コストコ ホールセール ジャパン(神奈川県)が出店を加速している。2020年までに50店態勢をめざす計画だ。販売管理費と値入れ率を低く抑え、高品質の商品をできる限りの低価格で提供する同社のビジネスモデルが広く理解されるようになったとの確信が出店加速の原動力になっている。長く日本の事業を担当してきたケン・テリオ代表取締役にコストコの成長戦略について聞いた。
取扱商品の9割はメーカーとの直接取引
──コストコは1999年に日本に進出し、今年で14年目を迎えました。現在18の倉庫店を展開しています。
テリオ 日本進出に当たり、当初は業務提携先を探しました。しかし、コストコのコンセプトは日本ではうまくいかないだろうとパートナーシップを結ぶ企業は現れませんでした。
コンセプトを変えるように勧める声もありましたが、われわれはそれに従うつもりは一切ありませんでした。われわれが最良だと考える方法で事業を行い、多くの国々で成功してきましたから、日本でもその方法を貫くつもりでした。
そこで、独自に出店することにしました。運よく、福岡県糟屋郡のショッピングセンター「トリアス久山」への出店機会を得ました。1号店の久山倉庫店は、しばらくは大変厳しい状況が続きましたが、徐々に業績が上向いていきました。
久山への出店は偶然のことでしたが、幸いなことでもありました。大消費地の東京から遠く離れた土地に出店したため、多くのメーカーが直接取引に応じてくれたのです。それにより、メーカーとの関係を築くことができました。
その後の出店では、「当社は真の卸売業であり、中小事業者への重要な販路になる」ことをメーカーに説明を繰り返し、取引関係を維持することができました。現在、医薬品などごく一部の商品を除き9割以上がメーカーとの直接取引の商品になります。
直接取引することによるメーカーのメリットは数多くあります。たとえば、製品の配送に関しては、千葉県市川市にある当社の物流センターに契約数量を一括納品するだけですのでコスト削減になります。また、日本の倉庫店は現在18ですが、低価格で販売しているので1倉庫店当たりの商品の販売数量は決して少なくありません。
当社と取引するメリットはほかにもあります。それは世界にビジネスを拡大する機会になり得ることです。たとえば、伊藤園(東京都/本庄大介社長)さんに当社のプライベートブランド(PB)である「カークランド・シグネチャー」のお茶2種類の製造をお願いしています。現在、この商品は海外のコストコでも販売しています。
──日本に進出した海外小売業の中には撤退していった企業も少なくありません。コストコが日本のマーケットに受け入れられた要因は何だと分析していますか。
テリオ ほかの企業についてはわかりません。ただ、当社は、品質、低価格、清潔で安全な環境を追求し続けていれば、世界中どこでも成功すると考えています。高品質とできる限りの低価格を両立させた価値は世界中で理解されるからです。それを常に提供し続ければ、会員からの信頼を得ることができると確信しています。
小売業は集客のために費やしたコストに満たない売価を打ち出すことがあります。コストコは、仕入れ原価以下で売らねばならないならば、その商品の販売を止めます。コストコは、すべての商品で利益を上げなければならないからです。
当社の販売管理費は非常に低く、値入れ率をとても低く設定しています。たぶん競合企業は当社のような低価格で毎日販売することはできないはずです。
どこよりも低い販売管理費を維持することに、今後も努力をしていくつもりです。そのために効率は常にチェックしています。前橋倉庫店(群馬県前橋市)や、来年3月に兵庫県三木市に開設予定の物流センターにソーラーパネルを設置したのはその一環です。
三木市に建設中の物流センターは、業界最大級といえる巨大物流施設です。千葉県市川市の物流センターだけで約20の倉庫店への配送機能を持っていますが、2カ所目の物流センターが完成すれば合計約60の倉庫店への配送が可能になります。
西日本に物流センターを持つことは効率向上にも寄与します。たとえば、名古屋以西の倉庫店への配送を三木市の物流センターが担当すれば、移送距離、時間ともに短縮できます。このように改善できる点を見つけて、さらなる効率アップをし続けるつもりです。
食品製造業やレストランチェーンにも商品を供給
──さて、日本の経済や小売市場の状況をどのようにご覧になっていますか。
テリオ 景気自体は好転しているとみています。とくにこの1年~1年半はよくなっていると思います。円安が日本経済全体、とくに製造業に好影響を与え、さらに東京オリンピック開催のニュースもプラス材料でしょう。
近年、日本の小売市場には多くの変化がありました。たとえば、イオン(千葉県/岡田元也社長)は「ジャスコ」「サティ」などの店舗を「イオン」に変更しました。同社は企業買収に積極的で拡大を続けています。ほかにも、ジョイフル本田(茨城県/矢ケ〓健一郎(やがさき・けんいちろう)社長)、カインズ(埼玉県/土屋裕雅社長)、ベイシア(群馬県/赤石好弘社長)なども企業規模を拡大しています。コンビニエンスストアでは、セブン-イレブン・ジャパン(東京都/井阪〓一(いさか・りゅういち)社長)が2014年度に1600店の店舗を出店するというニュースを目にしました。“パパママショップ”にとっての脅威は、大型店よりもむしろコンビニエンスストアだと思います。
──そのような状況のなか、コストコの顧客の購買行動に変化はありますか。法人会員と個人会員と2種類の会員がいますが、それぞれどのような購買動向を示していますか。
テリオ 当社の顧客全体について言えば、顕著な変化は見受けられません。当社の哲学は、いつでもできる限りの低価格と高品質の商品を提供することです。その価値がより多くの人々に認識され、利用が増えたことが変化と言えば変化でしょう。
