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展望2020:為替相場どうなる、日米金融政策と米大統領選が鍵

為替 シンガポールで撮影
来年の外為市場でドル/円は、狭いレンジ内で推移するとの見方が多い。世界経済が低空飛行を続けるなか、日米金融政策には大きな変化はないと想定されるためだ。写真は2017年6月2日、シンガポールで撮影(2019年 ロイター/Thomas White)

[東京 29日 ロイター] – 来年の外為市場でドル/円は、狭いレンジ内で推移するとの見方が多い。世界経済が低空飛行を続けるなか、日米金融政策には大きな変化はないと想定されるためだ。来年も国内企業や投資家による対外投資需要が根強いと見込まれることから、ドルが100円を割り込むリスクは小さいが、米国の大統領選挙を控えてトランプ陣営がドル安選好を強める可能性があり、上値も限定的とみられている。

市場関係者の見方は以下の通り。

●ドル/円はレンジ取引だが、リスクは円安方向

<JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長 佐々木融氏>

ドル/円相場の変動幅は3年連続で10%以下に止まる可能性が高い。その理由は、日米インフレ率の格差が縮小していることや、円がファンディング通貨として利用されなくなっていることがある。

過去の経験則では、世界的な景気後退は比較的大幅な円高を誘発する可能性がある。しかし、日本だけがリセッションに陥るケースでは円安となっている。当社の景気後退予測モデルによると、日本が1年以内に不況に陥る確率は約85%で、米国よりも40%ポイント以上高い。

さらに、本邦企業による対外直接投資や投資家による対外証券投資は円高圧力を抑制するだろう。対外直接投資は世界経済の成長率が大きく鈍化した2019年でさえ過去最高を記録した。国内での投資機会が限られる一方、200兆円以上の現金・預金を抱える日本企業は対外投資を活発化せざるを得ない状況にある。

日本の長期金利は長期間、マイナス圏での推移を続けており、来年も継続することが予想される。こうした中、本邦投資家は2020年も円売りを伴う対外証券投資を拡大せざるを得ないだろう。

仮に世界の景況感が改善した場合、実効レートベースで円安になり易い環境が整っている。 従って、円相場が想定外に大きく動くとすれば、円高よりも円安方向となる可能性が高い。

ドル/円の予想レンジ:107.00─112.00円

●トランプ主導のドル安、金融緩和でドル安も

<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>

日本では解散総選挙があると仮定し、2月選挙で政権・与党の勝利が判明すれば、アベノミクスの再来期待に伴う円安・株高の流れとなろう。

米国では11月の大統領選に向けて、有権者である製造業や農業団体への訴求策として、対円でのドル安強要、自動車関税の賦課が考えられる。タイミングは選挙前の9─10月の公算が大きいとみている。

世界経済の減速が続く中で、ユーロ圏も中国も自国通貨安を望むだろう。こうしたなか、トランプ大統領はドル安指向を一段と鮮明にするリスクがある。結果的に円ほどではないにせよ変動相場制を採用するユーロも分が悪い。

米金融政策については、米連邦準備理事会(FRB)は企業債務の膨張を警戒しつつも、短期金利の上昇抑止を優先させ、政府短期証券(TB)買い入れのみならず、1年超の債券購入を開始し、名実ともにQE4(量的緩和第4弾)が導入されると予想する。利下げも併用される可能性があるだろう。

企業債務問題の表面化を抑えるためのQE4や利下げは、将来にツケを回す政策であり、そのコストは米経済のみならず世界経済が最終的に負担することになるだろう。

為替相場との関連では、政策金利がマイナスの日本やユーロ圏と比べ、米国にはまだ政策金利の下げ余地がある。来年はドル金利低下に伴うドル売りの場面もあるとみている。

ドル/円の予想レンジ:102.00─115.00円

●ドルじり安も、100円割れには至らず

<三菱UFJ銀行 チーフアナリスト 内田稔氏>

来年も世界経済は低成長で、市場は時折リスク回避的な場面に直面することになるだろう。総じてみれば円もドルも幅広い通貨に対して、底堅さを維持する見通しで、ドル/円の大きな値動きは期待しづらい。ただし、FRBがドル資金の需給緩和に動き出した上、利下げ観測が浮上する場面も見込まれ、今年に比べればドル高はいくらか和らぐと考えている。

