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2016年度末までに300店舗・1000億円体制へ=ビッグ・エー三浦 弘社長

ダイエー(東京都/村井正平社長)が1979年に設立し、現在はハードディスカウントストア(以下、HDS)を展開するビッグ・エー(東京都)。同社は2014年度を「第三の創業」のスタートの年と位置づけ、出店スピードを加速。16年度に店舗数300店舗、売上高1000億円を計画する。13年3月に社外取締役から代表取締役会長につき、今年3月から社長に就任した三浦弘氏に、今後の成長戦略について聞いた。

低価格を改めて打ち出し、既存店売上がプラスに

──2013年度をどう振り返りますか。

ビッグ・エー 代表取締役社長 三浦 弘(みうら・ひろし)
1969年12月兵庫県生まれ。1992年流通科学大学卒業後、ダイエーに入社。2005年CS推進室室長、07年業務改革本部副本部長、08年グループ事業本部本部長。13年DS事業本部本部長兼ビッグ・エー代表取締役会長兼ビッグ・エー関西代表取締役会長。14年3月1日よりダイエー執行役員。DS事業本部本部長、ビッグ・エー代表取締役社長、ビッグ・エー関西代表取締役社長を兼務する

三浦 13年3月、4月は、既存店売上高が対前年同月比90%台前半という厳しい状況でした。09年度から既存店売上高が前年実績を下回る状況が続いていましたので、社内には予算未達も仕方ないといった雰囲気も芽生えかけていました。しかし、6月からは9ヵ月連続で、既存店売上高が前年を上回りました。社員の考え方も既存店売上高が前年を上回るのは当たり前というように変わり、さらに売上を伸ばそうという前向きな姿勢になってきました。

──具体的にどんな対策を打ったのですか。

三浦 当社はドイツのアルディを手本に、ボックスストアとして1979年に創業しました。食品スーパー(SM)より価格が3割程度安いのがボックスストアといわれています。しかし、08年9月のリーマンショック以降、SMが低価格化を推し進めたことで、価格差がほとんどなくなっていきました。当社は品目を絞り込んだリミテッドアソートメント・ディスカウントストアです。価格優位性という武器がなくなれば、品目数の多いSMにお客さまを奪われてしまいます。食品を低価格で販売するドラッグストアが増えるなど、競争環境が大きく変わってきました。

 お客さまの当社に対する期待がどこにあるのかというと、やはり価格です。そこで、当社の価格が安いということを、お客さまが改めて認知してくださるように、価格政策を変更しました。具体的には、昨年5月に「大感謝祭」と銘打ち、例年10月、11月に開催する「創業祭」に匹敵するセールを実施しました。また、購買頻度の高い商品については価格を引き下げました。

 安さを実感してもらえる価格を打ち出したことでお客さま数が着実に増え、既存店売上が前年実績を上回っていったのです。「創業祭」を行った昨年10月、11月には既存店売上高は対前年同月比5%増を達成しました。

──価格だけでお客の支持を得られるものなのですか。

三浦 重要なのは、どんな商品を低価格にすればお客さまに喜んでいただけるかということです。

 10月、11月の「創業祭」が終わり、1年のうち最大の商戦となる12月に入ると、売上が伸び悩みました。12月商戦は、イコール12月末のクリスマス商戦ととらえていましたが、12月の中旬に現場から「このままでは戦えない。商品を選定して、価格を引き下げてほしい」という意見が出てきました。

 そこで、野菜や買い回り頻度の高い商品を中心に価格を引き下げ、社員がチラシをポスティングするなどの対策を打ちました。これが奏功し、12月終盤に巻き返すことができました。これは現場の声のおかげです。

 お客さまの消費意欲が最も高まる12月末に売上のピークを持っていくには、12月初めから当社の店舗で買物したいと思ってもらえることが必要なのです。昨年12月についていえば、野菜が高騰していましたから、お客さまが一番求めていたのは野菜を手ごろな価格で購入できることでした。

