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セブン、セコマ、神戸物産・・・オンリーワン商品で無競争状態を作る 食のSPA 化!

SPA大

「NB廉価版」のPBでは勝てない時代に

 食品小売の商品政策(MD)において、プライベートブランド(PB)商品はもはや珍しいものではなくなったと言っていい。

 近年は大手食品スーパー(SM)だけでなく、中小チェーンもこぞってPBを開発しており、自社でPBを持たないチェーンも、共同仕入れ機構の共通PBを導入しているケースが少なくない。さらに近頃は大手ドラッグストアもPB開発に力を入れており、グロサリーを中心に低価格な食品PBをSM顔負けのラインアップで展開する企業も現れ始めている。

 こうした環境の変化により、食品小売の商品戦略の潮目も変わりつつある。ナショナルブランド(NB)の廉価版のような旧来型のPBでは差別化ができず、競争において優位性を保つのが難しくなっているのだ。そのような状況下で存在感を増してきているのが、「SPA(製造小売)」モデルによって他社にない独自商品を生み出している企業である。

 元々、SPAはアパレル業界の用語で、1986年に米衣料品小売大手のギャップ(GAP)の当時の会長が自社の業態を「Speciality store retailer of Privatelabel Apparel」とあらわしたことに由来する。シンクタンク大手の野村総合研究所では、SPAを「企画から製造、販売までを垂直統合させることでSCM(サプライチェーンマネジメント)のムダを省き、消費者ニーズに迅速に対応できるビジネスモデル」と定義しており、国内では「ユニクロ」「ニトリ」がそれに当たる。

 食品で考えてみると、SPAモデルそのものである総菜を除けば、「業務スーパー」を運営する神戸物産(兵庫県/沼田博和社長)やセコマ(北海道/赤尾洋昭社長)のように製造機能まで有する企業は少数派。だが、自社で商品スペックをコントロールして、他社にない独自性ある商品の開発を進めている食品小売は増えており、本特集ではそうした企業を食のSPA化企業と定義し、その取り組みをレポートしている。

独自化しながら収益性も!SPA化しない手はない?

 ここであらためて、SPA化することのメリットについて考えてみたい。

 第一にあげられるのが、「独自性」を追求しやすいという点だ。リアル店舗を構える小売業は日々お客と接しており、「消費者がどのような商品を求めているか」というニーズを簡単に拾うことができる。実際に、本特集でもレポートしている「クイーンズ伊勢丹」運営のエムアイフードスタイル(東京都/雨宮隆一社長)では、レシートアンケートでお客の意見を拾い、商品開発に生かして成果を上げている。また、実際に売場でどう展開するかを考えながら商品を企画・設計できるのもSPAのメリットといえよう。

 もう1つが、利益面のメリットだ。非食品のSPAにもいえることだが、SPAモデルは中間流通業者を挟まないため、そのぶん利益を確保しやすい。とくに製造機能を有するSPA企業は、製造工程におけるムダを排除できるため、コスト削減にも取り組みやすい。

 独自性を発揮しながら、高い収益性も期待できる──。これが、食品小売がSPA化する主な利点である。

 一方、SPA化のデメリットとしては、これも非食品のSPAとも共通していることだが、在庫リスクを抱えてしまうという点がある。自社工場で製造した商品はもちろん、食品メーカーとの共同開発PBを販売していくうえでも、「売れなかったからすぐに販売をやめる」という対応は難しい。たとえ初動が悪くても、粘り強く販売を継続し、「商品を育てていく」という覚悟がSPA企業には求められる。

 そもそもの参入ハードルが高いのもデメリットといえる。神戸物産では積極的なM&A(合併・買収)によって食品メーカーを次々と傘下に収め、製造機能を強化しているが、どの企業も同じような戦略がとれるわけではない。メリットとしてあげた利益面についても、「製・配・販」からなるSCMの中で利益構造をコントロールするノウハウがあって初めて、その恩恵を受けることができる。

 ここであげたメリットとデメリットは一側面にすぎないが、いずれにせよ、現在はNB廉価版のPBでは差別化が難しい時代に突入しており、独自商品の開発は食品小売にとって重要課題の1つとなっている。自社ならではの価値を消費者に訴求し、他業態を含めた熾烈な競争を回避するためにも、SPA化を志向する食品小売業は今後も増えていくものと考えられる。

企業規模は関係なし?「ローカライズ」で勝つ!