世界経済の伸びが勢いを欠けば、海外との金利差縮小とインフレ期待低下による実質金利の上昇によって、円高が進みやすい。来年のドルは各四半期に1円程度ずつ、緩やかなペースながらも軟調に推移し、年末にかけてしっかりと105円を割り込むと予想している。

ただし、100円が迫るにつれて、貿易赤字や直接投資ニーズを背景とした値頃感から、国内勢のドル買い/円売りが強まるだろう。日銀追加緩和への期待と警戒も支えとなり、100円割れには至らないとみている。

ドルも一定の底堅さは保つとみられ、100円手前で下げ渋った後、102─105円付近で年末を迎えることになるだろう。このシナリオは、米国でトランプ大統領が再選され、上下両院のねじれもそのまま残ることを仮定に置いている。

ドル/円の予想レンジ:101.00─111.00円

●リスクは円高、中国の資本流出加速ならドル100円割れ

<シティグループ証券 チーフFXストラテジスト 高島修氏>

日米金融政策や経常収支等を基に算出したドルの推計値は108円前後。つまり現在の水準は、ほぼフェアバリューにある。

市場は米中対立の緩和見通しを織り込む一方、各国の財政刺激策が景気や株価の回復を促し始めている。しかし、財政出動がすぐ金利上昇につながるわけでもない。来年も大きな変動は見込みにくいとみている。

もしドルが予想レンジから逸脱することになれば、ドル高方向で112円付近、円高方向で100円もしくはそれ以下となる可能性がある。特に、経常黒字が大きく減少してきた中国の景気失速や資本流出等には警戒が必要だ。リスクは円高方向に傾いている。

もし米中交渉の一環として通貨政策に関する合意がなされた際、それでもドル高に歯止めがかからなければ、米国がドル売り介入に踏み切る恐れがあることも、可能性は小さいが念頭に置きたい。

ドル/円の予想レンジ:105.00─110.00円

●市場のリスク許容度が拡大し、円安傾向に

<みずほ証券 チーフFXストラテジスト 鈴木健吾氏>

2019年の為替市場はリスクがドライバーとなり、安全通貨である円とドルは同じ方向に動く傾向が強まったため、ドル円の値動きは非常に限定的となった。ただ、リスクオフ局面では円買いがドル買いを上回り、リスクオン時には円売りがドル売りをしのぐ動きがみられ、ドル/円の方向性もリスク許容度に左右された。

この傾向は2020年も続くとみており、引き続き米中通商摩擦や英国の欧州連合(EU)離脱問題、世界経済の動向等がどの程度リスクオフを引き起こすかが重要となろう。

個人的にはこれらリスクに対して楽観的にみている。

米中通商協議は来年早々にも第1段階の合意が現実となり、その後は景気減速に歯止めをかけたい中国も、大統領選を控えたトランプ陣営も一時休戦を選択すると予想する。

英国は1月末に「合意ありの離脱」に向かい、ブレグジットを巡る不透明感も後退するだろう。離脱移行期間の延長が次の問題として浮上するのは、来年終盤になるのではないか。

世界経済は経済協力開発機構(OECD)の景気先行指数や半導体サイクルなどにみる循環要因、2019年の世界的な金融緩和効果などから、緩やかな回復傾向を想定している。全般的にリスク許容度は今年より来年のほうが拡大するなかで、ドルの主戦場は110―115円になると考えている。

ドル/円の予想レンジ:106.00―116.00円