新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の問題で、Withコロナ時代を迎え、DX(デジタルトランスフォーメーション)と言う言葉が浸透し、オンラインとオフラインが溶け合う新しい日常へと急激なシフトが進んだ時代。これまでの連載を通じて、これからますます小売業界の「本質的価値」と向き合う時代になっていくこと。グローバル視点から見た小売の状況と比較する視点。そして「小売業界を中心に企業が手を取り合って、日本経済を元気にしていこう」というメッセージを発信した。体現するべく「消費の現場」を応援するソーシャルアクションとしてTMJP2020(チームジャパン2020)の取り組みのきっかけと、現在の消費者行動の変化、そしてビジョンの重要性について語った。今回は引き続きTMJP2020の活動を通じて見えてきた学びについて小売業界のこれからに繋がるヒントを語っていきたい。
2:生産性を高めるスキルと自助成長マインドセットを「学ぶ」こと
デザインアクションでビジョンを磨いた後、次にすべきことはそのビジョンを叶えていくために必要なスキルとマインドセットを身につけることだ。そこで「消費の現場」に必要な「安全な消費」をかなえる知恵を持つプロフェッショナルに話を聞く、全23回にわたる連続ウェビナーを開催した。この取り組みを行った背景としては、「消費の現場」の支え方として、世の中は補助金・寄附金など金銭的サポートの話ばかりに注目が集まりがちだったという問題意識があった。老子の「魚と釣り方」の例え話に出てくるように、一時的にお金を援助する解決策は短期的には大切だがそれだけでは本質的な解決策にならず、ずっと魚を与え続けないといけないことと同じだ。一方もし「安全な消費」をかなえる知恵をシェアし、事業者自身が釣り方を覚えることができたならば、飲食店や小売店自らが自走することが可能となる。そこでこのプロジェクトでは、様々な業界の消費の現場における課題を共有し、生産性を高めるスキルセットと、自ら成長しようとする「自助成長」を養うマインドセットについて様々な業界のプロフェッショナルに話を聞きYouTubeで発信するという取り組みを行った。
自助成長につながるマインドセットとしては、まずそもそもリモートでの学習について否定的な人はそのバイアスを取り除くことから始めてほしい。アメリカの一流デザインスクルールArt Center College of Designで自らコロナ禍でのリモート教育をいち早く実践してきた大島 陽氏は「リモートで学びの質はむしろ向上できる。教え方・学び方にこそ、クリエイティビティが求められる」と語る。つまり、リモートだから無理というのは、理由にならない。それはデジタルを活用した適切な教育方法を工夫できていないだけだという。また教育ガラガラポンプロジェクト代表の福田 崇氏は「今の時代、教育に正解はない。教育の多様性(ダイバーティ)こそ探索しよう」と語る。つまり先が見えない時代こそ、その企業が目指すビジョンや理念や従って教育を行うことが大事だということだ。また京都で120年続く美容室を経営する久田 智史氏からは「『安全対策』はやりすぎ くらいでちょうどいい」という言葉を教えてくれた。なぜなら顧客を安心させることでようやく、人は来てくれる。つまりひとまずできる限りの安全対策を消費の現場を行い、誠意を尽くすこと。こうして安全を気にする人を安心させなければ、経済は回り始めないということだ。
また生産性を高めるスキルセットとしては、オンラインで飲食店を取材しnoteのプラットフォームを活用し有料記事としてレシピを売る「読む料理店」というソーシャルアクションを行った庄司 真帆氏に話を聞いた。「支え方のカタチは、もっと自由でいい。今あるものを活かして自分らしい支え方をしてほしい」というメッセージをもらった。またガイアックス ソーシャルマーケティング事業部の重枝 義樹氏からは「コロナは将来起こるべき未来を加速させただけ。小さなお店が大きな影響力を持てる時代になっていく」という視点を語ってくれた。さらに日本全国のテナントのデータを分析する株式会社テナンタの小原 憲太郎氏からは「長期的視野にたてば、今は出店のチャンスだと思う。小さく無理しない範囲で、柔軟性と遊び心を持って出店戦略を進めることで、倒産のリスクも低くチャレンジしていくことができる」と語ってくれた。また 「オンライン就活」事業責任者の管 大輔氏とフェズの取締役の林雄貴の対談では「Withコロナで『リアル』の意味が変わった。対面かどうかよりリアリティをどう伝えるか」が大切であることが、ディスカッションを通じて見えてきた。このように様々な消費の現場のプロフェッショナルから直接Withコロナ時代の最新の知恵を聞くことで、ひとつの業界だけではわからない本質的な課題や解決策が少しずつ明らかになってきた。