中堅・中小といわれる規模のチェーンでもSPA化することは十分に可能だ。写真は2021年3月に「パントリー蒲生店」(大阪府大阪市)で撮影

 では、食のSPA企業は実際にどのようにして商品開発に臨んでいるのだろうか。商品の独自性という観点において最も先行しているのは「業務スーパー」を展開する神戸物産だろう。

 同社は国内外に26の自社工場を有する“正統派”のSPA企業であり、「オンリーワン」をめざした商品開発を目下推進中だ。「既存の設備、工場のラインを活用する」という発想のもと、「牛乳パックデザート」をはじめこれまでマーケットになかった個性的なPB商品を次々と投入し、顧客の厚い支持を得ている。

 前述のとおり、神戸物産のようなモデルは簡単に真似できるものではない。だが、成城石井(神奈川県/原昭彦社長)も、現西友CEOの大久保恒夫氏が社長を務めていた時代に、セントラルキッチンの稼働率を高める施策を推進して収益性を大きく改善。営業利益率9%超という現在の高利益体質を築いた経緯を持つ。SPA化を志向していくうえでは、工場をはじめ自社の資産をどう活用していくかがポイントになることはいうまでもないだろう。

 そしてもう1つ、今後の食品小売におけるMDの“勝ちパターン”の1つとなりえそうなのが「ローカライズ」を重視した商品開発である。

 日本の食文化は多様であり、地域によって食習慣は大きく異なる。そのため、全国共通のNBでは拾いきれないニーズも多い。そうしたニーズを、地域の消費者を熟知した小売業が拾い上げるという商品開発の方向性だ。

 たとえば、長野県を地盤とするツルヤ(掛川健三社長)では、地場メーカーとの共同開発による「長野県産」を切り口としたPB商品を大量に投入し、顧客から絶大な支持を集めている。その評判はお客だけでなく、業界関係者にも届いており、「商品づくりはツルヤさんから勉強させてもらっている」という開発担当者も少なくないという。

 ここで特筆したいのは、ツルヤがローカルSMであるという点だ。中堅・中小といわれる規模チェーンでも、本特集がいうところのS P A化を推進し、独自化を図っていくことは十分に可能なのである。

商品の「価値」をどう伝えるか

独自商品を自社の武器としていくには、その「価値」をお客にどう伝えていくかが重要となる。写真は21年3月に「クイーンズ伊勢丹品川店」(東京都港区)で撮影

 最後に、商品の「価値」を伝えることの重要性についてもふれておきたい。

 本特集の取材に応じたセブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長:以下、セブン&アイ)の常務執行役員グループ商品戦略本部長の石橋誠一郎氏が、情報発信の重要性を示すあるエピソードを披露している。

 セブン&アイグループが展開する「セブンプレミアム」において、サラダチキンをリニューアルしたときのこと。同商品はブームが一段落して販売が低調だったが、リニューアルで商品名に「糖質0g」と表記したところ、再び上昇軌道に乗ったというのだ。

 ここで重要なのは、「もともとサラダチキンに糖質は含まれていない」という点だ。つまり、あえて商品名に表記したことでお客に「価値」が伝わり、売上増につながったのである。

 せっかく独自商品を生み出しても、その「価値」がお客に伝わらなくては販売につながらない。POPでの商品説明や陳列、パッケージデザイン、イベント開催など、「商品力に長けている」といわれるチェーンは、商品の「価値」を訴求するための情報発信にも力を入れている。本特集では有力各チェーンの商品開発の取り組みをレポートしているが、「商品開発力」だけでなく、独自商品を売り込んでいく「販売力」にも注目してほしい。