メニュー

九州から関西、関東へ!すかいらーく入りの「資さんうどん」急拡大の真因

福岡県で「北九州のソウルフード」として絶大な人気を誇るうどん店チェーン「資(すけ)さんうどん」。かつては県内北九州地区に集中し、福岡地区に数軒という店舗展開だった。だが、2018年にソニー、ボストン・コンサルティング・グループ、ファーストリテイリングなどで要職を務めた佐藤崇史氏が運営会社 資さん(福岡県)の社長に着任し、拡大路線へ。202312月に開店した長崎平間店まで、6年をかけて九州全県に出店。さらに、202311月には大阪府に1号店をオープン。店舗数は、着任時の39店舗から72店舗に、売上高は78億円から152億円2024年8月期)へと成長した。10月にはすかいらーくホールディングスの傘下に入り、さらなる規模拡大が見込まれる。急成長を続ける要因を聞いた。

東京・神田のポップアップ、3日間で1200食即完売

大阪市鶴見区の資さんうどん今福鶴見店

 本拠地北九州地区だけでなく、福岡市や大阪市でも好調を続ける資さんうどん。福岡市は繁盛店がひしめくうどんのメッカであり、大阪市にも関西うどんや丸亀製麺など、チェーン店も数多い。だが、資さんうどんの味わいはいずれとも異なる。鯖節や昆布、シイタケなどから取った濃い目の出汁に、博多うどんと讃岐うどんの“中間”と評されるもちもち麺が特徴だ。このためライバルになりにくく、「別モノ」として支持を掴んだのだ。

「とんこつ、醤油、塩と選択肢のあるラーメンのように、他店と一緒にうどん文化を盛り上げたい」と佐藤氏は語る。

 資さんうどんを知らない人に、最初の一歩を後押しする存在もいる。熱量の高い北九州のファン達だ。新店ができれば近隣の友人に推薦したり、出身者が友人を連れてきたり、芸能人やインフルエンサー、最近は声優が「資さん好き」を公言してそのファンが来ることも。クチコミがかなり効力を発揮しているのだ。

神田ポップアップ店舗前の客列

 実際、東京・神田で2024年7月の3日間、ポップアップショップを開店した際もファンが大いに盛り上げた。告知はX(旧Twitter)と、通信販売を利用する顧客へのダイレクトメールのみ。けれど早朝、深夜から行列ができ、用意していた一日400食の整理券は開店前に完売した。

 この成功には、元々通信販売の売上高が関東で最も高いことも関係している。「関東に店を作ってほしい」という声がこれまでに多数届いており、2024年冬に両国をはじめ関東への本格出店を計画。ポップアップは先駆けてそれを占い、知名度を高めるためでもあった。

 関東進出について佐藤氏は、「九州の資さんから日本の資さん、世界の資さんを目指す。今はようやくその入口。『幸せを一杯に。』という経営理念に沿って、より多くのお客さまに幸せを届けたい」と意気込む。

コロナ禍に通販、外販、テイクアウトが人気に

公式通販サイト

 販売方法の多様化も進んでいる。特にコロナ禍は、帰省が抑制された時期に「資さんを食べたい」という声がSNSで多く見られたこともあり、一時休止状態になっていた通信販売の仕組みを再開。やや突貫工事で「資さんストア」の名で再オープンした。そして、それを知ったスーパーマーケットなどからの依頼を受け、駅や空港、スーパーマーケットでの外販も、2021年頃本格的に営業活動をスタート。以降好調に推移し、売上高は初年度から10倍以上に成長している。メニューは、肉ごぼう天うどん、モツ鍋、冷凍のぼた餅など人気どころだ。

 一方で、飲食店の深夜営業が規制された際には、テイクアウト販売を強化。コンビニしか食の選択肢がなくなっていた医療従事者やドライバーに歓迎された。そこからUber Eatsや出前館などの宅配サービスも広まり、一気に知名度が高まったという。同時に、テイクアウト用に新たな3段式容器を開発。出汁、具、麺をコンパクトに盛り付けることで、持ち運びがしやすく、店舗の味をそのままに家庭でも楽しめるようにした。

 さらにコロナ禍には、それ以前から試験的に運用していたものの、定着していなかったオーダータッチパネルの導入も加速。現在は新店とリニューアル店舗に順次導入しており、2/3以上の店舗に設置済みだ。「便利で使いやすい」付加価値につながっている。

 加えて、売上が落ち込んだことで社員に危機感が生まれ、コストコントロールや費用対効果、提供スピード、リピーターを獲得するための工夫など、経営に対する意識も高まった。「店舗、本部ともに真剣に考えられるようになり、より強靭な組織になった。コロナの功名だろう」(佐藤氏)

人気No.1の集合セットで顧客満足度をアップ

北九州市戸畑区で誕生した資さんうどん1号店

 顧客満足度を高める工夫もなされている。例えばメニュー。元々資さんうどんは、うどんだけでなく丼やおでんなど100種以上のメニューがある。あまりにいろいろなものが食べられるため、北九州の常連の間では、「うどんを食べに行こう」ではなく「資ろう」「資らん?」といった動詞があるくらいだという。きっかけは1976年の創業時。八幡製鉄所の近隣には飲食店が少なく、製鉄所で働く常連客のために多様なメニューを用意したことから始まった。

しあわせセット

 今人気なのは、うどんの人気1位メニューの「肉ごぼう天うどん」と、丼の1位である「カツとじ丼」、そして名物のぼた餅を、すべてハーフサイズにして組み合わせた「しあわせセット」だ。そこから派生して、麺と丼を数種類から選択できる「選べるしあわせセット」も誕生。ほかにも、季節限定のフェア商品を用意するなど、バラエティを増やし続けている。

 これらはすべて客の声から生まれたもの。直接店舗に寄せられる声や、GoogleマップやSNSへの書き込みなどをつぶさに見ながら対応している。

「温かいサービスのある感じのいい店」を守る

佐藤崇史社長

 拡大を続けてきた資さんうどん。今後は、既存地域でそうであったように、関西、関東の地盤を固め、一店一店を「地域一番店」に育てていくことを重視している。あくまで目指すのは、経営理念「幸せを一杯に。」に基づき、一人ひとりの顧客満足を積み重ねることだ。そして「一人でも多くの方に資さんの味をお届けできるよう、伝統を守りながら進化を止めることはしない」と佐藤氏。

 その最大の課題となるのは人。採用と教育だ。自動案内機の導入など省人化を進めながらも、資さんが選ばれる理由の1つ「温かいサービスのある感じのいい店」を試行錯誤しながら守りたい、と佐藤氏。そのためには、味とサービスのクオリティ維持、そしてクリーンネスや挨拶など、凡事徹底が不可欠だ。対策として、まずはエリア長、ブロック長、そして店長と、マネジメント人材の教育に注力している。

「世の中が大きく変化していくなかで、お客さまに認め続けていただく店を支えるのは人だ。飲食業界は人材育成産業。人が育っていく会社にならなければ生き残っていけない。中長期的な課題として取り組んでいきたい」と真摯に語った。