世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスだが、一部の国や地域では感染拡大が落ち着きを見せ、活動制限が緩和され始めている。日本ではそれほど大きく報道されていないが、東南アジアもそうした地域の1つであり、経済活動再開の動きが見られる。マレーシアに滞在中の筆者が、市中の様子について現地からレポートする。
レストランでは入店客の電話番号まで記入が必要
5月1日、マレーシアのムヒディン・ヤシン首相は同4日から活動制限令(都市封鎖)を緩和し、大部分の経済・社会活動を再開することを発表した。これにより同12日まで継続予定だった都市封鎖は解除され、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の遵守を条件にオフィス勤務などの経済活動、レストラン店舗での店内飲食、屋内外での運動(10人以下)などが可能となった。
このうち、レストランの営業再開に際しては、店内のテーブルの間隔を2mあけテーブルと入店客数を制限すること、全顧客の名前、ID(電子身分証)番号、電話番号などを記録すること、会計時にも1mの距離を維持することといった細かな条件が示されている。ただし、濃厚接触のリスクが高い理髪店やマッサージ店などは依然として解除されないままである。
国がこうした経済活動の再開を発表したにも関わらず、首都クアラルンプールに隣接するセランゴール州などの地方政府では、新型コロナウイルスの感染が完全終息しない中で経済活動再開が急がれているとして、国の方針に従わないことを決定。州内の全レストランで店内飲食の禁止を継続することを発表している。中央政府と地方政府の足並みが乱れた格好となっているが、人々の生命の安全と経済活動の双方をどのようにバランスよく保っていくかということが、東南アジアでも大きな問題となっているようだ。
制限緩和も多くの店舗が引き続き休業
さて、現在クアラルンプールに滞在中の筆者は、移動制限緩和を受け久しぶりに市中に出てみた。制限が緩和されたとはいえ、交通量は通常よりも少なく従来の市民生活が取り戻されたとは言い難い印象。市内のショッピングモールに行ってみてもお客は少なく、営業が再開できるはずの小売店やレストランも大半が閉店したままの状態であった。
数少ない営業店舗の中に、日本の人気ラーメン店「一風堂(IPPUDO)」があったため入店してみた。政府通達に従い入店時に体温を測定し、名前、電話番号などの個人情報の記入が求められた。タブレット端末などへの入力ではなく、渡された紙への手書きだったため何ともアナログな印象だ。万一コロナ感染者が発生した場合には、集めたリストに基づいて店舗運営者が責任を持って顧客と連絡が取れるようにしているのだという。
店内の全スタッフがマスクを着用しており、テーブル間隔も2m確保されており、いつもフレンドリーに話しかけてくる店員も、私のほうを遠くから眺めているだけであった。店内のお客も数名程度しかおらず、誰もが安心して飲食店を訪れる日がやってくるまでにはまだ相当な時間がかかる気がした。
「コーヒービーン(CoffeeBean)」という当地では有名なカフェチェーンにも入店したが、ここでも入店時に個人情報の記入を求められ、隣の座席とは2m間隔が設定されており、店内の片隅には余ったテーブルや座席が無造作に積み上げていた。いつもは常に満席状態のカフェが異常なほどの余剰スペースに満ちあふれ、落ち着いてコーヒーを飲む雰囲気ではなかった。これが新型コロナのもたらすニューノーマル(新常態)かと思うと残念な気がしてならないが、こうした雰囲気に慣れていく必要があるのかもしれない。
マレーシアに限らず、東南アジアでは新型コロナの感染状況は比較的落ち着きつつあり、5月3日にはタイでもレストランなどの営業が再開、シンガポールでも同12日からの段階的経済活動の再開が発表されている。とはいえ、各国とも新型コロナが”完全撲滅”されたとは言い難い状況の中で、感染拡大防止を図りながら経済活動を再開するための道筋を模索している段階だ。