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北陸の雄アルビスが今夏、名古屋に出店!中部地方ねらう戦略を池田和男社長が語る

北陸地方を中心に事業を展開する食品スーパー(SM)のアルビス(富山県)。2019年4月には岐阜県に初進出し、21年夏には愛知県への出店も予定しているなど、今後は中部地方への出店も加速させ、さらなる事業拡大を図っている。近年の取り組みや今後の方針について、池田和男社長に聞いた。

中部地方で5店舗体制構築へ

──この1年をどのように振り返りますか。

いけだ・かずお●1961年7月16日生まれ。85年3月、近畿大学商経学部卒業。85年4月、丸伸入社。2003年4月、アルビス執行役員就任。05年6月SM事業部長、06年4月ホールセール事業部長を経て、06年6月取締役就任。11年4月常務取締役、17年4月専務取締役。18年5月、代表取締役社長に就任(現任)

池田 ほかの多くの企業と同じく、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた1年でした。まとめ買い需要や家庭での調理ニーズの高まりにより、精肉を中心とする生鮮食品や、パスタや粉物などのグロサリーがとくに伸長しました。既存店売上高が最も伸びたのは20年度の第1四半期にあたる4~6月で、対前年同期比8.9%増となりました。全国的な傾向と同様、客単価と買い上げ点数の増加が客数減を補っている状況です。

 8月後半から10月にかけては売上が多少落ち着きましたが、11月以降は全国的に感染者の数が増えているため、春頃の購買行動に戻りつつあります。12月は和牛や氷見港の寒ブリなど、年末年始のハレの日商材が好調でした。コロナ禍だけでなく、大雪もまとめ買い需要の伸びに寄与し、12月の既存店売上高は7.3%増となっています。

──コロナ禍で新規出店や改装の計画に影響はありましたか。

池田 新規出店が遅れるなど負の側面もありましたが、コロナ禍の特需により資金に余裕があるため、出店や改装への投資を柔軟に行うことができました。立地状況などを考慮して一部店舗の閉店を早めたほか、来期予定の改装を一部前倒しで実施しました。今期(21年3月期)の好調に対して来期は反動減が予想されるので、先にやれることは進めています。

──今後は中部地方に事業を拡大する方針を打ち出しています。出店戦略について教えてください。

池田 早期に中部地方で5店舗体制を構築する考えです。出店候補地では、北陸出身のSMである当社に新鮮な魚やそれを使った総菜などを期待する声も少なくありません。こうした自社の強みを前面に打ち出せば、競合のSMが多い中部でも戦えるとみています。

 19年4月に開業した中部地方1号店の「アルビス美濃加茂店」(岐阜県美濃加茂市)では、鮮魚が強力な集客装置となっています。寿司や刺身がとくに人気で、同店の海産部門の売上高構成比は20%を超えており、全店で最も高い数値を記録しています。

 21年夏には、愛知県名古屋市への出店を計画しています。当面は、本社のセンターから東海北陸自動車道を使って、3時間以内に商品を運べる範囲で出店する計画です。また、愛知県においては、従業員の時給や土地代などが北陸より高いため、投資額に見合うような商圏に出店していきたいです。

アルビスは自社の強みである鮮魚やそれを使用した総菜で、中部地方でも差別化を図って

PCの活用を進め
店舗の生産性を向上

──一方、北陸地方での出店はどのように行いますか。

池田 引き続きドミナント強化を進めていきます。中部への出店を含め年間で5店舗ほどを出店したいのですが、現状は平均約3店舗にとどまっています。しかしそのぶん改装にも力を入れており、投資額5000万~1億円ほどの小改装や、新店と同等の機能を付加する4億円ほどの大規模な改装、建て替えなども含め、年間4店舗ほどを実施しています。

 商圏環境としては、同業のSMだけでなく、ドラッグストア(DgS)との競争も激化しています。もはや加工食品や日配品を取り扱うDgSは珍しくありません。それだけでなく、Genky DrugStores(福井県/藤永賢一社長)など、生鮮食品を強化したDgSも台頭しています。当社としては、鮮魚を中心に自社の強みを強化しつつ、日配品や加工食品を中心にEDLP(エブリデー・ロープライス)の導入を進め、価格面でもDgSと遜色ないものにしていく必要があります。

