これまで2回にわたって、国内ショッピングセンターを取り巻く厳しい状況を踏まえ、テナント売上に依存するショッピングセンタービジネスの限界について述べてきた。第3回となる今回は、解決編として「これからのショッピングセンターのビジネスモデル」について解説したいと思う。
限界を迎えるショッピングセンターのビジネスモデル
前回、ショッピングセンターのビジネスモデルとは、不動産の価値とテナント売上高の乗数によって成り立つビジネスと解説した。
ショッピングセンター事業は、周辺の賃料相場や取引事例が無くともテナントの売上高が予測できればその一定額を賃料と言う名目で収受することによって成立し、そのリターンを裏付けに資金調達と投資実行を可能とする画期的なものであった。
しかし、今は、人口が減り、ECが伸長し、温暖化による自然災害が多発する時代にあってはテナント売上を前提にしたビジネスモデルは危機に瀕している。
それでもショッピングセンターがこれまで継続できたのは、「最低保証付き売上歩合制」というリスクヘッジされた固定賃料があったためだ。それにより、小売業である百貨店ほど売上減少の影響を大きく受けることもなかったのだが、今般のコロナ禍によって店舗が休業し、固定賃料さえ収受することが難しくなり、その脆弱さが露呈したのだ。
ショッピングセンターモデルは、人口増加、経済成長、中産階級の増加、大量生産・大量消費の背景があって初めて成立する仕組みであることは紛れもない。
しかし、ショッピングセンター事業者も人口の減少を座して見ているわけではなく、テナントの種類や時間消費機能を強化し、それなりに工夫と努力を行ってきた。
不動産も単に活用するだけでなく、流動化手法を取り入れながら資金化と再投資を繰り返すビジネスモデルを2000年以降は進めてきている。
しかし、その努力もむなしく2019年の出生数は90万人を割り込み、消費市場が大きく減退し、2008年のスマホの登場によってECが大きく伸び、その座を浸食されているのである。
では、この環境の中になってこれまで「最強の流通業態」と言われたショッピングセンターのビジネスモデルは終焉を迎えるのだろうか。
ショッピングセンターは本当に変化対応業か
終焉−−。非常にネガティブな言葉だが、逆を返せばこれまでのものが終わり、新たな萌芽を予感させる言葉でもある。
これまで「ショッピングセンターは変化対応業」と言われてきた。しかし、この変化対応業の意味は、人気のテナントや目新しいテナントを誘致し、ショッピングセンターで扱う商品やサービスを時流に合わせてスイッチさせるだけの変化対応を指している。つまり、時代と共に消費者が希求するものが変われば、それに対応したものをいち早く取り揃えることを変化対応と言ってきたのである。
そこでは不動産賃貸業という基本的スキームは変わらず、「不動産×テナント売上」という図式もそのままに、単にリニューアルと呼ばれるテナント入れ替えに終始してきたのだ。これまでは、それで十分継続的な経営が可能であったのである。
ショッピングセンターでいうリニューアルは改装であったりテナントの刷新であったり、その程度のことを指す。一般的に考えるリニューアルとは程遠い「リフレッシュ」のレベルであり、これが問題を先送りしてきた原因の一つにもなっている。
しかし、本連載の2回目で指摘した人口の量と質の変化は、そんな簡単な変化対応やリニューアルでは到底耐えられないものになってきている。
問題の所在を間違えるショッピングセンター事業者
「売上が落ちると困る」とショッピングセンター事業者は口を揃えて言う。だが、そうではないのだ。「売上が落ちると困る”ことが困る“」のである。
要するに問題は「売上が落ちること」では無く、売上が落ちることで経営の足元が揺らぐ、その体質が問題なのだ。
しかし、売上が落ちると困るとばかりに、販促、店舗巡回、営業指導、スタッフ研修、フロア担当強化、接客ロープレ、スタッフ懇親会と50年間変わらないアナログ、かつ労働集約的な施策を繰り返し、運営現場では前途有望な若者達の時間をこのようなことに日々費やしている。
この先、10年、20年、この仕事を続けた若者達は、今後、
少し話が横道に逸れたが、要するに売上が落ちることを問題視するのではなく、「売上が落ちても困らないビジネスに変わる」しか無いのである。
そうでないと人口減少、少子化、高齢化、ECの伸長、人出不足、気候変動による自然災害、これらを乗り越えることは到底したいできないばかりか、少ない働き手の成長を阻むことにもなりかねない。
今、必要なのは現実を受け止めること
これから起こる事象のすべては、あらゆるビジネスに影響を及ぼす。決してショッピングセンター事業に限ったことでは無い。すべてのビジネスがあまねく影響を受ける。
では、どうしたら良いのか。これには大きく2つの前提が必要である。
1つ目は、今起こっていることを認めることだ。たとえば、毎年起こる豪雨被害を異常気象と言っている限り、それを認めていない証拠である。
