ラグジュアリーブランドの買い取り・販売に強みを持つブランド品リユース大手のコメ兵。同10月1日、グループ経営体制へと変更し、コメ兵ホールディングス(以下、コメ兵HD、愛知県/石原卓児社長)を設立、傘下にブランドリユース事業、タイヤホイール事業の計13社を束ねる。コメ兵HDの石原社長に、持株会社化したねらいと今後の成長戦略等について話を聞いた。
聞き手=阿部幸治 構成=若狭靖代
ラグジュアリーブランドに強み ブランドリユース大手のコメ兵
コメ兵(現・コメ兵HD)は1947年創業の、時計、貴金属、バッグなどブランド品のリサイクルショップを運営する会社。リユース業界 では第四位の売上高を誇る。愛知県で創業し1996年に東京進出、2004年に東証第二部へ上場を果たした。ブランドリユースに強みを持つだけあり、その特徴は徹底した検品体制にある。全国で買取った商品をすべていったん愛知のセンターに集約、検品とメンテナンスを行った後に店頭やオンラインショップで販売している。
直近の業績は新型コロナウイルス(コロナ)流行の影響を大きく受け、2021年3月期第1四半期決算(4月~6月)で売上高78億6100万円(対前年同期比36.8%減)、営業赤字8億6000万円、純損失12億2900万円となっている。コロナ以前では、2018年3月期で売上高454億9700万円、2019年3月期で同509億6000万円、2020年3月期で575億1000万円と順調な成長を見せていた。
ホールディングス体制への移行により、中核のブランドリユース事業を扱うコメ兵を完全子会社化し、コメ兵HDの傘下とした。このほかホールディングスの下には、タイや香港で同事業を扱う現地の事業会社や、ブランドリユース品のオークションを行うKOMEHYOオークション(愛知県/沢田登志雄)、タイヤホイールの販売を行うクラフト(愛知県/神谷直輝社長)など計13社が連なる。
リユース業界は好調だが、コロナの影響は大きい
――まず、リユース業界全体の状況について教えてください。
石原 市場全体として活発に伸びており、中古品、なかでも“身に着けるもの”というくくりでの中古品市場は約2兆円規模まで成長しています。これは、店舗だけでなくオンラインなど、販売チャネルが増えていることが要因のひとつだと考えています。CtoC(個人間取引)の販売も増えています。従来の店舗型の販売も伸びてはいますが、やはりネットを通じた販売の方が、成長の勢いがあるイメージです。
――コロナ感染拡大の影響はどの程度ありましたか。立地による売上の差や、客数の変化などもお聞かせください。
石原 4、5月は自粛要請によってほぼ休業していましたから、もちろんその間は厳しかったですね。4月度のコメ兵の売上は対前年同期比で30%まで落ち込みました。ただ、感染拡大が落ち着いてきたのに合わせて月ごとに客足は戻っております。
立地の面では、外出控えが影響し、東京の新宿や銀座、大阪の梅田など都市部にある店舗より、住宅街に近い店舗の方が動きは活発です。客単価に大きな変化はなく、コロナ禍でも良いものや珍しいものは高単価の商品であっても売れています。ただ、客数の減少をカバーするほどではありませんでした。
生命線は「買取」コロナ禍で出張買取を強化
――リユース業態の特性を鑑みると、店舗への来客が減少すると買取が増えず、結果販売が伸びにくくなります。買取の状況はいかがでしょうか。
石原 おっしゃる通り、買取は一番重要な生命線です。買取数を伸ばすことが業績向上のための最大のポイントだと考えています。しかし、そもそもの来店客数が減少しているので、買取も以前のペースには戻っていません。コメ兵では、販売と買取をどちらも行っている店舗のほかに、買取専門の店舗(KOMEHYO買取センター)も5店舗展開しています。そこでもやはり、都市部で苦戦し、住宅街に近い店舗では安定している、という傾向があります。伸び悩んでいる店舗については移転も視野に入れながら、買取数をできるだけ伸ばしていきたいと考えています。
――買取数の減少をカバーするために工夫されていることはありますか。
石原 街に足を運ぶこと自体が敬遠されている傾向がありますから、こちらから“出向く”必要があると考えています。例えば、郊外のショッピングモールなどにスペースを借りて、出張買取をしています。これはコロナがきっかけで始めたものではなく、2年ほど前の法改正で店舗外買取ができるようになって始めた取り組みですが、今年は特に回数を増やして行っています。特徴として、店舗での買取はリピーターのお客さまが多いのに対し、出張買取では新規のお客さまが多いということがあります。新規開拓を含めて効率的に買取をすることが、回りまわって店舗の売上回復に繋がっていると思います。
“取り寄せ”でオンラインと実店舗をつなぐ
――コロナでオンライン販売の需要が高まっていると思います。