 しかし、われわれは野菜の価格訴求を強化していたわけではありませんでした。現場から声が上がるまで価格を引き下げるべき商品の選定を見誤っていたのです。

 価格政策と同時に、商品選定が重要です。お客さまがほしいと思う商品を低価格にすることで、また店に来たいという気持ちになっていただけるからです。その時に大切なのはお客さまの信頼を得ることであり、その指標となるのがお客さま数とお買い上げ点数だと考えています。

自社物流による原価低減が強み

──低価格を実現するために、どんなことに取り組んでいますか。

三浦 薄利ながら、売上を増やすことで、利益額を積み上げていくのが当社のビジネスモデルです。まさしく薄利多売です。

 営業総利益から販管費を差し引くと営業利益になります。多くの企業は、たとえば営業利益を増やそうとした場合に、販管費を最初に削ろうとします。しかし、これでは売上も減る可能性が高くなります。

 そうではなく、まず売上を増やしていけば、販管費は変わらなくても、売上高販管費率は低下し、営業利益率は高まります。とくに当社のようなHDSにとっては、順番を間違えてはいけないと考えています。まずは多売を優先し、次に薄利を少しでも厚くするためのローコストオペレーションを追求しています。

 ローコストを実現するうえで、重要視しているのが物流です。100坪という当社標準の売場面積に合わせた物流体制を組むことで、物流コストの削減につなげています。

 当社は首都圏内4カ所に自前の物流センターを運営しています。店内の売場のゾーニングに合わせて商品を納品し、店内作業が効率化できます。また、所定の時間内に納品することで、計画的な人員配置が可能になります。

 たとえば、当社の大半の店舗は24時間営業しており、午後23時から午前2時までの間に商品が搬入されます。それに先立ち、各店では、21時からお客さま応対の合間をみて清掃を実施。22時からは商品を補充しやすくするために前出し陳列を行います。このような計画的な作業が可能なのは、時間どおりに商品が納品されるからです。

 また、仕入れ原価の低減策は、おもに計画購買がメーンになります。バイイングにおける当社のいちばんの特徴は、半年先、1年先の商品を計画的に仕入れることです。農産物の場合であれば、生産者と買い取り価格を定めて直接契約することで、生産者に安心して生産してもらえる仕組みにしています。低価格の実現は、お取引先さまとの信頼関係の上に成り立っています。

──リミテッドアソートメント・ディスカウントストアとして品目を絞っていますが、品揃えそのものに大きな変更はありますか。

三浦 12年度から進めているのが即食性の高い商品の拡充です。100坪前後の売場面積、そして2500SKUという限られた品揃えのなかで、デリカや簡便商品を充実させることに取り組んでいます。

 ローコストを追求するためには、棚割りや品揃えを頻繁に変えるべきではないと考えてしまいがちです。しかし、少子高齢化や世帯人口の減少が進み、お客さまのライフスタイルが変化しているにもかかわらず、変更の手を加えないのは企業本位の考えでしかありません。お客さまのニーズに合ったゾーニングや品揃えにしながら、大前提となるローコストオペレーションをどこまで追求できるか。その課題に取り組んでいます。

──2500SKUのうち、プライベートブランド(PB)はどのくらいですか。

三浦 当社はPBではなく、ストアブランド(SB)と呼んでいますが、売上高全体に占める割合は20%程度です。当社のSBの特徴は、基本的に国産中心であることです。ディスカウントストアなので価格もさることながら、国産であることをしっかりと売場でアピールして販売数量を増やしていく方針です。

70坪の小型店の出店を加速する

──さて、4月1日から消費税が増税されますが、増税後の経営環境をどのように見ていますか。

三浦 消費税増税は、われわれHDSにとっては追い風になると考えています。1997年に消費税が3%から5%に引き上げられたときは、対前年比で10%ほど売上を伸ばしました。増税後が本当の実力の見せどころだと思っています。

