ニトリホールディングスが島忠を奪取し、伊藤忠商事はファミリーマートを実質的に完全子会社化。そしてマツキヨココカラ&カンパニーが誕生を控え、イオンとセブン&アイ・ホールディングスのSM事業再編は完了を迎えた。小売業界はコロナ禍のみならず再編にも揺れた一年だったといえるだろう。その背景には何があるのか? 相関図から2021年の流通業を読み解く。
イオンのSM改革完了 今後はDSにも注力
新型コロナウイルスの感染拡大により、よくも悪くも大きな影響を受けた小売業界。この1年間は、コロナ禍の“特需”を追い風に業績を伸ばしたスーパーマーケット(SM)、ドラッグストア(DgS)、ホームセンター(HC)、EC業界を中心に、M&A(合併・買収)や業務提携、新会社設立など大小さまざまな再編劇がみられた。
国内小売最大手のイオン(千葉県)では、2018年10月に掲げた全国6地域・14事業会社を再編する「SM改革」が2年を超える月日を経てようやく完了。統合方法を協議中だった九州地方では、20年9月にイオン九州(福岡県)がマックスバリュ九州、イオンストア九州を吸収合併するかたちで経営統合した。中国・四国地方では21年3月、マックスバリュ西日本(広島県)がすでに完全子会社化していたマルナカ、山陽マルナカを吸収合併した。
イオングループではSM改革以外でも、ディスカウントストア(DS)企業を中心とする再編もあった。首都圏を中心に小型DSを展開するビッグ・エー(東京都)は、同じイオングループのDS企業アコレ(同)と21年3月に経営統合。物流や仕入れなどを統一することで効率化を図り、25年度には首都圏で500店舗体制を構築するという目標を掲げ、さらなる事業拡大をめざす。21年6月には、DS業態「ザ・ビッグ」を展開するイオンビッグ(愛知県)が、同じく同業態を展開するマックスバリュ長野(長野県)を吸収合併する予定となっている。そのほか、イオンは20年6月に新会社を設立し、同年12月には「未来型DS」を標榜する新業態「パレッテ」の1号店をオープンさせている。
また、ヤオコー(埼玉県)も21年2月、新会社フーコット(同)を設立しており、DS系の新業態を開発するとみられている。コロナ禍で低価格志向が高まるなか、今後はDS業態に力を入れる企業も増えそうだ。
アークス(北海道)もM&Aに積極的な姿勢を見せている。19年9月に伊藤チェーン(宮城県)を完全子会社化したのに続き、21年4月には栃木県を地盤とするSM企業オータニを傘下に迎え入れた。これにより、これまで北海道・東北地方を地盤としていたアークスが関東地方にまで南下するかたちとなった。
ファミマはデジタル関連の提携を強化
セブン&アイ・ホールディングス(東京都)は、20年6月にヨークマートから商号変更した新会社ヨーク(同)を中心に首都圏SMの再編を実施。イトーヨーカ堂(東京都)のSM「食品館」とDS「ザ・プライス」をヨークに移管したほか、「コンフォートマーケット」を展開していたフォーキャストはヨークに吸収合併された。今後はヨークを中心に、サプライチェーンの効率化などに取り組み収益性の向上を図る。
国内では苦戦を強いられているコンビニエンスストア事業では、北米市場でM&Aを進めることでシェア拡大を図る。20年8月には、米子会社の7-Elevenが石油精製会社マラソン・ペトロリアム(Marathon Petroleum)が運営するガソリンスタンド併設型CVS「スピードウェイ(Speedway)」を総額2兆円超で買収することを発表。これによりセブン&アイ・ホールディングスの米国CVS市場シェアは約8.5%まで拡大する見込みで、2位との差を2倍以上に広げて競争優位性を高める。
ファミリーマートは20年8月、TOB(株式公開買い付け)と株式併合によって実質的に伊藤忠商事の完全子会社となることを発表し、同年11月に上場廃止となった。また、伊藤忠商事とともに他社との提携にも積極的に取り組んでおり、9月には伊藤忠商事とファミリーマートの合弁会社が55%、NTTドコモ(東京都)が40%、サイバーエージェント(同)が5%出資する新会社データ・ワン(同)を立ち上げ、購買データを活用したデジタル広告事業を展開する。さらに21年2月には無人店舗システムの開発を手掛けるTOUCH TO GO(東京都)と資本業務提携を結んだ。3月には、全国農業協同組合、農林中央金庫がファミリーマートに資本を出資し、伊藤忠商事を含む4社で業務提携を締結。今後、相互送客や共同での商品開発などで協業する考えだ。
