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コロナ禍で強さを発揮! “回らない寿司屋”から始まったスシローがデジタルに注力した理由とは

FOOD&LIFE COMPANIES(大阪府/水留浩一社長)傘下のあきんどスシロー(大阪府/堀江陽社長)が運営する大手回転寿司チェーン「スシロー」は、コロナ禍で外食産業が軒並み苦戦する中、早期に苦境を脱している。立ち直りを支えたのは、同社が強力に推し進めるデジタル化施策だ。スシローはデジタルを武器にどうやってコロナ禍を乗り越えたのか。

スシローはなぜデジタル化に注力するのか

 スシローは1984年、大阪府豊中市で創業した。当初は回転寿司ではなく、カウンターの内側で職人が寿司を握る、立ち食い寿司だった。21年3月末現在、全国に583店舗を構える大手回転寿司チェーンは、意外にも“回らない寿司屋”からスタートした。

 現在のスシローの店舗は、順番が来たお客を自動で呼び出す自動案内システム、セルフレジなど、入店から退店までほぼ店員と接する必要がないほどデジタル化されている。なぜ寿司屋がここまでのデジタル化を必要とするのかという疑問が湧くが、同社取締役執行役員の小河博嗣氏はこう語る。「そもそも、回転寿司という業態自体が効率性を求めて始まったもの。その流れから言えば、さらなる効率性を求めてデジタル化を進めるのは当然のこと」。

 さらにもう一つ、デジタル化を推し進める強い外力となったものがある。それは人手不足だ。募集してもまったく人が来ずに採用経費だけがかさむ中で、「人がしなくてもよいことをできるだけしなくても済むようにし、少人数で店舗を運営したい」というニーズは、デジタル化への大きな推進力となった。

デジタル化はどうやって進んだか 

 それでは、スシローのデジタル化はどういった歩みで現在のシステムにまで完成されたのだろうか。

 スシローが通常の寿司店から回転寿司に移行した当時、お客は店に押し寄せている一方で、利益率が低いという問題点があった。この原因を探るためにすべての皿にICタグをつけ、どの寿司ネタがいくつ取られているのか、廃棄になる寿司ネタには何が多いかなどの情報を収集することで、廃棄率を下げ利益率をあげることに成功した。これは今でこそIoT(Internet of Things)などと呼ばれている技術だが、この取り組みはまだそのような言葉がなかった時代に始めた先駆的なものだった。

 また、スシローの店舗フォーマットはキッチンと客席が完全に別れている。レーンの中に職人が立ち、注文を受け付けるフォーマットを用いていた時期もあったが、より効率性を求める中でキッチンと客席の完全分離を選んだ。しかし弊害として、客席までスタッフが都度注文を聞きに行く必要が出てきてしまった。この手間を省くため、各テーブルにインターホンを設置する方法に変更したが、それでも応答して注文を書き起こし、キッチンに伝達する人員が必要になる。これらの解決策として導入されたのがタッチパネル式注文だ。

 まず効率性を重視して通常の寿司店から回転寿司へ転換し、皿にICタグをつけて無駄を省き、タッチパネル式注文で手間を省く。そこに自動案内やセルフレジといった接客の自動化が後から加わった、というのがスシローのデジタル化の流れだ。

自動発券機で発行されたQRコードを読み取らせることで、自動で座席を案内する。自動発券機で受付、順番がくれば自動で呼び出し、どの席に座れば良いかは自動座席案内と、着席までは完全に非接触だ

コロナ禍で殺到したテイクアウト注文

 このような流れで、“ほぼ完成された”と言っても良いほどのシステムを備えたスシロー。ほぼ毎月、前年を上回る売上を叩き出し好調を維持していたが、そこに突然押し寄せたのがコロナ禍だ。

20年4月に発令された緊急事態宣言による一部店舗の休業などの影響を受け、スシローの同時期の売上は昨対比で約半分まで落ち込んだ。外食が敬遠され、営業している店舗にもイートイン(店内喫食)のお客がほとんど来ない。その代わり各店舗には、通常の2〜3倍のテイクアウト注文が日々殺到するようになった。大量の注文を捌き、売上の回復を支えたのはデジタルの力だ。

 スシローに限らず回転寿司業界にはもともと年に数回、爆発的にテイクアウトの注文が殺到する日がある。年末・お盆や、母の日などのイベントがある日だ。そもそも回転寿司は、平日に比べて休日の売上が倍程度になるという特徴があるが、これらのイベント時の売上は、休日売上からさらに跳ね上がるという。スシローは、この突発的な需要増加を十分捌ききれるようテイクアウト注文のアプリ・ネットへの誘導や、在庫がないのに注文を受けてしまうのを防ぐ受注管理システムの導入をあらかじめ行っていた。これが、コロナ禍での需要を取りこぼさず、危機をいち早く脱出するきっかけになったのだ。「もしデジタル化を進めていなかったら注文を受け切れず、売上は回復せず、危機を迎えていたかもしれない」と小河氏は話す。

新たにAI領域へ注力

あきんどスシロー取締役執行役員 小河博嗣氏

 さらなるデジタル化への挑戦として、スシローは20年10月、AI画像認識による会計システムの導入を発表した。お客がレーンからとった皿をカメラで撮影、AIが画像識別を行うことで価格と数を計測するもので、計測結果は店舗の会計システムに送られ会計額も自動で算出される。スシローがもともと備えている無人レジなどと合わせ、スタッフと一切接触せずに入店から退店までが完結するようになる。同システムは、21年1月までに奈良三条店など全国3店舗で導入、9月末までに30店舗まで増やす。席を訪ねて皿をカウントする業務が不要になるため、現場からは「今まで導入した効率化設備の中で最も良い」という声も上がった。同技術は画像認識にAIを活用しているが、今後スシローでは収集したデータの分析などにAIを積極的に活用していく方針だという。

 今、スシローがめざすものは、「楽しい食卓」だ。イベントごとやお祝いなど、ハレの日の食事として選ばれることが多い寿司を美味しく楽しんで食べてもらいたい、コロナで落ち込みがちな世の中で少しでも楽しみを感じてもらいたいという思いだ。「デジタルというと“省人化”や“非接触”といった側面に注目が集まりがちだが、それ自体が目的ではない。楽しい食卓を実現し、何を食べようか迷った時に『ほな、スシローいこか』と言ってもらえるような身近な存在になるためのデジタルとして、その力を活用していきたい。」と小河氏は思いを語り、今後もさらなるデジタル化を推し進める姿勢を見せた。