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ソフトバンク、ヤフーの新流通革命3 「孫正義の参謀」が明かす、孫が仕掛ける流通「天下三分の計」とは!?

「ソフトバンク、ヤフーの新流通革命」オンライン特別編集版、第3回。流通業界において、ソフトバンクグループ(東京都:以下、SBG)の孫正義会長兼社長を頂点とする“ソフトバンク陣営”の存在感が大きくなってきている。グループを率いて流通業界に莫大な投資をする孫正義氏はどのような戦略を描いているのだろうか。孫正義氏の側近として長年活躍し、「孫正義の参謀」と呼ばれた元ソフトバンク社長室長の嶋聡氏に聞いた(第4回は12月4日公開)。

国内EC競争は 「三国志」の様相に

 ソフトバンクグループは「情報革命で人々を幸せに」という経営理念のもと、パラダイムシフトを予測し、その流れに沿って成長してきた。90年代後半から2000年代に初頭かけて起こった「IT革命」の際は、米国のヤフー・インク(Yahoo! Inc)や中国の阿里巴巴集団(アリババ・グループ・ホールディングス:以下、アリババ)などに出資し、広告業や小売業のあり方を大きく変えた。00年代後半からの「モバイル革命」においては、ボーダフォン日本法人を買収、スマートフォンの普及を通じて人々のライフスタイルに変化をもたらした。

 そして、10年代後半以降の「AI革命」では、「AIがすべての産業を再定義する」というビジョンのもと、大規模私募ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を16年に設立。流通を含めたさまざまな産業を対象に、デジタルトランスフォーメーション(DX)をもたらすスタートアップ企業への投資を進めている。

 数ある産業の中でも、アジアを中心に今後も市場成長が期待される産業のひとつがEC(Eコマース)である。

 アジアのEC市場は30億人規模に上ると言われている。このマーケットでシェアを獲得するべく、ソフトバンクは先述のアリババのほか、インドのスナップディール(Snapdeal)、インドネシアのトコペディア(Tokopedia)といったアジア主要国のEC企業に出資し、筆頭株主となっている。

 もちろん日本も、ソフトバンクにとって重要な市場のひとつであることは間違いない。傘下のZホールディングス(当時のヤフー、東京都/川邊健太郎社長)が19年11月にZOZO(千葉県/澤田宏太郎社長)を買収するなど、日本のEC市場への関与を強めている。

 注目したいのが、ZホールディングスのZOZO買収によって、日本のEC市場はアマゾン・ドット・コム(Amazon.com:以下、アマゾン)と楽天(東京都/三木谷浩史社長)、そしてソフトバンク陣営の三者による「三国志」の様相となっている点だ。アマゾンの利用者数が約5000万人、楽天の利用者数が約4800万人である(19年4月時点)のに対して、Zホールディングス傘下のヤフー(東京都/川邊健太郎社長)とZOZOとを合わせた利用者数は約2880万人。先行する2社をソフトバンク陣営が追いかける格好だ。

米携帯電話市場と酷似? 現在の国内EC市場

 こうした「三国志」の構図は、13年にソフトバンクが米国の携帯電話事業者大手、スプリント(Sprint)を買収したときの状況とよく似ている。当時、米国の携帯電話市場は、AT&Tモビリティ(AT&T Mobility)とベライゾン(Verizon)がそれぞれ市場シェアの約30%を占め、16%のスプリントと10%のティーモバイル(T-Mobile)がこれに続いていた。孫社長は「スプリントとティーモバイルを合わせ第3極をつくれば、米国の携帯電話市場で十分戦える」と考え、スプリントの買収を決断した。

 同様に、日本のEC市場においても、ヤフーにZOZOを加えることでアマゾンや楽天に対抗できると判断したと思われる。今後も、ソフトバンクの潤沢な資金力を生かし、Zホールディングスを通じて同様のM&A(買収・合併)を実行していく可能性が高い。

ローカライズ戦略で アマゾン・楽天と勝負!

 長期視点でEC事業を成長させるためには、自社の物流網が重要な役割を担う。Zホールディングス傘下のアスクル(東京都/吉岡晃社長)は物流網を自社で構築している。ヤフーが日本での「アマゾンモデル」のローカライズを志向するならば、物流網とその運営ノウハウを有するアスクルは必要不可欠な存在だ。 国内ナンバーワンの顧客数獲得をめざすモバイル決済サービス「PayPay(ペイペイ)」の存在も大きい。

嶋聡(しまさとし)1958年生まれ。96年に衆議院議員総選挙に当選。2005年までの3期9年間、衆議院議員を務める。その後05年にソフトバンク入社、社長室長に就任する。14年に社長室長を退任し、同社顧問に就任。現在は多摩大学客員教授のほか、ミクシィ、オークファン、アイモバイルの社外取締役も務める

 プロファイリングによる「個別化」においては、ユーザーごとの購買履歴や消費行動にまつわるデータを大量に保有することが競争優位につながる。グーグルやアマゾンが膨大なデータを保有しようとしているのはそのためだ。この観点からいえば、すでに国内2000万人以上のユーザーを抱えるPayPayを保有するソフトバンクには、大きな優位性があると言える。

 「アマゾンエフェクト」が世界各地に広がるなか、ヤフーは、日本の商慣習に根ざし、日本語でコミュニケーションできるプラットフォームを構築することでこれに対抗していくと思われる。アマゾン、楽天、ヤフーの「三国志」でどの企業が生き残るかによって、日本の小売業界の命運も決まってしまうかもしれない。

※本特集は、『ダイヤモンド・チェーンストア』誌12月1日号特集から一部コンテンツ抜粋の上、加筆・再編集したものです