──EDLPにはそれを下支えするローコスト運営が求められます。現在取り組んでいることはありますか。

池田 約2年前に店舗業務部を新設し、効率的な運営をめざすために店舗作業の見直しに取り組んでいます。まずはモデルとなる店舗に専任のスタッフを派遣し、業務内容を組み立て直しました。来期はチームを拡大し、スピード感をもってほかの店舗にも水平展開していきたいです。まずは全店で業務を統一し、その後各作業で生産性の向上に取り組んでいきます。

──生産性の向上という面では、プロセスセンター(PC)の活用も重要です。

池田 19年4月に稼働開始した新たなPCは、精肉と総菜の製造機能を有しています。現状の設備で売上高1200億円に相当する商品の製造までは対応可能で、まだ生産ラインの増強の余地も残っています。今後は塩干物を中心とした海産や青果の一部などを中心に、店舗で行っていた作業をPCに移管し、店舗の生産性向上につなげていく考えです。北陸では魚の鮮度に敏感なお客さまも多いので、すべての作業をPCで行うわけにはいきませんが、可能な部分はPCで対応したいと考えています。

アプリ活用を推進
決済機能追加も

アルビス大島店に設けたキッチンスタジオ

──コロナ禍を踏まえて、店舗に必要な機能やサービスはありますか。

池田 コロナ禍ではこれまで行っていた試食や健康セミナーなどの情報を発信する機会が少なくなっています。そこで、20年12月に改装した「アルビス大島店」(富山県射水市)では、新たな試みとしてイートインスペースにキッチンスタジオを併設しました。そこでは、感染予防のため少人数ではありますが、料理教室やワークショップを実施できるほか、備え付けのカメラを使用してYouTubeなどで映像の配信もできるようにしました。店舗の食材を使ったレシピの提案などを、リアルだけでなくウェブでも行い、店舗のメディア化に力を入れていきたいと考えています。

──情報発信といえば、最近はアプリ活用にも力を入れていますね。

池田 「アルビス公式アプリ」は、20年6月から全店で利用可能になりました。当社が獲得したい顧客層である30~40代の女性には、新聞の折り込みチラシよりもスマホで情報を提供するほうが効果的です。販促費としてはこれまでチラシの占めるウエートが高かったのですが、今後はアプリに少しずつシフトしていきたいと考えています。

 アプリでは、限定のクーポンをもらえたり、お気に入り登録した店舗のチラシを見たりすることができます。毎週土曜日には料理研究家によるレシピ動画を更新しているほか、キャンペーン情報なども随時配信しています。現時点でダウンロード数は約8万となっており、今期末までに10万をめざしています。

──今後アプリにどのような機能を実装したいですか。

池田 来期にはPOSデータから顧客情報を分析し、必要な情報やクーポンの配信を個別にできるようにしていきたいと考えています。今期は会員数を増やすことに重点を置いていましたが、来期以降は実際の運用に本格的に取り掛かる計画となっています。

 いずれはアプリに決済機能を導入したいです。現在のところ、支払い手段の比率ではクレジットカードが約25%、電子マネーが約15%、QRコード決済(PayPay)が約5%で、全体の4割以上がキャッシュレスとなっています。この比率は今後も高まっていくとみています。キャッシュレス決済の普及は、レジ業務の負担軽減にも寄与しています。セミセルフレジの導入とあわせて、人手不足の解消や生産性の向上につなげていきたいです。

──最後に、今後の経営目標や事業方針について教えてください。

池田 当面の目標として、営業収益1100億円をめざしています。そのためには、中部地方への事業拡大と北陸地方のドミナント深化とともに、事業を下支えするインフラ整備や人材教育にもますます力を入れなければなりません。

 商品政策としては、差別化要因となる生鮮食品を強化しつつ、コロナ禍で家庭での調理頻度が増えたため、それを継続してもらうための売場でのメニュー提案にも力を入れていきたいです。また、ワンストップショッピングの観点から、雑貨など非食品の種類や数、売り方についても見直しを進めていきます。

 そのほか、地域社会との関係性をより深めながら、ビジネスとしてわれわれが何を提供できるかも模索していく必要があります。20年6月には、買物難民を支援する移動スーパー「とくし丸」を開始し、現時点で5台稼働しています。北陸全体で約50台までは増やせると見込んでおり、順次導入を進めています。

 20年9月には、富山県と包括連携協定を締結しました。健康増進や子育て支援など、地域の課題を解決するための機能も強化していきたいです。