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JRC桜井多恵子氏が「コロナ以前から流通危機は始まっている」と警鐘を鳴らす深刻な理由

コロナ禍で、ビジネス環境が様変わりした流通業界。だが、「その流通業各社が抱える根本的な問題は、実はコロナ危機以前から顕在化していた」と日本リテイリングセンターシニア・コンサルタントの桜井多恵子氏は指摘する。桜井氏が指摘する「流通危機」とは一体何か?その解決策は? 日本リテイリングセンターが7月8日〜9日にかけてオンライン上で開催したペガサス政策セミナーの講義から知見をまとめた。

Moyo Studio/ istock

コロナ禍でも伸びた フードサービス企業と衣料専門店企業

 まずは、直近の各フォーマットごとの動向から確認していく。総務省統計局が発表する「消費支出」(全国・二人以上の世帯・名目)を見ると、3月中旬以降本格化したコロナウイルス感染拡大に伴い外出を控える人が増えたため、3月5.5%減、4月11%減と大きく減少した(編集部補記・6月は同16.2%減)。

 コロナ禍では、食品スーパー(SM)は学童の自宅待機と外食需要を内食提供者として取り込んだことにより大幅に伸び、SM3団体発表の既存店売上高は3月7.2%増、4月10.7%増となっている(編集部補記・6月は同4.5%増)。ホームセンター(HC)も在宅ワーク用品として小型家具などが売れたため上昇したが、百貨店は4月72.8%の大幅減でフードサービス(fs)もテイクアウトのみの営業となった企業が多いため同39.6%の減少となった。

 それらフォーマットの有力企業数社ずつをピックアップし、その既存店売上高の推移を見ると面白いことがわかる。フォーマットごとに明暗が分かれるなか、企業によっても差が出ている。「SMは外食自粛で、客数が増えない中、客単価が上昇した。そうしたなかで人口密集地に店がある企業などは客数が落ちずに客単価が上がったものだから大きな上昇幅になった。概して首都圏の企業はこの傾向があるが、郊外のSMでも大きく伸びた企業としてハローズ(広島県)が挙げられるが、これはディスティネーションストアとして定着しているためだ」と日本リテイリングセンターシニア・コンサルタントの桜井多恵子氏は解説する。

 苦戦が続くフードサービス業界で唯一伸びているのは元々テイクアウト比率が高いモスフードサービス(東京都)で、3月0.9%増、4月3.7%増、5月2.2%増となっている。「かつや」を展開するアークランドサービスも悪くなかった。また、衣料専門店では「ベビー子供用品はここに行けばある、ということが消費者に知られているディスティネーションストアである西松屋チェーンだけがプラスとなった。それ以外の企業では、オンライン販売が強いかどうかで減少幅に差が出た」(桜井氏)。

食品スーパー、ドラッグストア、ホームセンターのいちばんの問題点

 このように、よくも悪くも流通業界にコロナウイルス感染拡大の影響が出ているわけだが、「実はコロナ危機以前から、流通危機は始まっていた」と桜井氏は警鐘を鳴らす。

 チェーンストア理論では、店舗あたりの売上を増やすのではなく、店数を増やすことで成長を実現する。ところが、フォーマットの同質化と飽和化に伴い、店数増加にストップがかかっているという。

 「いちばんの問題は、一店あたり人口の激減だ。SMはわずか9000人で、役割が同じ生協の店舗を含めると7485人しかいない。ドラッグストアも7000人、HCも3万人を切っている。この現実は、このところ売上、客単価が上がっていようとも、変わりようのない事実だ。売上の好調さにかまけていては、打つ手が遅くなる」(桜井氏)

 これまでは「同じフォーマット間の同質化」だけだったが、いまでは品揃えが似通ってきたため、異なるフォーマット同志の同質化へと進んでおり、事態は悪化する一途だ。

 そこで必要なのが品揃えの見直し。「良いチェーンは、ベンダーまかせをやめ、独自のソーシングとバーティカルマーチャンダイジングを進めている。ダメなチェーンは個店対応に逃げているが、これをやると人時生産性(従業者1人あたり粗利益高のこと)が下がるだけだ」(同)

 その人時生産性についても、各フォーマット大きな課題を抱えている。たとえばSMの場合、店段階では6000円があるべき数字なのに対して、8割のSMは2500〜3500円に止まっている。なぜ人時生産性が大事かといえば、あるべき労働分配率(=人件費/粗利益高)に引き下げて十分な収益性を確保した上で、人手不足下でも、他社よりも高い賃金にして有能な人材を確保できるようになるからだ。

「人時生産性6000円を実現できれば、労働分配率34%の場合、時間あたり人件費を2040円まで支払うことができる。これが人時生産性3000円であれば、同じ労働分配率の場合、1020円までしか払うことができない」(同)

 課題山積の流通業。抜本的な作業改善と、バーティカルマーチャンダイジングの導入やローカルブランドの発掘等による他社と同質化しない品揃えの実現による粗利益率の改善が求められている。とくにコロナ禍が追い風となったSM、ドラッグストア、ホームセンターにとって、いま改革に取り組むか否かが、「風」が止んだ後の運命を決めることになりそうだ。