テレビ通販でおなじみのジャパネット。2019年12月期のグループ連結売上高は約2700億円と過去最高となった。15年に創業者で父である髙田明氏から経営を引き継いだ旭人氏は、「2代目」の重責を担い、事業戦略や働き方改革、組織マネジメントなどを見直し、いかに「ジャパネットらしさ」を打ち出していくかに注力してきた。力を入れているのはアフターサービスの充実だ。自前で商品の修理や交換もできる体制を整えている。なぜコストをかけてまで自分たちでやるのか。その一端を著書「ジャパネットの経営」(日経BP)からお届けする。
「買った後」の体験価値を上げる
当社ではグループ会社を通じて、商品の修理や交換などのアフターサービスも手がけています。通販会社でこの分野に特化した会社を設置している企業は珍しいのではないでしょうか。
実は、ジャパネットは通信販売を始めたときから、アフターサービスに取り組んできました。当時は、地方にある無名の通販会社。「壊れたり、故障したりした場合にきちんと対応してくれるだろうか」というお客様の不安を解消し、安心して商品をお買い上げいただきたいという想いがあったからです。
まずはお客様からの商品購入後のお問い合わせに対応することからスタートし、1996年頃には専門部署を設置。コールセンターで電話を取るオペレーターは、自社で販売している商品の多くを手元に用意し、実際に操作しながら、お客様の質問にお答えしてきました。
当時、修理についてはコールセンターで依頼を受け、メーカーに取り次ぐ形でした。ただ、「いつか修理まで自社でやるべきだ」とずっと父と話していました。
そこで、メーカー各社に事前説明をした上で、社長就任とほぼ同時に、修理の内製化も狙ったアフターサービス専門の会社を設立したのです。
修理担当の従業員には、メーカー主催の研修などで技術を身につけてもらっています。今ではお預かりした商品の7割程度をグループ会社で直せるようになりました。さらに現在は、電話を受けてから修理した商品をお届けするまでの時間を3日以内にすることを目標に掲げ、地道に取り組んでいます。
なぜここまでやるのか。2つの理由があります。
1つは、ジャパネットは「お客様が衝動買いをする会社」だからです。リアルな店舗やネットショップを訪れるお客様には、もともと購入意思があります。しかし、ジャパネットといえばテレビ通販。朝起きて、「よし、今日はジャパネットで掃除機を買うぞ!」と思っている人はほとんどいないでしょう。何となく番組を見ているうちに「掃除機が欲しくなって買った」という人が多いと思います。
だからこそ、お客様に誇れない商品やサービスは販売しません。衝動買いだからこそ、お客様には「ジャパネットで買ってよかった」と感じていただきたい。買って後悔することがないよう、良い商品を紹介するのは当然のこと。アフターサービスまで責任を負うことが大切だと考えています。
2つ目の理由は、メーカー経由ではなかなか耳に届かない、お客様の声が直接聞けるからです。
当社が扱う商品には、ジャパネットだけで販売される限定モデルがあります。これは、メーカーと共同で企画・開発したジャパネットオリジナルモデルです。この商品づくりに、お客様の生の声を反映させることで、より良い商品をお届けできるというわけです。
従来はメーカーから「技術が進み、こうした新機能がつけられます」「お客様からこういう問い合わせが多いので、こうしたらどうでしょう」と提案されるケースがほとんどでした。今はお客様の声を自分たちで把握しているので、こちらからもアイデアが出せるようになりました。
例えば、こんな改善ケースがあります。「掃除機のダストカップをきれいにするブラシが見つからない」という問い合わせが目立ちました。カップを開けると底に入っているのですが、黒い底に黒のブラシが入っているので、埋もれてしまって気づきにくい。そこで、ブラシの色を目立つ白に変更しています。
買った後も含めて価値ある体験にしたい
商品によっては、お客様の声を生かして、次のモデルチェンジまでに10程度の改善を施したこともあります。
また、購入後の問い合わせが多く、返品率が高い商品があったとします。そうなるとどれだけ売っても、お客様満足につながりません。そうした商品は翌年、メーカーと相談しながら改善を図ります。それでも問い合わせ件数や返品が減らなければ、取り扱いをやめる場合もあります。
誤解を恐れずに言えば、かつてのジャパネットは「髙田(明)さんだから買う」「髙田さんが薦めるから買う」だったと思います。父の存在が購買動機の1つになっていました。
父が退任した今、これを「ジャパネットだから買う」に変えていかなければならないと思います。そのために買った後も含めて、価値ある体験をお客様に提供したい。そう考えて、アフターサービスを含め、コールセンターや物流など周辺のサービス品質を磨いてきました。
これは意味あることだと、僕は考えています。
なぜなら、紙媒体の大半を占めるカタログは、ほかの媒体ですでに購入実績があるお客様に送っています。つまり、リピーターの方々に顧客を絞った販売チャネルです。そこでの売り上げが圧倒的に多いということは、リピーターの方々に確実にファンになっていただいている。商品選定やアフターサービスなどを含め、ジャパネットというブランドに対する信頼が向上している証しだと考えるからです。
アフターサービス部門を自前で抱えると、コストも人員も手間もかかります。しかし、努力次第でそれ以上の価値を生み出せるのではないでしょうか。
※ 髙田旭人氏の著書『ジャパネットの経営』(日経BP)78~83ページの記載を、髙田氏および日経BPの許諾を得て転載しました。