 13年度に取り組んだ価格政策の見直しは、消費税増税の前にお客さまに「低価格で安心して買える店」ということを認知してもらうことも意図してきました。3月からは、家計消費支出の高い41SKUをさらに値下げし、価格訴求を強化しています。

2014年は「第三の創業」の年

──14年度の重点政策は何ですか。

三浦 創業35周年の節目にあたる14年度は、当社にとって大きなターニングポイントになると考えています。

 当社は02年度を「第二の創業」の年としています。02年には24時間営業の店舗を増やすとともに、品揃えを1500SKUから、現在の2500SKUに増強したからです。それで02年度から8期連続の増収増益を達成したのです。

 14年度はこれに続く「第三の創業」のスタートの年と位置づけています。

 当社の13年2月期の売上高は609億円で、今年2月末現在、首都圏の1都4県(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県、茨城県)に181店舗を展開しています。これを16年度末までの3年間で、首都圏300店舗体制・年商1000億円をめざします。13年度の新規出店は7店舗でしたが、14年度はその3倍程度の出店を計画しています。15年度以降、さらに出店スピードを加速させていきます。20年度までに出店エリアを全国に広げ、1000店舗体制にしたいと考えています。14年度はその第一歩となる重要な年です。

──これまでの店舗フォーマットで出店するのですか。

三浦 従来とは発想を変えないと300店舗体制は達成できません。このため、小型店の開発に取り組んでいます。当社の標準店の売場面積は100坪で、現在は90坪から150坪の店舗を展開しています。オペレーションを統一してローコスト化を図るためには店舗を新築したほうがやりやすい。実際、全店舗の7割以上は新築です。

 しかし、標準店に固執していては、人口の多い東京23区や南関東に出店する場所を見つけることは難しいのが実情です。これでは出店スピードを速めることはできません。

 そこで、力を入れるのが小型店の出店です。昨年12月に、東京都葛飾区に売場面積70坪の小型店を出店したところです。

 書店やレンタルビデオ店などが撤退した70坪前後の物件が増えています。こうした小型物件に居抜き出店できれば出店コストを引き下げ、早期に多店舗化を推し進めることができます。

 売上については、100坪クラスの店舗では月商3000万円を目安にしています。人口が密集する東京23区や南関東に出店する小型店でも、それに近い数値をめざす考えです。

──小型店の品揃えやオペレーションは標準店と変わりますか。

三浦 昨年12月にオープンしたビッグ・エー葛飾東立石店では、SKU数を500近く減らしました。品揃えできるSKU数が標準店に比べて少ないので、PI値(レジ通過客1000人当たりの購買指数)をこれまで以上に意識して品揃えを考えていきたいと思っています。現在は最適な品揃えを追求するための実験店の位置づけです。

 前述通り、今後、出店スピードを加速していきます。それに対応するため、1人の社員が最大3店舗までの店長を兼務する方法を導入してきています。さらに店舗数が増えていけば、5店舗に1人の店長を割り当てる考えですが、いずれはパートナーさんが店長を務めるかたちにしていく方針です。

 まずは首都圏で消費者の生活の豊かさに貢献したいと考えています。それによって、HDSとしての認知度を高めることにつなげていきたい。

──11年5月にダイエーはビッグ・エー関西(大阪府/白石圭二社長)を設立しています。関西エリアは引き続きビッグ・エー関西が出店を進めるのでしょうか。

三浦 当社とビッグ・エー関西は人材の交流などありませんでしたが、今後は商品供給やオペレーションの面で当社の関与を高めていく考えです。20年度・1000店舗体制を達成するためには、ビッグ・エー関西と商流の統合も検討しなくてはいけないと考えています。

──もうひとつ。イオン(千葉県/岡田元也社長)グループ内ではディスカウントストアについて、協業や出店調整などをしていくのでしょうか。

三浦 いろいろと話は進めています。イオングループの「ザ・ビッグ」で扱う商品と、当社のストアブランドを相互に提供することなどを検討しています。また、「アコレ」を展開するイオンリテール(千葉県/梅本和典社長)とも頻繁に交流する機会を設けています。