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日本人が大好きな衣料品セール 安く買うのが難しくなる理由とは

2024年も「春夏セール」の時期がやってきた。春夏物の洋服を最も着るのは7月、8月、9月だが、いまはまだ6月。まるで「これから着る服を安く買ってください」と言っているようなものだ。そして8月、9月になると、店頭には早くも秋冬物が並ぶことになる。価格は当然プロパー(正規価格)だ。8月、9月の灼熱の中、秋冬の商品を欲しいと思うかは極めて疑問だろう。では、なぜ夏服の需要がもっとも高まるいま、セールをしなければならないのか?その答えは「自分の会社がこのセール商戦に参加しなければ競合に顧客が取られてしまう」という消極的なものだ。だが、今後もこのようなかたちでセールは続くのだろうか?今回は、セールの現状と「これからの価格」について考えてみたい。

Cebas/istock

正規価格はどうやって決まるのか?

 価格にはプロパー(セール前の正規価格)とセール(値引き価格)の2つがある。現在の日本市場では、年間約40億枚の服が投下されており、うち35%が正規価格で売れ、65%がセール価格で売れるといわれている。私も講演の際、よく「服を正規価格で買う人は手を上げてください」というのだが、いままで手を上げた人に出会ったことがない。あのユニクロの商品でさえ、安い時に買いだめしようというのが消費者心理なのだ。

 それでは、プロパー価格はどのように決められるのか。

 これは、企画原価率といって、商品企画をするときの原価に係数をかけた上代に占める割合で決まる最初の価格である。百貨店向けだと約20%、ファッションビルやショッピングセンター(SC)だと35%ぐらいとなる。

 例えば、アジアの工場に生産を委託し、輸入してできあがった商品原価が2000円だったとする。百貨店で売ると価格は1万円程度(=2000÷20%)となる。同じ原価のものをファッションビルやSCで売る場合は5700(=2000÷35%)ぐらいになり、その差は約40%程度となる。これが、百貨店(向けブランド)で買う時に感じるコスパの悪さで、ファッションビルやSC(向けブランド)で服が売れるメカニズムだ。

 さらに、ファーストリテイリングのユニクロの場合は、この企画原価率が40%~45%ぐらいと想定され、先に挙げた2000円の商品をユニクロで売ると4500円ぐらいになり、百貨店価格の半額になる。消費者は無意識にこうしたコスパを肌で感じ、ユニクロで服を買うのだろう。ユニクロがワンブランドで日本だけで9000億円近くを売り上げるのにはこうした背景がある。

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ポイントやクーポンを含めると 
実は1年中セールが行われていた

CarmenMurillo/istock

 企業が、企画段階でつけた正規価格で商品を販売する期間は短い。例えば秋冬商品を例に8月と9月だとしよう(実際は、この時期は企業ごとにセール参戦するしないが異なる)。この2ヶ月間は新商品だが、何か「お得感」がなければ消費者は買わないため、「ポイント2倍」とか「1000円引きクーポン」などを出して、正規上代を維持したまま値引きをする手法が蔓延している。

 この2つは販管費の販促費に計上され、売上が落ちることがないため、企業は管理会計上こうして売れた商品を正規価格で売れた商品として組み込んでいる。しかし消費者からみれば、結局ディスカウントと同じだ。結果的に企業がプロパー価格で販売している期間はほとんどなく、一年中ディスカウントをしていると考えて良い。

 例えば、売れ残り商品のライフサイクルを見ていくと、まずは店内セールで30%40%程度の値引きをする。それでも残ったものは、アウトレットにいくのだが、最近のアウトレットでは、キチンと残った商品が出るわけでなく、シーズン遅れのものか、アウトレット専用品をつくって規定の利益をとって販売しているケースもある。後者は、過去幾度かメディアなどから批判され、最近ではアウトレット専用品は「アウトレット専用品」というかたちで明示されるようになった。

 それでも残った商品はファミリーセールで売り切るか、福袋などにいれて年末に売り切ってしまい、ここでも残った商品は、通称バッタ屋に渡してその生命を終えることになる。このバッタ屋は全国に販売店を持っていたり、ウェブで売ったりと決まった形式はなく、バッタ屋ごとに売り切る仕掛けは変わってくる。

今後、セールの値引き率が抑制される理由

Worayuth Kamonsuwan/istock

 さて、プロパー価格とセールのメカニズムを見てきたが、昨年よりアパレル業界で衝撃的なことが起きた。昨今の円安が原因となって、コストプッシュにより、値引き余力のあるプロパー価格をつけられなくなったのだ。日本のアパレルは99%が輸入だから、コストは為替によって大きく左右される。さすがに1ドル160円近い、近年例がない円安水準になると、上代(プロパー価格)を上げなければならない。だから、多くのアパレルが割引率を抑制したり、セール対象アイテムを減らすといった「セールの抑制」をはじめたのである。

  先陣を切ってセールを抑制したのがユニクロだ。日本はユニクロがやれば他の企業も追随するので、各社一斉にセール価格を抑えにかかった。

 ちなみにユニクロの場合、海外事業の売上・利益のほうがいまや大きくなったので、円安になれば海外の売上・利益・資産が大きく膨れ上がるという、いままでのアパレル企業にはなかった現象が起きている。

 それ以前の日本のアパレル業界は、「輸入産業」だったので内需で利益を出していたため、「円安は苦しく、円高は儲かる」状態だった。しかし、ユニクロは円高になれば約9000億円の売上収益(238月期)がある日本市場が儲かることになり、円安になれば海外の売上.・利益・資産が膨れ上がる。

  さて、話をセールに戻そう。多くのアパレル企業はセールを抑制したのだが、売上が落ちるどころかむしろ売上は拡大した。「セールによる買い控え」が起こらない企業がそれなりに出てきたのである。

 これは、インバウンド客が、海外に店舗を持つブランドを認知し、円安効果により自国で買うよりもはるかに安く買えるため、日本でそのブランド品を買ったためである。

 海外でそれなりにプレゼンスがあるアパレル企業はいまや、日本国内売上の20%程度がインバウンド売上だと言われている。

 セールは今後、AIの統計処理などを使い、商品ごとに細かくダイナミックプライシングが導入されていく。セール開始時期も一斉ではなく商品ごと、また、値引率も商品ごとに変わってゆくだろう。具体的に言えば、売価変更にAIが組み込まれ、必要量から初速(最初に売られるスピード)、在庫、そして当該商品のライフサイクルなどを変数として、全体としてもっとも儲かる価格が設定されるようになる。

 これによってセールでの値引き率は減ることになり、セール好きの日本人にとっては大変残念なことになる。アパレル各社の消化率はアップし、収益性も回復するわけだから、為替次第ではあるが正規価格が引き下げられる(最適化される)ことも消費者としては期待したいところだが、それは果たして、どうだろうか?

 

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト
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