ニトリはDCMから島忠を奪取
HC業界では、DCMホールディングス(東京都)と家具・ホームファッション専門店のニトリホールディングス(北海道)が島忠(埼玉県)を巡って争った。先に動いたのはDCMホールディングスで、20年10月に島忠へのTOBを発表。これに島忠も賛同し、経営統合契約も締結されたが、そこでニトリホールディングスが島忠買収に名乗りを挙げ、DCMホールディングスのTOB価格を大きく上回る価格を提示した。その結果、21年1月にニトリホールディングスは島忠を子会社化し、HC業界への参入を果たした。業界初となる大型の異業種プレーヤー参入により、HC業界のシェア争いはますます激化するとみられる。
「ホームセンタームサシ」を展開するアークランドサカモト(新潟県)によるLIXILビバ(埼玉県:現ビバホーム)の買収も話題となった。アークランドサカモトの20年2月期の売上高は1126億円で、ビバホームの20年3月期売上高は1885億円。「小が大を飲む」再編として耳目を集めた。ビバホームは20年11月に完全子会社となり、上場廃止に。今後両社は持ち株会社を設立し、プライベートブランド(PB)開発や共同物流などに取り組むことでシナジー創出を図る。
クスリのアオキは地場SMを次々と買収
DgS業界では、昨年発表されたマツモトキヨシホールディングス(千葉県)とココカラファイン(神奈川県)の経営統合の詳細が明らかになった。21年10月1日付で、2社が株式交換を実施。効力発生と同時にマツモトキヨシホールディングスはマツキヨココカラ&カンパニーへ商号変更する。統合完了後は、その下にシナジー創出会社の新会社MCCマネジメント、事業会社のマツモトキヨシグループ、ココカラファイングループ(ココカラファインから商号変更)がぶら下がるかたちとなる。マツキヨココカラ&カンパニーは売上高1兆円、3000店舗を有する日本最大級のDgS企業となる見込みだ。26年3月期までにグループ売上高1.5兆円、営業利益率7.0%をめざす計画となっている。
また、DgS業界では同業同士の再編だけでなく異業態を傘下に収める動きもみられた。クスリのアオキホールディングス(石川県)は地場SMを次々と買収し、食品強化の姿勢を強めている。20年6月にはナルックス(同)を、10月にフクヤ(京都府)を買収し、21年5月にはサン・フラワー・マリヤマ(石川県)を傘下に収める予定だ。
コロナ禍で需要が急増しているEC業界についても再編や提携の新たな動きがみられた。楽天グループ(東京都:楽天から商号変更)は以前からネットスーパーなどで協業している西友(東京都)への影響力を強めている。21年3月には米投資会社のK K Rとともにウォルマート(Walmart)から西友の株式を取得。KKRが65%、楽天グループが新たに立ち上げた新会社楽天DXソリューション(東京都)が20%、ウォルマートが引き続き15%の株式を保有することとなった。また、楽天グループは日本郵政(東京都)と資本業務提携を締結。物流やモバイル事業、デジタル化などでの連携を強化する。
アマゾンジャパン(東京都)は、19年9月にライフコーポレーション(大阪府:以下、ライフ)と業務提携したのに続き、東海地方を中心にSMを展開するバロー(岐阜県)とも協業することを発表。21年夏には、ライフと同様アマゾン内にバローのネットスーパーが開業する予定だ。
日本の小売業界は、以前からSMやCVSを中心にオーバーストア化が指摘されているほか、人口減少による競争激化などさまざまな課題を抱えている。加えて、コロナ禍では新しい生活様式に合わせた店舗開発やデジタル化、新たなニーズへの対応など、これから取り組まなければならないことも多く浮き彫りになった。今後も小売業界では、各業態間、あるいは業態を超えてスケールメリットや業務効率化といった観点から生き残りをかけた再編が進行していくとみられる。
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