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ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営8 家計の現預金1,031兆円は誰の手に行くのか

ウィズコロナ時代のショッピングセンター(SC)経営第8回は、ECが売上を伸ばすなかで、改めてリアル店舗の価値、ECの価値とは何かを考えたい。多少厳しい論調となるが、いまビジネスモデルの在り方を刷新しないとSCの将来は暗いものになると案じているがゆえ、であることを理解してほしい。だが、お客さまは正直だ。それが数字に表れているのである。

bgkovak / istock

リアル店舗の価値とECの価値

 コロナ禍による緊急事態宣言が解除されたにも関わらず、ショッピングセンターの売上は戻らない(図表①)。この理由として、人の移動、消費者の意識、不要不急の自粛など多面的な要因がある。しかし、その一方でECは伸び、生活に必要な物資の売上も安定している。消費者は決して買い物をしていないわけでは無いのだ。

図表①SC、百貨店、チェーンストアの対前年同月比の売上の推移

 この事実を踏まえて今後のリアル店舗の行く末に対する処方箋を前号で提示した。

 その前回の連載で、「ネット時代において店舗は商品の受け渡し場所に過ぎない」と書いたところいくつかのお叱りをいただいた。

 これまで店舗運営を商いにしてきた方にはやや表現が厳しかったようだ。

 しかし、古来、市(いち)も商店もすべて商品の受け渡し場所であったはずだ。店舗に商品を並べ、客が来れば金銭と交換し商品を受け渡す。

 今はそれがネットで決済を済ませたものを店舗で受け渡したところでそれは金銭の授受がネットで完結しただけであって、店舗の機能は何も変わっていない。

 反論のほとんどが「店舗では実体験(フィッティングや接客)があるからただの受け渡し場所じゃない、そこにはコミュニケーションが存在する!」なのだが、それが店舗機能の価値であることは理解できる。しかし、ECであれば出かける必要もなく、自宅で買い物ができ、自宅まで配送される。こうした利便性こそがECの価値である。

 さて、顧客はどちらに利便性(価値)を感じるのだろうか。人ぞれぞれだとは思うが、今、SCも百貨店も売上が減少していることに反してECが伸長している事実を見ればその答えは明らかではないだろうか。

コミュニケーションは店舗の専売特許ではない!

 この「店舗にはコミュニケーションがある」の主張には大いに疑問を感じる。なぜならネットでのコミュニケーションの方がはるかに進化し、活発に行われているからだ。

 ECサイトでは口コミを読み、メルカリでは見ず知らずの人とやり取りを行い、急成長を続ける中国EC第3位の拼多多(ピンドゥオドゥオ)に至ってはメンバーを募りグループ買いまで行う。

 消費者は毎日のようにツイッターやFacebookやインスタグラムにコメントする。これをコミュニケーションと言わず、何というのだろうか。

 これまで店舗で「いらっしゃいませ」と会話してきたものがネット上で形を変えたコミュニケーションが形成されている現実を受け止めて欲しい。

 店舗の店長でさえ、ツイッターやインスタグラムで顧客とつながり、ネット上で顧客とコミュニケーションを取る動きがどんどん進んでいる。店舗はコミュニケーションだと主張する方はSNSでのコミュニケーションをどう思うのだろうか。

 

 この現実を直視していないからこそ、今の状況(問題)がある。そのことに早く気がついて欲しい。

 筆者はもちろん店舗は嫌いではないし、店舗の存在を否定するつもりも無いし、存在価値を陥れるつもりも無い。実際に未だ買い物は百貨店を愛用している。

 ただ、ネット社会が進み、SCMもECもDtoC(自社で企画製造した商品を自社サイトや自社店舗で販売すること)も全てネットの中で行われていることを前号で指摘したが、まずこの事実を真正面から受け止めないと本当に店頭にお客さまは来なくなると憂慮し、リアル店舗、SCを愛するがゆえにその将来に警鐘を鳴らしているのだ。

 

SCは次のビジネスを考える時がきた!

 今、情報をどこで得ているか。そのほとんどはSNSなどネットを流れるチャネルから入手しているのではないか。

 スマホを片手に「これを下さい」と店舗に来るお客様が多いことでもそれを物語たる。今、何かを知りたければyoutubeで検索すればほとんどのことが無料で学習出来る時代だ。

 今後は、学校も予備校も塾も留学もすべてがネットに置き換わるだろう。

 過去「店舗は情報媒体だ」と言ったことを聞いたことがあるが、それもゼロでは無いが、その機能価値は相当減少しているのではないか。

 「物販はECに任せる」それくらいの割り切りと潔さを今、SC事業者は持つことが必要だろう。その上で次のビジネスを考える時期に来ているのだ。

 このままで国際会計基準(IFRS)では売上にならない消化仕入れを自らの売上高だと言い続けている一部百貨店と同じ道を辿ることになるだろう(J.フロント リテイリングはすでにIFRSを適用している)。

 

 では、SCの価値はどこにあるのか。この課題感の下、本連載を寄稿している。ぜひ、今一度、この連載を読み返してほしい。その答えが必ず見つかるはずだ。

 コロナ禍によって積みあがった家計の6月末現預金1,031兆円(日銀発表)がECだけに流れてしまわないために。

 

 

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。