後の簿価」に、帰りの飛行機代も含め、Ship back (返品) するという。つまり、日本法人は売れようが売れまいが、余剰在庫はゼロである

 一昨年前、日本のアパレルコスト構造について、その実態を公開し波紋を広げた事件があったが、あんなものは大した話ではない。トップ・メゾンの原価構造は、そんなことは比較にならないほど低い。いくら何でもコストがわからなければ在庫量簿価算出ができないということで、そっと友人から見せてもらったことがあり、その低さに驚いた。ここでも、いらぬ誤解を与えぬためあえて書くことを控えるが、我々が有り難がって大枚をはたいて買っているブランド品、そして、二次流通にだしても日本のブランドとは比較にならないほどの高額を維持して買い取りしてくれるブランド品は、恐ろしいほどの低コストで作られ、販売しているという事実を皆知らない。

本国とリージョンのフェアな関係

 さらに驚くことは、ゼネラルマネジャーと称する人と話をすると、日本のアパレルが衣料品をQR(クイックレスポンス)の名の下にドタバタ騒ぎで追加投入していることを全くしらなかった。本国が世界中の売上を分析し、日本側の発注などお構いなしに(若干の参考値にはするが)Ship out (出荷)する。日本では、これをなんとか売り切ることが大命題なのだが、売れ残れば簿価でShip back (返品)すればよい。極めてフェアだ。だから、一件、在庫を押しつけられているように見えても、誰も文句をいわない。ルーチンになっているからだ。

  つまり、ブランドプラミアムによる価格も、広い意味でのマーケティングコストもすべて本国が持つため、各リージョンのミッションは、あてがわれた在庫を売り切る努力をやり、無理ならゼロコストで返品し最後は赤十字あたりに行くという、極めてフェアな分業が保たれていた。ある意味、ユニクロと同じ「売り減らし型」ビジネスなのである。ブランド力が強い、競争力があるということは、かくも有利にビジネスを展開できるのだ。

 オペレーション偏重主義も結構だが、日本のアパレル業界は本気でブランドとは何かという根源的で本質的な課題に取り組んでみてはどうかと思う。売れ残れば「換金する」ことが、キャッシュフロー経営だとばかりにマークダウンを繰り返し、残ったら償却損失をだす。P/L(損益計算書)しか読めないものだから、原価低減しか興味が無い。だから、トップ・メゾンのようにバッグや化粧品のような、ライトオフまでの期間が5年以上の安全在庫商品をメーンに扱うこともできないし、その発想もない。衣料品をSPAでつくって売り切ればタップリ儲かるから、という昔の方程式で、バッグや雑貨のように原価は高いが年々も売れる商品を売り切る方が利益が残るという計算さえしたこともない。一事が万事P/L重主義なのだ。

 この(本物の欧米流の)ブランドビジネスは、恐ろしいほどの利益を企業に与えることになる。私自身がリージョンGM (General Manager)に応募したことがあるから知っているのだが、GMクラスで年収が2~3000万円プラスボーナス、ホールディングのトップとなると、さらに六本木ヒルズなどのマンションがあてがわれ、5000万以上の金をもらっている。

Alexey Shatrov/istock

 当然、社員も1000万クラスがゴロゴロいて、結果、そのビジネスのあまりの違いから、日本のアパレルから人が来る、あるいは、その逆になるということはなく、外資企業は外資企業の中で人が回流する。だから、こうした秘密は日本企業に漏れることはない。

早くも3刷!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!

アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。

下代から積み上げる日本人にブランドが作れない理由

 こうした経験から、トップ・メゾンのブランドビジネスをきいて「イカサマ商売だ」という人がいるなら、そのブランド品を買った消費者の笑顔を見ればよい。高く売る方も、買う方も、双方ハッピーなのである。両方がハッピーなのだから何が悪いのかということだ。

 これが資本主義のルールだし、プライシングの基本的な考え方だ。売上代は、メーカーが決めるのでなくマーケットが決める。ボロボロになったデニムに20万円の値段がついてもおかしくない。欲しい人と売りたい人がいればマーケットは成立する。私たちは、コスト積上げ型プライシングの呪縛からのがれ、商品の面(つら)をみて、原価コストなど関係なく調達コスト、あるいは、製造コストを工夫するというリバース・エンジニアリングを学ばなければ、一生、欧米人からブランドと称して金をもぎ取られ、まじめにコツコツ働いていても、いつしか安価な模倣品で参入するアジアの製造業にコテンパにやられる。

 もはや、日本の製造業は、シャープしかり、東芝しかり、外圧の手を借りなければ、日本人の手では改革はできないし、アパレル産業に至っては総投入量の2%を切っている。

 CPAで顧客をデータベースにいれ、LTV(顧客生涯価値)で回収するなど、とんでもない話である。あなたの扱うブランドはランズエンドのような低価格衣料なのか、希少性とスタイルを訴求するブランド型なのか。ブランドのポジションによって、Acquisitionコストを初期投資とみるべきか、恒常的に発生する販管費と見るべきかによって、投資回収の考え方も全くことなるわけだ。欧米ブランドビジネスの広告料(ブランド維持料といってもよい)は、恒常的原価コストであると考えるべきであり、Acquisition (顧客獲得)でなく、品格を保つ(値引きをしない、恒常的に人目に触れるなど)コストと考えるべきなのだ。

 

早くも3刷!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!

アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)