ニュー・フォーマット研究所代表取締役で月刊『マーチャンダイジング』主幹の日野眞克氏が『ドラッグストア拡大史』(イースト・プレス刊)を著した。日本では最後に登場し、平成期に大きな成長を遂げたドラッグストア(DgS)の歴史をわかりやすく解説している。日野氏に出版の経緯やDgSへの思いについて聞いた。
聞き手・構成=小木田泰弘(『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長)
規制、競争環境、消費者の変化を時系列で整理
――『ドラッグストア拡大史』出版の経緯を教えてください。
日野 2019年12月頃に出版社のイースト・プレス(東京都)さんからお声掛けいただだいたのがきっかけです。イースト・プレスさんはコンビニエンスストアや百貨店など、日本の小売業態の歴史をまとめた新書シリーズを出版していて、知人を通じて「DgSの歴史を書いてみませんか」と打診があったのです。日本のDgSの歴史をまとめた本はほとんど存在せず、「私が適任なのか」という思いがあったものの、平成期になぜDgSが大きく成長できたのかをあらためて整理したいという気持ちが強く、執筆を引き受けました。編集者からDgS企業の創業者や経営トップのエピソードを多く盛り込んでほしいとお願いされていたので、可能な限り客観的に書くことを心掛けました。これが執筆でとても苦労した点です。
――1997年に独立し、月刊『マーチャンダイジング』を創刊しました。ちょうどDgSが大きく成長しようとしていた頃です。
日野 ニュー・フォーマット研究所を立ち上げたのはちょうど「第二次ドラッグストア成長期」(90年代半ば~2000年代末)に当たります。『ドラッグストア拡大史』では、大規模小売店舗法(大店法)をはじめとした規制と競争環境、そして消費者の変化を時系列で整理しながら、DgSの成長をたどりました。
――「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言を要所で用いています。
日野 20代の頃、「日本の小売業は6社しか生き残れない」と論じた本が売れていました。「ダイエー」「イトーヨーカドー」「ジャスコ(イオン)」「西友」「マイカル」「ユニー」です。結局、「イトーヨーカドー」「ジャスコ」の2社しか生き残ることができませんでした。現在、DgS業界は大手数社しか残らないといわれていますが、それは“かつて見た光景”で歴史が証明しているといえます。ただし、日本のDgS業界がそのようになると、実は私は思っていません。とくに調剤が強いローカルDgSチェーンは勝ち残るでしょう。
最終的には組織や企業文化づくりに帰結する
――米国DgSの歴史も解説しています。
日野 米国の事例をあえて初めのほうに盛り込んだのは、今の日本のDgSの状況と大きく異なるからです。とくに調剤の分野は、米国のDgS大手2社の調剤が売上高全体の7割超を占めるのに対して、日本の大手DgS企業は2割前後しかありません。しかしここにきて、日本のDgS企業の調剤比率が高まっています。つまり米国のDgSに徐々に近づいているのです。日本のDgSと調剤のマーケットはそれぞれ7兆円超とほぼ同じ規模ですから、日本のDgSにとって調剤はますます重要な部門になるでしょう。米国DgSの歴史を学ぶことは重要だと思います。
――「次の10年も必ずゲームチェンジが起こる」と力説しています。
日野 故・渥美俊一先生がおっしゃっていましたが、優勝劣敗を決めるのは最終的には組織や企業文化づくりに帰結するような気がします。97年に独立し、さまざまなDgS企業を見てきましたが、新しいことにチャレンジをしないと、どこかで衰退もしくは伸び悩んでしまうのは市場から退場した企業に共通している点です。
――どんな人に読んでほしいですか。
日野 DgS業界外の人にもわかりやすいように書いたつもりです。DgS企業の経営者や幹部、中堅社員、新入社員のほか、メーカーや卸売業の営業担当者、薬剤師などにも読んでほしいですね。
『ドラッグストア拡大史』
著者 日野眞克
発行所 イースト・プレス
定価 946円(本体860円+税10%)
発売日 2021年2月10日
判型 新書判
頁数 248