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「価値と価格のアピール」をテーマに景気浮揚の追い風つかむ=しまむら 野中 正人 社長

衣料品専門店チェーン大手のしまむら(埼玉県)が苦戦している。2014年2月期連結業績は、売上高が対前期比2.2%増の5018億円、営業利益が同8.1%減の418億円、経常利益が同7.6%減の440億円、当期純利益は同3.4%減の265億円の増収減益だった。「デフレ時代の勝ち組」と呼ばれた同社は、景気回復とインフレ基調に転じた今、どのような戦略を実行するのか?

消費にはフォローの風が吹く!

──14年2月期は苦戦しました。15年2月期第1四半期までの業績も、売上高が対前期比4.8%増の1259億円、営業利益が同10.2%減の86億円、経常利益が同12.6%減の88億円、四半期純利益が同13.4%減の52億円と、利益が圧迫されています。

しまむら代表取締役社長 野中正人 のなか・まさと 1960年7月22日生まれ。84年3月中央大学法学部卒業。同年3月しまむら入社、鴻巣店勤務。85年9月商品部第2課コントローラー。87年2月商品部第3課バイヤー。92年2月商品部第7課長。94年2月経理部経理課長。98年2月商品部第4部長。99年2月経理部長。2003年5月取締役人事部・総務部・経理部統括。05年5月代表取締役社長に就任。

野中 14年2月期はとても厳しく、不本意な1年になりました。15年2月期第1四半期までの業績は、消費税増税後も在庫商品の価格を変更しなかったことで増税分を負担することになり、これが利益を押し下げました。

──あらためて、14年2月期(13年度)の減益要因を教えてください。

野中 13年度は「アベノミクス」に代表される景気浮揚策で日本が大きく変わった年だと思います。

 ただし、変化が急すぎました。いちばんは為替です。

 当社はSPA(製造小売業)ではありません。販売している商品の95%はサプライヤーから仕入れていて、残り5%は当社が企画し、海外の工場から直接買い付けている商品になります。為替予約はお取引先さまが行いますが、当社が買い付けている5%分だけでも為替の影響が大きかった。

 13年度の前半は、それ以前に商談した商品が入ってきていましたので、為替変動の影響は軽微でした。しかし、後半になると影響が大きく出てきました。たとえば対ドルでは、1ドル80円から1ドル100円まで、率でいえば20~25%が一気に動きました。当社のような輸入商品をメーンに扱う小売業にとって、急激な為替変動は大きな利益圧迫要因になりました。

──13年度は、「ファッションセンターしまむら」「アベイル」の既存店売上高が前年実績を割っています。

野中 要因は大きく2つあると考えています。1つは若年層の消費がとても弱くなっていることです。10代後半から20代にかけては、ファッションのトレンドがほぼ見当たらない1年でした。強いて挙げるなら、着回しのきく無地やチェック柄のシャツなど、無難でベーシックなものが売れました。ほかにも小さなトレンドが現れては消えたりして、結局、ファッション分野では目立ったものがほとんどありませんでした。

 2つめは悪天候です。4月から5月にかけての異常低温、7月から8月の局地的な集中豪雨、10月の厳しい残暑、11月から12月上旬の暖冬、14年2月の記録的な積雪など悪天候にみまわれ、衣料品業界にとっては対応の難しい1年でした。

 食品は、悪天候で買物ができないとなれば、買いだめやまとめ買いが期待できます。しかし、衣料品は天候が回復したからといって必ず購入いただけるものではありません。

──14年度の消費環境をどのように見ていますか。

野中 13年度は、「アベノミクス」により「これから日本は成長していくんだ」という「スイッチ」が入ったように思います。消費者の購買意欲も高まっていますから、これが継続すれば、間違いなく商売の追い風になるでしょう。

主要4業態の運営を統一

──さて、15年2月期はどのような施策を実行していますか。

野中 いちばん大きいのは組織を大きく見直したことです。

 当社は、企業規模が大きくなるにつれて組織の動きが鈍くなっていました。組織の動きが遅いという典型的な例は、新しいプライベートブランド(PB)の投入が当初計画よりも半年遅れの14年3月になったことです。

