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潮目の英・老舗デパート「ジョン・ルイス」がイノベーションアワード最高賞 を獲った理由

~「持続可能な小売」を目指す再起の挑戦~

 口コミが溢れ、モノを簡単に手に入れられる現代において、実店舗での対面販売を売りにしてきたデパートは「次の一手」が問われている。そんななかイギリス・老舗デパートグループ「 ジョン・ルイス(John Lewis)」がイノベーションに取り組み、再評価されているという。その理由と取り組みを明らかにしながら、今後の小売業の「勝ち戦略」について考える。

(引用元:The Guardian

 ネットショッピングが主流になる中で、実店舗を前提とした小売業の価値が問われている。日本国内のみならず、海外でも小売企業を悩ませる課題は同じだ。

 売上、利益減少に悩んでいたイギリスのデパートJohn Lewis & Partnership(以下、ジョン・ルイス(John Lewis))は「環境への取り組み」「ロボティクス活用施策」を積極的に実施し、2019年、 RTIH (Retail Tech-nology Innovation Hub)のイギリス・リテール イノベーションアワードの最高賞を受賞した。

 ジョン・ルイス(John Lewis)は1864年に創業された英国では言わずと知れた老舗デパートである。インテリア、ファッション、家電、そして化粧品を主に取り扱う小売で、イギリス国内では50店舗を構える。

 実際に店舗を訪れると、客層は40-50代またはそれ以上にも見えるご婦人が目立つ。ゆったりとした雰囲気のなかでインテリアを眺め、ギフト用のタオルや化粧品を手に取る姿が印象的。そして買い物の合間には、併設されたカフェでクリームティー(紅茶とスコーンのセット)を食べながらしばし休憩、という流れが顧客にとっての王道だ。

 このように一見ジョン・ルイス(John Lewis)は普通の英国デパートという印象だが、その品揃えには特徴がある。正式な企業名に「Partnership」と銘打っているだけあって、提携するファッション・インテリアの有名ブランドの商品が所狭しと並ぶ。ハイブランドだけではなく親しみやすいメーカー商品も多く、庶民的な一面もある。さらには同社のプライベートブランドも豊富で、ファッション雑貨や財布など、高品質ものが手頃に手に入る。

 提携という観点では、ジョン・ルイス(John Lewis)はイギリス大手食品スーパーであるWaitrose & Partners(以下、Waitrose)とも協業している。Waitroseは生鮮・青果・日配品・グロッサリーを扱っており、チャールズ皇太子がプロデュースするオーガニック食品ブランド「 Duchy Organic」も広く知られる。こうしたブランディングの甲斐あって、Waitroseは、高級・健康志向な客層に支持されている。

 しかしながら、売上高比率の推移を見ると2019年ジョン・ルイス(John Lewis)は前年度比1.8%マイナス、Waitroseは前年度比0.8%マイナスという状況だ。結果、同グループは2019年上半期に2,590万ポンド(約37億円相当)の税引前損失を出している。前年同期は80万ポンド(約1.1億円)の利益を出していたことを考えると、その風当たりは強い。

 イギリスの欧州連合(EU)離脱など外部要因の影響も大きい。しかし、伝統的な小売ビジネスの中でいかに高付加価値を創出する経営戦略への舵取りをしていくかが、同社の大きな課題といえる。

 オンラインで買い物をする消費者が増える中、実店舗を構える新規出店戦略は初期投資額の負担も多く、顧客にとっては目新しさもない。従来からパートナーシップを強みにし、商品展開にも力を入れてきた同グループにとっての「再起」の戦略とは何か。

ジョン・ルイス(John Lewis)グループの「持続可能性」への改革 -高まるトレンドを契機に小売の意味を問う-

 近年、ジョン・ルイス(John Lewis)はイギリス国内で関心が高まる「環境配慮」への取り組みを積極的に進めている。直近の経営状況が芳しくない中で、新たな戦略に踏み切るのは簡単なことではない。2019年、RTIHが同グループにリテールイノベーションアワード最高賞を与えたのも、このような取り組みへの敬意を表し、評価したためだ。

 当たり前のことだが小売では商品を持ち帰る際、プラスチックの買い物袋や包装材が使われる、その量は決して少なくない。
同社はオンラインで注文し、店舗で受け取る「Click &Collect」で使用される包装材を100%リサイクルのものに変えた。また、美容製品の空パッケージや愛用して不要になった洋服などを、店舗に持参した顧客には商品券を渡す施策もはじめた。この取り組みはジョン・ルイス(John Lewis) オックスフォード店で試験的に開始されて以降、注目を集める。

