コロナウイルス感染拡大に伴う、経済の減退が止まらない。前回、アパレル業界が抱えるコロナショックに伴う問題点と解決策を提示した。今回はこの危機的状況下で、アパレル企業が実行すべき、4つの打ち手を提言したい。
今こそ、余剰在庫を一掃せよ
今回のコロナショックで、アパレル企業の目下の関心事は、商品が海外から入ってくるかどうかだ。各社商社に問い合わせ、「イタリアからも中国からも納期通り商品が入ってくる」という返答をもらってホッとしているようだが、私が独自に生産工場に聞いたところ、状況はそんな甘いものではないことがわかっている。つまり「商品が入ってくる」という返答は、そう言わざるを得ない商社に“言わせた”偽りの二次情報に過ぎないのである。
ちなみに、私が商社で学んだ最も役に立つ手法は、クレーム対応である。商社時代、お客さまはアパレル企業、あるいは、リテーラーだったが、彼らはムチャばかりいって、まったく非科学的な要求をつきつけてくる。だから、商社ではまともなコミュニケーションをあきらめ、「そば屋の出前」や「その場しのぎの言い訳」が横行する。すべて、アパレル、リテーラーの国際感覚のなさが原因であるし、それをごまかして受け入れる商社の責任だ。
閑話休題。今後、商品は予定通り入ってこないのだから、アパレル企業はこれを機に思い切ったことすべき。具体的には、アパレル企業は、バランスシートに隠してある余剰在庫をすべて再プレスし、今風に直せるものは直して、定価の半額あるいは「半値八掛け」(定価の50%を80%で販売=6割引)で販売すべきだ。余剰在庫を一掃する機会と捉えたい。
もちろん、まずは仕入れが本当にできるのか、現地に行って状況をその目で見て判断すべきだ。そして事態を把握した後は、生産規模を縮小し、隠し持っている余剰在庫を上手に見せてユニクロ以下の価格で売る。そして、ブランド側がブランド品を買い取って二次流通市場をつくるのだ。これを期に、私が昨年から提言している、ブランドの循環経済をつくりだし、真のブランドビジネスを創造するのである。
真のブランドビジネスとは何か
真のブランドビジネスとは何だろうか?
私は拙著『ブランドで競争する技術』で、「ブランドとは価値の品質保証であり、ブランドとはその証である」と述べた。「ブランド間の価値、優劣の差」を定義し、また、競合に対しても、しっかり差別化するための戦略を考えなければならないのだ。ところが、日本の多くのアパレルブランドは、ブランドを理解しておらず、結局は、差別化のポイントが「価格のみ」になっている。つまり、「ブランドネームを外せばみな同じ」になっているのだ。
一方、ユニクロが世界中で評価されるのは、「ユニクロの商品は安いから」ではない。「ユニクロの商品は品質が極めてよく、また、最低価格である」という「ブランド」ができあがっているからだ。
つまり真のブランドビジネスとは、「他とは違うビジネス」を展開し、きっちりと自社のブランドポジションを確立することだ。そして、そこにはブランドの本質である「ワクワク感」あることが肝要だ。
そのように考えると、米国で広がり、いま日本ではじまっているオフプライスストアがうまくいっている理由がよくわかる。
日本のアパレルは「なんら差別化のない商品に、ただブランドネームを付ければそれがブランドである」というビジネスをやっている。「なんら差別化のない商品」なのだから、価格だけが消費者の判断基準になる。だから価格が安いオフプライスストア に消費者が集まるわけだ。
したがって、オフプライスストア が流行れば流行るほど、そしてポイント還元のもとに実質値引きを常態化させるようなECが流行れば流行るほど、消費者はアパレルのディスカウントに慣れてしまい、定価で買わなくなる。それはブランドの毀損を意味する。オフブライスストアが今後さらに流行れば、アパレル産業は死滅してしまうだろう。
さらに言えば、市場がそもそも吸収する以上の商品を過剰投入し続け、30%も供給過多で、百貨店にいたっては50%も供給過多という、需要と供給のアンマッチとサステナブルというアパレル業界が抱える2つの課題に対して、オフプライスストアはなんら解決策になっていない。
こうした供給過多を是正するためには、本質的なところに手を打たなければならない。
仕入れを半分に減らすとともに、日本に溢れんばかりにある衣料品を、とくに自社ブランドについては適正価格で買い取り、これらをきちんと再プレス、必要であれば再加工をして新しい提案をすべきだ。もはや、パリコレなどで発信される最先端ファッションなどは、我々のような庶民とは感覚が大きくずれている。
そこで、「東京コレクションなど、日本独自のファッションを世界に発信し、日本にばらまかれた不要在庫を買い取り、再プレスし着こなすファッションを世界に発信しよう」。これが、私の提言だ。
なお、逆説的だが、アパレルがきちんとブランドを理解し、そのブランドの維持・向上に努めれば、オフプライスストアマーケットは必要以上に拡大しないものだ。
まとめよう。私がコロナショックのなかでアパレルがすべきことは以下の4点だ。
- この期に及んで、まだ、売上を維持しようと考えるな。どうせ売上利益は落ちるのだから、これを機会に大きく「次のビジネスのきっかけとせよ」
- 今のデジタル技術をつかい、日本人の90%以上が持っているスマホ、およびパソコンを活用して、SkypeやWebEXなどでミーティングする。また、管理職はチームにミッションをあたえ、場所や労働時間の拘束をせず仕事の場所は自由とする。さらに、成果で成績を図る
- EC化率の遅れている企業は、信頼できるコンサルタントをつかってECの拡大を狙う。巣ごもりしている暇があれば、今こそ大胆な投資を行うべきだ。私なら半年で要件定義を終わらせ、1年半で最強のWebを稼働させてみせる
- 商社を脅してウソをいわせるのでなく、自分の目で一次情報を見、盛夏、そして秋冬以降のデリバリーについての納品リスクに備え、これを機に一気に余剰在庫に対して本気で向き合い「半値八掛け(売価*50%*80%、つまり元の売価の4割)」で全てを換金する。また、自社のブランドを消費者から買い取り二次流通市場をWebやアウトレットにつくる
以上である。我々は、メディアリテラシーを高め、冷静になるべきだ。そして、政府の誤った政策(今政府がやるべきは、人類がウイルスに勝つまでの期間、雇用や事業を救うことであって、お札を大量に刷ったり、株価を上げることではない)に対して、声を大きく批判をする。また、対案のない野党には退場してもらう。
やや過激な意見を書かせて頂いたが、私たちはメディアにあまりに踊らされているように思う。季節は、陽気な春なのだ(29日の日曜は都内で大雪となったが…)。ものごとを前向きにみよう。きっと違う世界が見えるはずである。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)