独自の食品スーパー(SM)フォーマット「高質食品専門館」で、店舗網を着実に拡大する阪食(大阪府/河村隆一社長)。常に「進化」を掲げ、新たな店づくりへのチャレンジを続ける。「長期目標の売上高2000億円を視野に、さらなる差別化戦略を推進する」と話す千野和利会長に、今後の事業展望を聞いた。
6期連続の増収増益見込む
──2014年度(15年3月期)も終盤を迎えましたが、今期をどう振り返りますか。
千野 これまで5店の「高質食品専門館」を出しました。14年5月の「阪急オアシスかどの店」(京都府京都市)を皮切りに、6月「宝塚中筋店」(兵庫県宝塚市)、7月「立花店」(兵庫県尼崎市)、11月「西院店」(京都府京都市)、12月「神崎川店」(大阪府大阪市)です。さらに15年は2月の「上本町店」(大阪府大阪市)、3月の「伊丹店」(兵庫県伊丹市)を控えており、今期は計7店の新規出店となります。
一方、既存店を改装、新しい店づくりの要素を導入することで活性化を図りました。14年4月に「小曽根店」(大阪府豊中市)、6月「北千里店」(大阪府吹田市)、10月「石橋店」(大阪府池田市)に手を入れしました。いずれの店舗も、改装前と比較し売上高が25~30%増と好調に推移しています。これらを踏まえ、今期も充実した年度だったと感じています。
──「専門性」「ライブ感」「情報発信」をキーワードとする店づくりが「高質食品専門館」の特徴です。09年7月に1号店「千里中央店」(大阪府豊中市)を出して以来、その店数もずいぶんと増えました。
千野 15年1月上旬現在、当社は計76店を展開していますが、うち「高質食品専門館」は46店を数えます。これまでに売場面積700平方メートル、1000平方メートル、1500平方メートルといった3つのプロトタイプを構築しました。
出店を重ねるごとに、徐々に品揃えや売場などを進化させてきました。青果部門では産地にスポットを当てた「おひさん市」や「サラダコーナー」、鮮魚部門では半調理品を集めた「フィッシュデリ」や「自家製干物」といった売場を開発しています。当社ではこれら店を構成する売場を「コンテンツ」と呼んでおり、現在、60近くまで増えています。
──業績も順調のようですね。
千野 14年3月期のSM事業(グループ製造会社3社を含む)の売上高は対前期比7.2%増の1048億3200万円、営業利益は同17.4%増の21億2700万円でした。15年3月期も売上高、営業利益ともに伸長し、6期連続の増収増益となる見込みです。
──次なる目標は何ですか。
千野 2020年に「売上高2000億円、営業利益80億円」です。達成するためには「高質食品専門館」を進化させ、またさらに付加価値を持った企業になる必要があると考えています。
「みんなで創るあなたの市場」
──長期目標を見据え、今期以降はどういった施策を実施しますか。
千野 大きく分け、3つに取り組んでいきます。最初は「《阪食》のブランディング」、次に「チェーンストアオペレーションの確立」、そして最後に「利益構造の多角化」です。これらを15年度を初年度とする3年間でやり遂げる考えです。
──《阪食》のブランド確立に取り組む目的は何ですか。
千野 今後、当社は年間7~8店舗と出店ペースを加速する方針です。となれば必要になる経営資源はヒトです。新卒、中途採用社員、またパートタイマーといったスタッフを、ざっと見積もって1年間1000人、5年だと5000人を採用することになります。阪食について何も知らない方に対し、われわれは何をどう教えるべきかは非常に重要です。つまり阪急オアシスが何に価値を置くべきかをあらためて明確にする必要がでてきたのです。
ブランド確立をめざすにあたり、「高質食品専門館」のキャッチコピーとして定めたのは「みんなで創る あなたの市場。 阪急オアシス」です。「みんな」はお客さまに加え、生産者、メーカー、当社の従業員すべてを指しています。また「あなたの市場」は、お客さま一人ひとりの売場という意味を込め、「売場」より活気が感じられる「市場」という言葉を使っています。
そのうえで「食のプロフェッショナル」「安心安全な高品質食品」「ライブ感あふれる市場」といった観点のもと「高質食品専門館」に磨きをかけていきます。
──具体的には何に取り組みますか。
千野 15年11月、大阪府箕面市にオープンする予定の「箕面船場店」(仮称、売場面積1500平方メートル)に照準を合わせ、店づくりや品揃え、サービスなどの手法を再構築し、段階的に価値を向上させていきます。
このうちお客さまに見えるものでは、(1)包装紙やエコバッグといった店頭消耗品、(2)従業員のユニフォーム、(3)ポイントカード、(4)チラシ、Web媒体、情報誌といった広告媒体、(5)会社の名刺や封筒などのビジネスツール──という分野で、デザインや機能などを順に見直し、刷新していきます。なかでも店頭消耗品やポイントカードといった、お客さまの手に渡るものについては優先順位を上げ取り組んでいきます。
同じ価値観を共有できるイベント
──「高質食品専門館」は視覚的なイメージが大きく変化するのですね。
千野 そうです。ただ目的は、単にロゴやデザインを変更することではありません。競争の激しい厳しい時代に新店を出し続けるなか、あくまで新たに当社で働く数千人の従業員が同じ価値観を持ち、同じベクトルに向かうためのブランディングなのです。
次の数年、当社は新たな店舗スタイルや売場の開発、また生鮮食品を含めたオリジナリティある商品の開発、そして店内のコミュニケーションなどを通じ、新たな顧客の開発に力を入れてきています。今後は、さらにそのピッチを上げます。商品開発では最近、「びわ茶ぶり」「信州香原豚」「熊本れんこん」などのように生鮮食品が増えてきており、今後も新たな商品を続々と投入していく計画です。これら「高質食品専門館」が重視する、もしくは価値を置いている取り組みを可視化し、そしてお客さまにも伝えていきます。
