流通気象コンサルタントの常盤勝美です。ウェザーマーチャンダイジング(以下、ウェザーMD)に関連する仕事に従事してはや20年余。気象予報士という気象のプロの立場から、全国延べ6000万人規模の購買情報をもとにビッグデータマーケティングをしているTrue Dataで流通業界のお手伝いをしています。
今年は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、気象とは関係性の薄い売れ方をする商品があった一方で、長梅雨、猛暑、猛烈な台風などといった異常気象とも言える多くの現象が発生し、気象情報の重要性を改めて認識することもありました。
ここで改めてウェザーMDの基本的な考え方を確認しつつ、「これまでに経験のない」状況が頻繁に起こる今の時代、流通業界全体をより活性化するために情報を発信していきます。
ウェザーMDが注目されるようになった2つのきっかけ
まずはウェザーMDの基本の話から。ウェザーMDとは気象情報を活用したMD(商品政策)であり、小売からメーカーまで流通業界で幅広く実践されています。そもそも昔から天気や気温によって売るものや、売り方を変えるというのは当然行われてきましたが、「ウェザーMD」という手法がとくに注目されるようになったきっかけが大きく2つあります。
1つはプロ野球の試合が行われる球場で販売する弁当の製造量調整です。まだ屋根付きのドーム式球場が主流でなかった時代、雨などによって試合進行が困難と判断される場合は、試合が中止されることがよくありました。
試合が行われれば数万人規模の客が入り、それに対応して多くの弁当が売れます。ですが、試合が中止になった場合、観客はゼロとなり、当然弁当は全く売られる機会がありません。試合実施を見込んで作られた弁当が大量に廃棄されることになってしまいます。
このリスクをなるべく軽減するために、民間気象会社と契約して試合が行われる球場周辺の詳細な気象情報を入手し、弁当の製造量を決める参考にしていました。この取り組みが、物の売れ行きと天気の関係の重要性が一般に認識される一つのきっかけとなりました。
気象データ活用の先駆けはあの業態
もう1つは、当初コンビニエンスストアで、発注仕入れを行うパソコンの画面の中に気象情報を表示させるような機能が取り入れられたことです。それまでは店舗から電話番号「177」をダイヤルして気象庁の天気予報電話サービス(若い人はもはや知らないかもしれません…)を聞くか、発注担当者が出勤前に家や車の中で聞く天気予報の内容を覚えて毎日発注作業を行っていました。
それが発注の際、しかもその店舗のピンポイント予報という形でパソコンの画面に気象データが表示されるようになりました。その施策が廃棄ロス、機会ロスの削減に大いに貢献したことがコンビニエンスストアでの決算発表の場で示されたのです。この頃から、店舗で使う発注端末上に気象データが表示される仕組みが流通小売業界に一気に広まっていきました。
ひとくちにウェザーMDといっても、さまざまな部署で、それぞれの用途で活用されています。私がこれまでお手伝いさせていただいた内容を中心に、次回は主に食品スーパーにおけるウェザーMDの活用手法についてまとめたいと思います。
常盤 勝美
株式会社True Data 流通気象コンサルタント 神奈川県小田原市生まれ。大学で気候学、気象学を専攻した後、20年以上にわたり民間気象情報会社にて、コンビエンスストア、スーパーマーケット、食品メーカーなどに対してウェザーマーチャンダイジングの指導などを行う。現在は株式会社True Dataに所属し、流通気象サービスを推進している。著書に「だからアイスは25℃を超えるとよく売れる」(商業界)など