いまだ収束の兆しが見えない新型コロナウイルスの感染拡大問題。流通大国の米国における感染者数は183万人に達し、死亡者数は10万人を超えた(6月3日時点、厚生労働省とりまとめ)。危機的状況が続く中、米小売プレイヤーの明暗が分かれはじめている。コロナ危機における勝ち組プレイヤーはどの企業か。
取材協力:高島勝秀(三井物産戦略研究所)
リアル小売運営のネットスーパーが急伸!
コロナ危機下の米国におけるリテール産業の実状が、直近に発表された主要小売の四半期決算から明らかになってきた。象徴的だったのは、5月19日に2020年2~4月期決算を公表した米小売最大手ウォルマート(Walmart)の好業績だ。閉鎖された外食店の需要を取り込んだことで、同社の米国における小売事業の売上高は対前年同期比10.5%増と、近年は見られなかった大幅な増収を記録した(図表①参照)。
とりわけ目を引くのがEC事業の躍進だ。外出を制限された消費者の需要を取り込むことで、同社の米国EC事業の売上高は同74%増と、きわめて高い伸びを示している(図表②参照)。
米小売大手のターゲット(Target)にも同様の傾向が見られておる。米調査会社コアサイトリサーチが2020年3月に実施した調査によると、「過去1年間で利用したネットスーパー(複数回答可)」という問いへの回答は、ウォルマートが前年の37.4%から52.3%に増加。ターゲットも15.7%から22.9%に急伸している。この結果について、三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は「コロナショックを受け、多くの新規顧客を獲得した影響が大きいと思われる」と話す。
ちなみにウォルマートでは、EC関連の要員として3月中旬からの1カ月半で約23万5000人を新規に雇用している。「米国全体で2000万の雇用が失われるなかで、(約23万5000人の雇用は)単独の企業の数字としては際立ったものと言える」(高島氏)。
アマゾンの足元売上高は「ほぼ横ばい」
EC最大手のアマゾン(Amazon.com)も、2020年1~3月期の北米EC事業の売上高は対前年同期比28.8%増と大きく伸びている。だが、新規顧客の獲得は限定的で、前述の調査 におけるアマゾンの割合は62.6%と高い水準ではあるものの、前年の62.5%からほぼ横ばいだった。人件費や配送コストの急増で利益は減少しており、宅配遅延の問題も発生するなど、ここにきて課題も多く浮上している。
これらのデータから、「コロナ危機下の米国リテール市場での勝者はウォルマートやターゲットなどの実店舗リテーラーのEC事業」という事実が見えてくる。その要因として、三井物産戦略研究所の高島氏は「実店舗をECに活用していること」を挙げる。
「米国では9割以上の消費者の自宅から10マイル以内にウォルマートの店舗が存在するという状況にある。同社は全米4750店のうち約1600店をEC事業の宅配拠点として活用しており、約3000店でネットから注文を受けた商品を引き渡すサービス(クリック&コレクト)を提供している。こうした体制により、迅速な商品の提供を可能にしている」(高島氏)。
ただ、コロナ下の実店舗リテーラーのEC事業の急進は、アマゾンのようなプレイヤーと比較して成長余地が大きかったという側面もある。ウォルマートのEC事業の推定年間売上高は約390億ドルと、推定取扱額3390億ドルに達しているアマゾンと比べると小規模、未成熟であると言える。いずれにせよ、コロナ収束の兆しがいまだ見えない米国EC市場では、アマゾンと実店舗リテーラーの競合が本格化していくのは間違いなさそうだ。