個人会員は以前からほかの小売店同様、給料日直後に売上が増える傾向があります。ただ、今年の夏期は支出を抑え気味でした。消費税増税に不安感を抱いていたところに、ガソリン価格が7月から急上昇したからです。それにより、購買動向に若干の変化がありましたが、これも周期的なものとみています。基本は、先ほど言ったように月末になれば売上が跳ね上がります。
法人会員は今後も増え続けるでしょう。新規出店した地域でも、コストコの活用方法をよく理解され、週に1度といった定期的な来店につながっています。
当社は卸売業ですから、食品製造業やレストランチェーンへコンテナ単位での商品販売も行っています。中間流通を一切通さずにメーカーから直接仕入れているため、商品を低価格で提供できることが、多くの企業に徐々に理解され始めています。今後も成長する分野だと考えています。
毎月200~300SKUの商品を入れ替える
──海外からの輸入商品はどれぐらいの比率を占めるのですか。
テリオ 倉庫店の取扱商品は3300から3500SKUの間で、季節によって変わります。季節の変わり目には2つの季節の商品を併売しますからSKU数は増えます。ただし管理の観点から3500SKU以上にはならないようにしています。
輸入商品の取り扱いに関しては、日本の消費に合った商品構成での提供が重要だと考えています。加えて、コストコは出店国の経済を支援する方針です。したがって現在、日本の国産品が約60%、輸入品が約40%の商品構成です。
日本のコストコは独立運営していますから、バイヤーとアシスタント・バイヤー合わせて150人ほどが買い付けをします。常に会員の興味を喚起するよう、毎月200から300SKUの商品の入れ替えを行います。SKU数は限られているため、一つひとつの商品の品質が確かで、確実に売れる商品であることが非常に重要です。バイヤーにはその見極めが求められます。
出店国ごとの売れ筋を調べ、各国でその情報を共有するのがコストコのやり方です。たとえば、日本からは台湾、オーストラリア、英国などの支社に商品を販売し、逆に輸入もするといった具合です。コストコ全体で売れ筋を共有化することが大きな販売数量をつくることにつながっています。
──購買を刺激するために、どのような販売促進策を行っていますか。
テリオ チラシやクーポンなどの販売促進策を採用すると、当社の大きな特徴であるエブリデイ・ロー・プライス(EDLP)を見失うと考えています。メーカーは当然、販売促進費分を上乗せした価格を提示します。最終的により高額で仕入れ、より高額で販売することになるのです。
以前はクーポンの配布を行っていましたが、やめても売上に影響はありませんでした。むしろ業績がよくなったくらいです。
現在の唯一の販促手段は会員向けのEマガジンです。メーカーから一時的に通常価格よりもよい条件で仕入れることができた際に、Eマガジンで特売の告知を行ったりしています。
また、試食の提供や実演販売はコストコ創業時からの伝統です。味見をしてもらうことがいちばんの広告手段だと信じているからです。もっとも、これはどの競合でも行っていることです。生鮮食品は当社の従業員が試食提案を行い、それ以外の商品はアウトソーシングしています。そのほうが効率的だからです。
Eコマースは数年かけて準備
──コストコは、米国、カナダですでにEコマース(電子商取引)を手掛け、12年10月からは英国でも開始しました。日本でのEコマースの展開について教えてください。
テリオ 米国とカナダのEコマース事業はとても好調です。開始約1年の英国以外にも、近々いくつかの国でEコマース事業の始動が予定されています。将来的にはコストコが出店するすべての国でEコマース事業を行うことになるでしょう。
日本では、少しずつ段階を踏んで進めていきたいと考えています。Eコマースを始めるには、Eコマース専用のバイヤーとして、さらに60人から200人を雇用せねばなりません。するとオフィスも必要になりますし人材育成もしなければなりません。ですから、今から数年後といった時間軸で準備を進めていくことになるでしょう。
米国のコストコのウェブサイトをご覧いただければわかりますが、EコマースはSKU数が倉庫店よりも多く、倉庫店で扱っている日用品などは販売していません。しかも高額商品をより多く取り扱っています。Eコマースでの売れ行きがよい商品を倉庫店に導入するといった実験的な役割もEコマース事業は担っています。
──最後に長期経営計画についてお聞かせください。
テリオ 当社は3年、5年、10年、20年と、常に目標設定をしています。現在の目標は、2020年までに日本国内に50の倉庫店を開業することです。日本での地盤固めの第1ステップから、第2ステップへと歩を進め、積極的な出店を行っていく計画です。
この10ヵ月の間に5つの倉庫店を出店しました。現在建設中の倉庫店がさらに2つあり、大阪府和泉市と茨城県ひたちなか市に14年度中にオープンする予定です。
この2つの倉庫店の開業後、半年ほどは出店スピードを緩めるかも知れません。しっかりと人材を育成したうえで出店したいからです。
当社の人材教育は時間がかかります。それは当社のコンセプトが他社と異なるからです。コストコは、世界中の従業員の正社員比率を52~54%にすることを公約しています。そして、彼らを教育し、長期雇用して、彼らとともに生産性を向上させることをめざしています。そのため、人材には業界の平均よりも高い賃金を支払い、充実した福利厚生を提供しているのです。
1つの倉庫店をオープンするには、400人から500人の従業員が必要です。そのうち、最大30人がマネジャーです。近年、当社の事業が地域経済に好影響を与えることを理解する地方自治体が増え、多くのお声掛けをいただくようになりました。
まずはより多くの人材を雇用し育成します。そして、体制が整えば、年間4~6の倉庫店を出店していきたいと考えています。営業面では、調剤薬局、メガネ、補聴器など、新たな商品やサービスの充実にも力を入れていきます。