ユニークな販売手法や商品展開で、SNSなどで話題を呼んでいる酒屋がある。オンライン酒屋の「クランド」だ。ランダムにお酒が届くサービス「酒ガチャ」や、500種類を超えるオリジナル商品が若年層を中心に支持を集めている。お客を惹きつける商品やサービスはどのように生まれているのか。運営するKURAND(東京都/荻原恭朗社長)の取締役でEC事業責任者の河端竜児氏に戦略を聞いた。

「酒ガチャ」が大ヒット、オンライン酒屋クランドはこうして生まれた
KURANDは2013年、前身の「リカー・イノベーション」として設立した。当初運営していたオンラインストアでは、一般の酒屋と同じように大手メーカーの商品を中心に取り扱っていたが、「当時は全く売れなかった」と取締役の河端竜児氏は振り返る。
どのように他社と差別化を図っていくか。そこでKURANDが考案し、標榜するのがSPA(製造小売)に酒(liquor)を当てはめ、商品企画から製造まで自社で行うビジネスモデル「SPL(specialty store retailer of private label liquor)」だ。ただ、当時は取引先や取引量も少なかったことから、まずはオンラインストア以外の事業を強化。日本酒や果実酒に特化した飲み比べサービスを提供するリアル店舗の展開や、酒類専門メディア(現在は事業譲渡)を展開した。
その過程で全国の酒蔵や取引先を開拓し、販売力を徐々に強化した。店舗事業は最盛期には都内で13店舗を展開するまでに成長したが、2020年にコロナ禍が直撃。コロナ禍を乗り切るために2店舗を残して閉店し、オンラインストア事業に本格的に転換した。このとき、社名もリカー・イノベーションから現在のKURANDに変更している。

成長をけん引したサービスが、「酒ガチャ」だ。きっかけは、年末企画として行っていたお酒の福袋が予想外に人気で、お客から「ガチャだ」という声が寄せられたこと。そこから着想を得て「酒ガチャ」を立ち上げた。購入時に、日本酒、リキュール、果実酒などのジャンルを選択でき、アレルギーや苦手な材料を除外すると、ランダムにお酒が届く仕組みとなっている。河端氏は、「好きなもので、新しい商品との出会いを楽しめるところに、魅力を感じていただいている」と、人気の要因を語る。
届いた箱を開けるまでわからない楽しみと、「酒ガチャ」というキャッチ―なネーミングが若年層を中心に心をつかんだというわけだ。ほかにも、クランド上に仕掛けた謎を解読しなければ商品を購入できない「謎の酒屋」など、個性的なサービスを生み出している。
500種類以上のオリジナル商品を可能にするSPLモデルとは
クランドが人気を高めたのは、酒ガチャをはじめとしたサービスに加え、「SPL」によって生み出したオリジナル商品だ。現在ラインアップしているオリジナル商品は500種類以上。毎月新商品を展開しており、多い時には30種類以上の新商品をリリースすることも珍しくないという。
その商品は独特だ。アイスクリームにかけて味わうアイスクリーム専用果肉酒「罪-TSUMI-」や、冷凍庫で冷やして飲むシリーズ「翠氷」。また、人気漫画「進撃の巨人」や「ブルーロック」とコラボレーションした商品など、幅広い商品を生み出している。

こうした商品は、どのように生まれているのか。河端氏が明かした経過はこうだ。まず商品の開発にあたり、お客が求めている体験をリサーチ。社員による発案のほか、SNSの投稿や顧客アンケートをもとに企画を練り、提携している全国の酒蔵と協力して商品化するという。市場調査においては、たとえば今の20~30代が何に興味を持っているのか。たとえばスイーツ、ゲームなど酒の枠にとらわれず、広い視野で商品化のヒントを探している。
自社で運営する会員制サイト「クラフト酒研究所」の存在も大きい。サイト上では、会員からサービスや商品に対する率直な意見が投稿される。こうした声を商品化やサービス改善につなげるほか、クランドというブランドの顧客エンゲージメント向上にも役立てている。
そうして得た情報に基づき、顧客ニーズを掴んでから商品化までのスピードは迅速だ。トレンドを逃さないため、一般的に1年から数年かかるところをKURANDでは数カ月で実現させる。全国約200の酒蔵と提携していることが強みで、河端氏は「お客さまの声が直接届く当社の強みと、酒蔵さんの技術力を掛け合わせながら商品を作っている」と力を込める。
パッケージにもこだわっている。KURANDが想定しているのは、お客がSNSに購入した商品について投稿することだ。そのため、“映える”パッケージデザインや酒の飲み方もサイト上で提案する。「お客様がSNSに投稿したくなるような仕掛けを意識している」(河端氏)。「この体験を伝えたい、共有したい」と思わせる商品・サービスが、SNSを重視する世代をオンラインストアでの購買行動へと導いているようだ。その結果、同社が重視するリピート率も4~5割と好調に推移している。
海外事業への再挑戦も視野に
独自の商品とサービスにより、20~30代がお客の約9割を占める(24年5月時点)など、若年層を中心に成長を遂げているKURAND。同社の次なる挑戦のひとつが、飲食店を中心とした法人向けサービスだ。現在は主に個人客向けに販売しているが、より広い顧客層との接点を創出すべく、飲食店向けに専用のサイトを準備中だという。将来的には「約半分はB2Bをめざしたい」(河端氏)考えだ。
海外展開にも意欲を見せる。コロナ禍の影響で一時撤退した中国市場への再挑戦や、日本酒や梅酒の需要が高まっている海外市場への進出も視野に入れている。
もっとも、そのために重要なのは「商品そのものの魅力をさらに高めること」(河端氏)。「この商品といえばクランド」と認知されるような看板商品の開発・育成を含め、ブランド価値向上とさらなる認知拡大をめざしていく。