 チェーンストアの組織は、企業規模に合わせて運営の仕方を変えていかなければなりません。しかし、当社はマイナーチェンジを繰り返してきただけで、根本的な組織運営の仕組みを変えてきませんでした。だから、店数や業態が増えるにつれて「例外」がどんどん増え、結果として非効率な部分が多々生じていました。また、「例外」が増えると「漏れ」も出てきます。責任の所在があやふやになり、機能している「はず」になっているケースも多くありました。

 このようなことをなくすため、14年3月に組織を大幅に変えました。

 まず、当社の主要4業態──ファミリーファッションの「しまむら」、若者向けカジュアルファッションの「アベイル」、ベビー・子供用品の「バースデイ」、ファッション雑貨の「シャンブル」の運営をすべて統一しました。

 たとえば、商品の陳列方法や什器、店内の販促物などお客さまから見える部分は各業態特有のものですが、お客さまから見えない部分については、例外を設けず基本的にはすべて同じ方法にしました。運営方法が同じであれば、だれが担当しても管理できるからです。

 次に、広告宣伝や販売企画、店舗レイアウト、インストアプロモーションなど、これまで各業態で分かれていたものを集約し、新たに1人の担当役員が管掌。広告宣伝や販売促進などを商品部から切り離しました。

 そして要のしまむら商品部については、「売れる商品」の仕入れに専心する「商品部」と店頭の在庫を管理する「売場管理部」の2つの部に分けました。また、業態によっては在庫管理担当者がいないこともあったので、しっかり人を配置し、仕入れと店舗の在庫管理の方法も各業態ですべて同じにしました。

──組織変更はどのような効果をもたらしましたか?

野中 各業態の運営をパターン化、標準化することで、打ち手の実行されるスピードが速まり、ムダな部分や必要な施策がよく見えるようになりました。

 これまでは、売場で不具合が見つかっても、修正が完了するまでに3~4週間かかりました。今では当日、遅くても2~3日中に全店舗の売場に指示が届いて改善策が実行されるようになっています。

 ムダな部分では、たとえば「アベイル」業態は、これまで毎週水曜日と土曜日にB4サイズのチラシを投入していましたが、今は金曜日のB3サイズのチラシ1本になっています。これは水曜日のチラシの効果がほとんどなかったからです。効果のない施策を取りやめ、売上アップが期待できる部分に経費を投じるという当たり前のことを実行できる体制にしました。

 まだまだ改善点はありますが、主力の「しまむら」業態については6月からうまく回るようになってきたと思います。

PBを「クロッシー」「ソリデル」「フロイデ」に刷新

──主力の「しまむら」業態は14年3月、PBを「CLOSSHI(クロッシー)」「Sorridere(ソリデル)」「FREUDE(フロイデ)」の3つのブランドに刷新しました。15年2月期の商品政策(MD)について教えてください。

野中 当社は今期、「価値と価格のアピール」をテーマに掲げています。

 新PBは、上質感を提案する「クロッシー」、ファッショントレンドがキーワードの「ソリデル」、そして低価格の「フロイデ」という態勢になっていて、各PBのコンセプトをお客さまにわかりやすいようにお伝えすることが今期のMDの柱です。

 昨年来、お客さまの消費意欲は比較的強いものの、買物に使えるお金はそれほど増えていません。ですから、商品を選別する目はますます厳しくなっています。

 消費意欲が減衰していくデフレ期と、少しずつ商品単価が上がっていくインフレ期の商環境はまったく異なります。デフレ期は、商品を値下げすればある程度の売上は確保できました。しかし、今は単に値下げするだけではお客さまに見向きもされないでしょう。商品は、価値と価格のバランスが絶妙でなくてはなりません。

 原材料費や人件費、エネルギー費が上昇し、結果として商品単価が上がっていく中では、お客さまの家にないもの、またはまったく新しいもの、そして付加価値を高めたものをどんどん提案し、単価の上昇について納得いただき、購入してもらう必要があります。