3:消費の現場で働く一人一人が内省し内発的動機を「見つめる」こと
消費の現場の課題をリサーチと議論を重ねていく中で、先が見えないコロナ禍では心理的な不安が大きく増加していることに気づいた。小売や飲食で働く人々は、接客のために日々自身の命の危険を晒しながらも「消費の現場」でサービスを提供している。こうした人々は、自分自身と家族の命のリスクを背負いながらも真摯に仕事に向き合っている。しかし日本では「お客様は神様」思考が強く、感謝されるどころか、苦情を浴びる対象になっていたりする。実はこの点に関しては以前の連載で書いた通り、オランダの場合は顧客と店員は対等な立場とみなされるため、このような構造は起きにくい。つまり日本は海外以上に、消費の現場で心を病みやすい構造にあるのだ。そこで今回多くの優秀なコーチを抱えるZaPASSとコラボし、有志のコーチ達によりコロナ禍で一歩踏み出したい方へ無償のコーチングを提供するTMJP_Coachingというアクションを行った。 プロコーチの岡田裕介氏は「自分の意識や行動にブレーキをかけているサボタージュ(破壊工作)と向きあおう」という言葉をもらった。さらにコーチング.comの代表の垂水 隆幸氏からは「自分と相手の性格のクセを把握することで自分自身の社会での活かし方が見えてくる。」というメッセージを頂いた。
4:異業種へ越境し、共にイノベーションを起こす仲間を「見つける」こと
こうして内面を見つめた先に新しいチャレンジを起こしたいと思った時、次にやることは仲間探しである。なぜなら、複雑化した時代に、自分一人ではできることに限界がある。新しいイノベーションを起こすためには多様なスキルを持った仲間との出会いが必要だ。そこでマッチングプラットフォームを推進するCoFINDとコラボレーションし、TMJP_Findの取り組みを行った。ワークショップを通じスキルの違うメンバー同士のマッチングを行う取り組みであった。このプロジェクトの代表の井上 翔宇からは「まず夢を語ろう。そこから想いに共感する仲間は集まる」ということを自分自身の経験を踏まえて語ってくれた。
また「渋谷をつなげる30人」などの産学連携プロジェクトを手がけるPRプランナー日比谷 尚武氏とフェズの中澤 泰史氏の対談では「異分野がつながるコミュニティを大切にすること。普段から異なる業界・業種の仲間とじっくり絆を育んでおくことが、有事に何か新しい行動を起こす際に大きな力となる」と教わった。また エンジニアとデザイナーとコピーライターが連携した#SOSMAPJAPANチームからは「それぞれの得意にフォーカスし、チームでリスペクトしあうこと」の大切さを語ってくれた。さらにベストセラー『ティール組織』をプロデュースした嘉村 賢州氏は、これからの消費の現場における組織のあり方としては「現場が考え動くセルフマネジメント型組織」が現代で求められていると語った。コロナ禍には、トップダウン型の硬直した組織よりも、現場が自身の判断でしなやかに動く生命体的な組織へとシフトしていくべきなのだ。またイノベーター・ジャパン代表取締役の渡辺 順也氏と電通の小川 滋氏の対談では「これからは職場や地域の仲間とともに、子育てや家事をシェアしていく『働く』と『育てる』が両立する未来」こそが大事であると具体的な事例を通じて語ってくれた。
このように異分野から学び、自分たちの内面を見つめ、繋がるべき相手と繋がること。これはコロナ禍を経て、より重要になってきているファクターではないだろうか。どうしても小売業界は普段、近い商圏のライバル店舗や小売業界の中だけに視点がむきがちである。こうした日本の世界の危機的状況こそ、異分野の知恵についても目を広げていくことは十分に有益なことだと考えられる。小売業界よ、小売業界を出てよのなかと広く繋がろう
前回:「消費の現場」を応援するソーシャルアクションに学ぶ、消費者行動の変化とビジョンの重要性
次回:「消費の現場」を応援するソーシャルアクションに学ぶ、願う未来と可能性のカタチ。
堤 藤成
株式会社フェズ クリエイティブ・ディレクター/PR/コーチ
新卒で電通に入社し、コピーライター、デジタルプランナーとして、様々な小売・メーカーの店頭プロモーションやブランディング、人工知能コピーライタープロジェクトなどの新規事業等を担当。その後マレーシアのELM Graduate Schoolにて、MBA(経営学修士)取得。現在は『「消費」そして「地域」を元気にする。』をミッションに小売業界のデジタル革新を担う株式会社フェズに転職し、クリエイティブ・ディレクションと広報に従事。オランダ在住のリモートワーカーとして、EU圏からアジア圏まで、海外リテイルのトレンドについてもリサーチを進めている。