米ウォルマートがセルフレジの導入実験をスタートさせた。アーカンソー州の本社近隣にあるスーパーセンター業態の店舗を改装し、キャッシャーが扱う従来型のレジを全て撤去。セルフレジのみを設置した店舗の実験を開始したのである。小売世界最大手のセルフレジ導入は業界にどのような影響を与えるのだろうか。
取材協力:高島勝秀(三井物産戦略研究所)
本社付近の店舗の全レジをセルフレジに!
2020年6月中旬、ウォルマートは本社近くのスーパーセンター店舗でセルフレジの導入実験をスタートした。目的は、顧客のレジ待ちの時間の短縮、そして顧客と従業員の接触機会を削減することで新型コロナウイルスの感染リスクを減らすことである。
「接触回避」という観点では、アマゾンなどが展開している「レジレス店舗」「無人店舗」や、カートに商品を入れる段階で顧客自身がスマートフォンでスキャンして購入品として登録する「セルフスキャン」がより効果的だろう。
ただ、いわゆる無人店舗は導入コストが高く、ウォルマートのように大型店を構え、低価格を訴求する業態での導入は現実的とは言えない。セルフスキャンについても、ウォルマートでは過去に試験導入したものの、「スキャン飛ばし」による万引きが同社の想定をはるかに上回ったことから、2018年4月に試験を打ち切ったという経緯がある。
ウォルマートは、こうした理由を踏まえ、さらには感染回避のニーズが低下した後の時代を見据えた最良の選択肢がセルフレジであると判断したうえで、セルフレジの導入を加速させるものと考えられる。セルフレジの場合は、問い合わせやトラブルに対応する従業員を複数台のセルフレジごとに配備することで万引き対策は可能との見方を示している。
ウォルマートの導入でセルフレジがスタンダードに?
このような事情は大半の実店舗リテーラーに共通しており、多くのプレイヤーが最大手ウォルマートの選択に追随する可能性が高い。三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は「セルフレジがスタンダードとなる流れは一段と加速していくだろう」と予想する。
セルフレジがスタンダードになった世界では、「顧客とのコミュニケーションをどのようにとっていくのか」が課題となる。
セルフサービスの仕組みが開発された1910年代から現在に至るまで、店舗スタッフと顧客の唯一の接点であるレジでのコミュニケーションが重視されてきた。セルフレジが浸透していくと、そのような接点が失われることになる。
それを理由にセルフレジの導入を躊躇する企業もあるが、「裏返せば、レジ業務から解放されるマンパワーを使って、店舗でのさまざまな場面を顧客とのコミュニケーションの場として設定できるようになるということでもある」と高島氏は指摘する。
売場での案内や質問への対応、そして商品を用いた実演やレクチャーなど、店頭ではさまざまな形のコミュニケーションが可能であり、それを顧客の来店、購買を促す武器に仕立てることも考えられる。「顧客とのコミュニケーションの在り方とその設計、そのための人材活用・育成は、ポストコロナの時代に向けた、実店舗リテーラーの競争力のカギとなるだろう」(高島氏)。