 さらにWaitroseでは、シリアルやパスタ、穀物などの製品のプラスチック包装を減らすため、顧客が持参した容器に入れて量り売りをするリフィル・バーを店内に設けた。

 すべての施策に共通するのは、顧客が実店舗に訪れて「環境保護への取り組みに直接参画できる」という点である。もともとロイヤルカスタマーの多いジョン・ルイス(John Lewis)とWaitrose。そこに近年、イギリス国内で一般化する「個人レベルから環境問題に取り組むことはクールである」という思想が上手く合致した。環境問題に関わること、その姿を見せることでまわりにも波及させようというトレンドが、これまで遠のいていた「実店舗への来店動機」となった。

(引用元:Retail Gazette)

 また、同グループが「農業ロボット」の本格的な実用化に向けて取り組みを進めていることも、リテールイノベーションアワード最高賞の受賞につながった。

 ここ数年、イギリスではロボティクスの研究開発、商用・産業化を進めるベンチャーが急増している。ジョン・ルイス(John Lewis)はSmall Robot Companyと正式に提携し、今後のロボティクス活用にあたり倫理的な観点からの考察を含めた、人間とロボットのインタラクション(Human Robotic Interaction, (HRI))についての青写真を描き始めた。

 さらに、Waitroseの専用ファームで行われている農業用ロボットのトライアルも注目を集めている。イギリスのハンプシャー地方、レックフォードでは3台の農業用ロボットが大地を駆け巡る。1台あたり10kgほどの小さな本体にはカメラ、温度・湿度センサーなどが搭載され、地形データをはじめとする「ビッグデータ」を収集することができる。そのデータを機械学習にかけることで、耕作コストの減少、化学農薬の使用減、さらには生産計画の見直しにも役立つという。コストを抑えた生産のおかげで、売上を40%から60%伸ばすことができる見込みだ。

 人件費の問題、欧州連合(EU)離脱による農作物関税の増加への懸念、そして消費者の注目が高まる環境問題への配慮を包括的に解決する現実的な取り組みとして、このプロジェクトは大いに評価されている。

(引用元:Waitrose & Partners

企業の「持続可能性」を念頭に、ジョン・ルイス(John Lewis)は苦境のなか挑戦することをやめない。

従業員の価値向上は「顧客体験」を変える

 2019年に実を結んだ「環境保護」「ロボティクス活用」に加えて、2020年以降は「販売員の価値向上・購買体験の変革」という小売本業の取り組みにも本腰を入れる。

 2019年11月、ジョン・ルイス(John Lewis)のサウサンプトン店で新たな取り組みが始まった。フロアごとにその中心に「顧客体験ブース(experience playgrounds)」を設置し、専門の販売員がスタイリングや化粧のアドバイスをしたり、庭の手入れの仕方をレクチャーしたりする。家電フロアでは、最新家電の使い方を学べるブースを設けた。Waitroseと共同で焼き菓子のクッキングクラスやホリデーシーズンのテーブルアレンジを学べるワークショップも開催している。この大半が無料だが、有料のブースが事前予約で埋まることも多いという。
取り組みのコンセプトは「Stay and Play」、訳をすれば「滞留と体験」と表現されるだろうか。

 オンラインでの買い物が主流になる中、ジョン・ルイス(John Lewis)の店舗の従業員は「販売員」から「顧客体験をサポートする専門家」として変革を求められている。すべては、顧客が商品を手にするまでのナビゲートをすることでオンラインにない価値を届けることが狙いだ。


 これは、漫然としたネットショッピングに飽きてきた消費者の目には、面白い取り組みとして映る。

(引用元:The Retail Bulletin

 ジョン・ルイス(John Lewis)のCEOであるCharlie Mayfield氏は、2019年の経営状況について、「新しいITシステムの導入および、従業員への基本給の増額に起因している」とし、「残念なことではあるが、驚きではない」とし計画的な戦略の結果であると述べている。

 パートナーシップという強みを生かしながら、店舗のあり方、テクノロジー活用の検討、そして従業員・販売員の価値を考え続けるジョン・ルイス(John Lewis)グループが今回、リテール イノベーションアワードの最高賞の受賞したことは、小売をはじめ他業種にも大きな意味を持つだろう。