石原 コメ兵のオンライン販売には2種類あります。ネットで商品を見て、そのまま通販としてご購入いただくものと、ネットで見た商品を近くの店舗に取り寄せ、実際に見たり試着したりしてから購入するかどうか決める、というものです。今特に伸びているのは後者の取り寄せです。以前は売上全体の2~3.5割程度がオンラインショップの関与があった売上でしたが、これが今は平均で4割を超えています。来店客数は減っているものの、オンラインショップを介しての来店・購入は増えています。
――取り寄せを希望する人と、オンラインだけで完結して購入する人にはどのような違いがあるとお考えでしょうか。
石原 オンラインのみで購入される方は、店舗にもよく来てくださるリピーターのお客さまが多い傾向があります。コメ兵のオンラインショップでは商品写真と、商品の状態に応じたランク付けを見ることができますが、慣れてくると写真とランクだけで十分イメージがつかめるようになるからでしょう。
ただし、全体的には取り寄せを希望される方が多いです。安心感が得られることや、接客を介して従業員とコミュニケーションがとれることで、単価が高いものが動きやすい傾向ですね。
――オンライン化が急速に進む中では、顧客接点をどう確保するかが重要になります。対策をどうお考えでしょうか。
石原 取り扱い商品の特性上、「心配だからちゃんと話を聞いて納得して購入したい」というお客さまが多いと思っています。コールセンターの整備をするなどして、買うまでのプロセスの中で安心感を付加価値として提供したいですね。
このほか、従来は買取機能しかなかった買取専門店も取り寄せに対応することで、お客さまとの接点を持てる場を拡大する取り組みもしています。すでに「経堂農大通り店」(東京都世田谷区)、「向ヶ丘遊園駅前店」(神奈川県川崎市)などで同施策をスタートしています。
持株会社化でめざす スピーディーな意思決定
――10月1日より「コメ兵ホールディングス」となり、持株会社体制へと移行しました。この狙いは。
石原 やはり意思決定のスピードアップと権限移譲です。以前から、名古屋にいる私が、世界各地で展開している事業についてベストな判断ができているのか、という点が引っかかっていました。いくら資料を詳細に眺めても、現地のスタッフでなければわからない“肌感”というものがあります。現地に権限移譲をして判断してもらいながら、最終決定だけを私がすることで、よりスピーディーな意思決定ができるようになると思います。また、現地のスタッフにとってもより主体的に事業を進められるというメリットがあります。コメ兵としても、親会社としてグループ企業のサポートをしながら、さらに自身で事業も行うよりは、親会社としての役割はコメ兵ホールディングスに、今までの事業はコメ兵に、役割を分割してそれぞれ集中した方が良いと考えています。
コメ兵が推し進める今後の展開
――今後、特に注力したい事業分野を教えてください。
石原 コメ兵HDでは、大きく分けてブランドリユース事業と、「クラフト」などのブランド名で専門店を展開しているタイヤホイール事業の2つの事業を展開しています。オークションや海外事業などまだまだ伸びしろがありますので、リユース事業には引き続き注力していきます。ただ、タイヤホイール事業についても、株会社化して以降順調に業績を伸ばしており、こちらについても力を入れていきたいと考えています。
――デジタル化の領域においては今後どのような取り組みを行っていきますか。
石原 直近で大きく投資を行っているものとして、真贋判定を行う「AI真贋」などの「リユーステック」の開発があります。これは、偽物を排除するだけでなく、査定中の待ち時間を削減し、満足度を高めるための取り組みです。現状では、熟練の鑑定士であれば自力で鑑定した方が早いのですが、AIが鑑定作業の補助をすることで、鑑定士はお客さまとのコミュニケーションに時間を割くことができます。また、AIを用いることで新人鑑定士の教育期間の短縮も見込めます。鑑定士は鑑定だけできればよいのではなく、接客や言葉遣いなどがきちんとできて初めて一人前です。そうしたソフト面の教育により力を入れ、AIに任せられる部分は任せることで、教育期間を短縮できると考えています。肝心の判定率ですが、一部のブランドでは99.9%に近い数字になってきています。AIの性能改善も引き続き行っていきます。
――最後に、コメ兵HDのビジョンについてお聞かせください。
石原 コメ兵はリユースを得意とする会社ですから、モノの寿命を長持ちさせ、価値を未来へつないで行く、つまり循環型社会を実現する使命があると考えています。ホールディングス化によって各社の良さが繋がり、循環型社会を実現するための土台が整いました。それぞれの事業会社が、それぞれのお客さまにしっかり向き合うことで、循環型社会を実現するための一助となっていきたいと考えています。