「今年は暖冬で服が売れない」、この言葉も何年聞いたことだろう。だが、日本では過去100年で平均気温が1.24度上昇し、温暖化は止まることは無い。これは、現実のことなのだ。
暖冬だけではない。働き方が変わり通勤着はカジュアル化し、非正規労働者の増加で国民の平均年収は下がり、デジタル変革が遅れるアナログ企業は衰退していく。
今後は在宅ワークでオフィスが不要になり、コロナ禍によって集客イベントや展示会などは縮小しオンラインに移り、接触回避のためキャッシュレス化は進む。すべて現実なのである。
2つ目は、この現実をスタートライン(出発点)にすることだ。「そんなはずじゃない、昔はこうだった、できたはずだ」、こういった主張は明らかに過去を引きずっているからに他ならない。
新入社員に「先輩から仕事を教わって早く戦力となれるよう頑張ってくれたまえ」と訓示するのは、これまでと同じ仕事が続くことを前提にしている。
同じ仕事が続けば先輩から作法を習ってその通りに動き、改善の繰り返しと業務効率を上げることで利益が出せた。
しかし、今は違う。前号で指摘したが生まれてくる子供の数は3分の1になっているのだ。そして、この先、10年後を誰が予測できるだろうか。
だからこそ、この2つがすべての基本になるのである。
ショッピングセンター事業の経営資源と機会損失
これからのショッピングセンターのビジネスモデルを考える時、重要なのはショッピングセンター事業の経営資源を認識することである。
ショッピングセンター事業の経営資源とは、①不動産、②顧客、③テナント、④人材、⑤ブランド、この5つである。では、この5つの経営資源を今、最大限有効に活用しているのだろうか。機会損失は無いのか考えて欲しい。
具体的には、今経営(運営)しているショッピングセンターについて、①不動産の使い方(用途)はベストなのか、②商業用途に偏っていないか、③収入をテナントの賃料だけに頼る経営をこの先も続けていくのか、④賃料以外の収入を得る術は無いのか、⑤テクノロジーを使って自動化できることは無いのか、⑥やめられる業務は無いのか、⑦訪れる顧客から直接収入を得ることはできないのか、⑧SC企業に働く社員の能力を最大限活かしているのか、これらを1つずつ検証することである。
これらの検証作業の1つとして、顧客生涯価値(LTV)について考えて欲しい。
ショッピングセンターが開業すると「何万人来場者がありました」とリリースされる。しかし、その数をどれだけ誇らしげに発表しても、そこから生み出される収益はテナント売上高を通じて徴収する賃料に限られる。
努力して集めた一人ひとりのLTVからどれだけの収益がもたらされているのかショッピングセンター業者は考えて欲しい。
現状テナントから得る収入も賃料しか無いが、ショッピングセンターは単に店舗の売上高だけでなく、テナントの企業成長によって得られるリターンを得ることはできないのか、など、考えなければならないことは無数にあるのだ。
効率化を進める上では、「既得権益と抵抗勢力」が問題になる。業務効率を上げるため機械化を推進しようとすると「この業務は自動化出来ないんですよ」と抵抗勢力が現れる。この場合、機械化、自動化出来ない業務は、その業務そのものを止めてしまう勇気が必要となる。それで仕事を失う人が出てくることもあるが、そこは工夫するしかない。
これからのショッピングセンタービジネスモデル
ショッピングセンタービジネスの進化が止まる原因の1つは2000年の資産流動化法の改正が大きく影響している。不動産の流動化は所有と経営を分離した近代経営と言われたもののショッピングセンター事業においては所有と開発と運営が分離したことによってバリューチェーンが分断され、それぞれの最適解を目指すあまり情報流通が止まり、機能の一部がガラパゴス化し、進化に取り残されてしまったのだ。
そしてもう1つがグローバルスタンダードに乗り遅れたことである。日本で当たり前のように行われている売上金管理、賃料清算、クレジット包括加盟、販促、営業指導、テナントコミュニケーションなど日本特有のものであり、それを疑いも無く続けてきている。
しかし、90%がキャッシュレス化した中国において現金管理など成立するはずも無い。
20年前、日本のショッピングセンター事業の仕組みを諸外国に向かって発信すると皆が驚き興味を示した。
しかし、今やアジア各国の事業者に日本のショッピングセンターモデルを解説するとあまりのアナログさに驚かれる。「日本では、まだ、そんなことしてるのですか?」と。実は日本のショッピングセンター事業はこの20年でここまで遅れてしまったのである。
これからのショッピングセンタービジネスモデルは、この現実を受け止めた上で、先に解説したショッピングセンター事業の経営資源と機会損失と視点と検証、これらを1つ1つ考えることをショッピングセンター企業に期待するところである。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。