 一方で、お客さまは低価格の商品をお求めになることもあります。利幅が少ない低価格の商品を一定数揃えつつ、中価格帯と高価格帯の販売数量を増やして粗利益を確保することが肝要です。その大役を担うのが新PBになります。今期は、組織の力が試される1年になるとみています。

 新PBは、中国北西部の新疆ウイグル自治区でつくられる希少性の高いコットンを使用したカットリーや、フレンチリネンのシャツやニットボレロ、シルエットや素材にこだわったデニムパンツなど、高価格帯の「クロッシー」の開発が先行しています。今後、「ソリデル」と「フロイデ」のラインアップが充実していけば、十分、戦っていけるようになると思います。

──「クロッシー」の寝具にはヒット商品が生まれたと聞いています。

野中 この6月に投入した機能性敷布団「エアスクリーン(C)アルファ」ですね。税込価格が1万4800円と高額であるにもかかわらず、よく売れています。この価格帯の商品がヒットするのは「しまむら」業態ではなかったことです。他社で同等品が2万円台で販売されていることから、当社商品の価格が評価されたようです。

──6月24日からは、千葉県船橋市非公認のご当地キャラ「ふなっしー」を起用したテレビCMを放映しています。

野中 このテレビCMは、3月の組織変更で面白いアイデアが出てくるようになったことを象徴するものです。

 当社の高機能素材シリーズ「ファイバードライ」は、ここ最近は今ひとつ盛り上がらず、マンネリ気味でした。そこで広告宣伝担当者が「ふなっしー」を起用して売上アップを図ろうと実行しました。ご存知のとおり、「ふなっしー」はこの気温の高い時期は、見た目がとても暑苦しい。ですが、動きは俊敏です。その秘密が「ファイバードライ インナー」にあるかもしれないというのがテレビCMの主旨です。テレビCMを見た人は笑ってしまうかもしれません。実際、私は笑ってしまいました。

 このCMは話題づくりが主眼ではありません。どうやったら売上が取れるのか、商品の価値をしっかりアピールするにはどうしたらいいのかと考えた結果、奇抜なCMができたのです。「しまむらは面白い」ということは来店動機にもなります。費用対効果は検証中ですが、うまくいけば“2匹目のドジョウ”もあり得ます。

商業施設内への出店が増える

──14年4月、西友(東京都/スティーブ・デイカスCEO〈最高経営責任者〉)の東陽町店(東京都)の3階に、「しまむら」業態をオープンしました。今後、商業施設内への出店は増えていくのですか?

野中 今期の新規出店は、「しまむら」25店舗、「アベイル」15店舗、「バースデイ」20店舗、「シャンブル」7店舗など、グループ全体で79店舗を計画しています。

 主力の「しまむら」業態は、出店できる場所ならどこにでも出すのが基本的なスタンスです。ここ数年、大都市圏への出店が増えているのは、地方に比べて出店余地がまだまだあるからです。その結果、ショッピングセンターや総合スーパーなど商業施設内への出店が増えています。とくに意識をして商業施設内に出店しているわけではありません。

 当社は、フリーススタンディング店舗のほうが得意ですから、大都市圏だけでなく、地方にもどんどん出店したいと考えています。

 また、ここ最近では、ベビー・子供用品の「バースデイ」への出店要請が増えています。衣料品が強く、ベビー・子供用品が一通り揃う売場面積1000平方メートルの「バースデイ」は、若年層の集客にもつながることから商業施設にとっては魅力的なようです。

 国外では、中国の10店舗態勢が見えてきました。まだまだ苦戦していますが、10店舗になると商品が回り始めますので、何とか戦っていけるようになります。

 台湾は順調です。今期は3店舗を出店し39店舗になる予定です。開業から10年以上の店舗も増えてきていますから、リニューアルも同時に行っていきます。

──15年2月期は、連結売上高が対前期比7.6%増の5400億円、営業利益が同21.1%増の507億円を見込んでいます。

野中 ファッション分野の商環境は依然として厳しいですが、消費意欲が高まっていますから、「増収増益を達成するのが当然」くらいの強気で攻めの施策を実行していきます。