──従業員の「高質食品専門館」への理解度を上げるイベントも開催するそうですね。
千野 年1回、「阪食フェスティバル」というイベントを開いており、今年は3月に大阪市内で行います。毎回、従業員約1300人に加え、われわれ役員、管理職をあわせ約1400人が参加する大きな催し物です。会社の状況や経営政策を発表する一方、「高質食品専門館」での取り組みや商品開発などについても説明します。
また1年間の労をねぎらう意味で、パートタイマーを中心とする従業員の表彰も行います。選ばれた人は、アメリカや香港で開催する研修旅行へ参加できる特典があるため、とてもエキサイティングな内容、雰囲気となります。スタッフによる顧客満足の向上につながるような活動なども発表し、皆が同じ価値観を共有できる場として活用しています。
──売場や商品だけでなく、従業員を大切にするのが阪食の特徴です。
千野 やはりSMというビジネスは従業員の存在抜きには成立しませんからね。表彰のほかにも、「服部西店」(大阪府豊中市)の一角に設置している「阪食研修センター」では、座学や実地研修も行い、従業員のレベルアップを図っています。
これらすべての取り組みにより《阪食》のブランドを完成させ、その集大成として今年10月の「箕面船場店」で結実させます。
全品、自動発注システムを導入
──2つめの「チェーンストアオペレーションの確立」とはどのような内容ですか。
千野 15年度以降も、積極的に出店することで、当社の店舗網は着実に拡大していきます。現在、76店を展開していますが、このままのペースでいけば、あと数年内に100店を突破します。その際、円滑な店舗オペレーションを行うために大きな威力を発揮するのが、建設を進めてきた「高槻物流センター」(大阪府高槻市)です。
敷地面積8000坪、鉄骨造り地上4階建てで、今年1月にようやく竣工の運びとなりました。1階あたり4000坪、延べ床面積は1万6000坪の規模で、当社が長期目標に掲げている売上高2000億円規模の物流に対応できるキャパシティーと能力を備えています。
先ほどお話ししたブランディングは、主に外面的な分野といえます。それに対し、物流センターは、チェーンストアの根幹を支えるインフラとして、非常に重要な役割を持っています。スムーズな店舗運営を実現させることで、店舗における従業員の負担を可能な限り軽減できるような仕組みをめざしています。
──施設はどのような機能を備えているのでしょうか?
千野 「常温」、「チルド」、「冷凍」という3温度帯の商品を一元的に扱うことができるため、過剰な在庫を削減するなど、効率的な物流を実現できます。またセンターは全品の自動発注システムに対応しています。当社のような事業規模での事例はそれほど多くないと自負しています。
物流センターの稼働により、店舗における作業スケジュールを再構築し、業務改革を進めます。それにより削減した人時を、対面コーナーなど店舗の競争力につながるような分野に配置し、生産性の向上にもつなげていきたいと考えています。
香港のシティースーパーと業務提携
──3つめの施策「利益構造の多角化」について教えてください。
千野 競争が激化しているSM業界では、今後は商品を仕入れて販売するという、従来型のスタイルだけで生き残るのは難しくなります。そこで当社が近年、力を入れてきたのが「SPA(製造小売業)化による高利益体質への転換」です。
当社は傘下に製造3社を抱えており、これらを最大限に活用していきます。3社とは弁当、寿司、総菜の製造を手がける阪急デリカ(大阪府/須永隆社長)、パンの阪急ベーカリー(大阪府/河原逸雄社長)、のりや昆布など乾物を製造する阪急フーズ(大阪府/金子英治社長)で、各社は新たなカテゴリーの商品にもチャレンジしています。
──自社グループで製造した商品を阪食のSMで販売するのですね。
千野 そうです。加えて、当社と緩やかに連携する、エブリイ(広島県/岡〓雅廣(おかざき・まさひろ)社長)、サンシャインチェーン本部(高知県/川崎博道社長)、ハローデイ(福岡県/加治敬通社長)といった企業と共同で商品開発をし、販売するという取り組みをここ数年強化しています。また、14年6月、エイチ・ツー・オー リテイリング(大阪府/鈴木篤社長)と経営統合したイズミヤ(大阪府/四條晴也社長)とも同調していく方針です。
さらに当社は14年11月、香港で高質SMなどを展開するシティスーパー社と業務提携契約を締結しました。商品調達、商品開発における相互協力のほか、販売政策や販売方法に関する情報の交換なども行っていく考えです。
緩やかな連携、また業務提携などによる、これらの企業の売上高を合算すると6000億円超の連合となります。そのバイイングパワーを生かせば、従来のビジネスの枠を超えた動きも可能になります。たとえば、青果分野で、北海道の広大な農地を確保し、全メンバーで青果物を販売することもできますし、日配やグロサリーでは、メーカーや工場を買い取り、単品量販するといったことも考えられます。これを通じ、「利益構造の多角化」を進めていく方針です。
──今後、阪食という企業は大きく変化しそうですね。
千野 これまで話してきたように、当社は15年度からの3年間、「《阪食》のブランディング」「チェーンストアオペレーションの確立」「利益構造の多角化」に取り組み、他社との差別化を図っていきます。そして2020年度には、売上高2000億円、営業利益80億円という大きな目標を達成したいと考えています。