マツモトキヨシホールディングス(千葉県)とココカラファイン(神奈川県)が経営統合契約を結んだ。新たに発足する「マツキヨココカラ&カンパニー」の売上高は単純合算で約1兆円企業になる見通しで、巨大ドラッグストアチェーンがまた1つ誕生することとなる。ただ、現在、業界1位のウエルシアホールディングス(東京都)、次いでツルハホールディングス(北海道)も売上高1兆円を射程範囲にとらえており、楽観視はしていられない状況だ。“1兆円ドラッグストア”の三つ巴戦から抜け出すのはどこか――。
「1兆円企業」誕生へ
マツモトキヨシホールディングス(以下、ホールディングス=HD)とココカラファインの2社がついに経営統合する。売上高は単純合算で9516億円(両社の21年3月期見通し)、拠点数は3000店となる。売上高規模は、現在業界2位のツルハHDを追い抜き、トップのウエルシアHDと肩を並べる。しかも両社は、経営統合3年目までに営業利益300億円の改善効果を見込むなど、収益面では好材料が目白押しだ。
ツルハHDの鶴羽順社長はかねて「ドラッグストア業界は3、4社程度に集約される」と観測しており、マツモトキヨシHDとココカラファインはこの業界再編の最終バスに乗り込んだ形だ。
ただドラッグストア業界全体に目を向けてみると、ウエルシアHDの池野隆光会長が「これまでのように(業態を)一括りにできない状況」と発言したように、今後どういった業態、あるいはフォーマットがドラッグストアのスタンダードとなるのかは現時点では未知数だ。
たとえば、コスモス薬品(福岡県)やクスリのアオキHD(石川県)、「ゲンキー」を展開するGenky DrugStores(福井県)などのチェーンは、食品の売上高比率が高い、いわゆる“フード&ドラッグ”と呼ばれるフォーマットの展開で急成長中だ。処方薬、一般用医薬品、化粧品、日用品、食品をバランスよく揃えた、ドラッグストアの“王道”ともいえる店舗が未だ大多数を占めるものの、生鮮食品を含めた食品を拡充したドラッグストア店舗は着実に増えている。
楽観できないマツキヨ・ココカラの針路
そうした中、マツモトキヨシHDとココカラファインはドラッグストアの中でも化粧品の売上高比率が突出して高く、“化粧品型ドラッグストア”ともいえる店舗を展開中だ。ある日用品メーカーの幹部は、「(マツキヨ・ココカラのような化粧品比率が高い企業は)今は辛抱の時期だが、コロナ禍から立ち直った時は、再び需要を取り込んでいくだろう」と話す。
ただ、新生マツキヨ・ココカラの先行きは決して楽観できない。新型コロナウイルスの感染拡大によって訪日客需要は“雲散霧消”し、インバウンドの恩恵によって急成長を果たしてきた企業は軒並み強い逆風に曝されているからだ。実際マツモトキヨシHDは、売上高に占めるインバウンドの比率が19年上半期に13%まで高まった。出店戦略においては、外国人客が多い大阪・ミナミや東京・銀座に出店するなど、“インバウンド取り込み型”ともいえる店舗網を築いてきた。
コロナ禍が収束してインバウンドが戻ってくれば、「外国人客に知名度の高いマツキヨ・ココカラは、需要の戻りも早いのではないか」(前出の日用品メーカー幹部)という声もあるが、それはいつのことになるか分からないし、その需要もコロナ前の水準に戻る保証はどこにもない。
マツキヨ・ココカラとしてはウエルシアHDとツルハHDによる急ピッチの“追い上げ”も気になるところだ。ウエルシアHDの2021年2月期の売上高は9541億円に達する見通しで、マツキヨ・ココカラの売上高単純合算と変わらない。“1兆円企業”になったからと言って手放しで喜んではいられない。
そこで、アフターコロナでの先手を打つべくマツモトキヨシHDでは東南アジアでの出店を拡大中で、タイ、台湾、ベトナムと店舗網を強化している。アジアマーケットに成長機会を求め、業界の中でいち早くその布石を打っている格好だ。
マツキヨ・ココカラは当面、統合効果を引き出してコロナ禍を乗り切る考えと見られるが、今後は何を成長のけん引役に据えるのか。新会社のマツキヨココカラ&カンパニーの行く先が注視される。