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1人に現場の権力が集中し、濫用が見られる場合、どう対処すべきか!?

Photo by MachineHeadz
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このシリーズは、部下を育成していると信じ込みながら、結局、潰してしまう上司を具体的な事例をもとに紹介する。いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「こうすれば解決できた」という教訓も取り上げた。今回は、かつて私がヒアリングをして、言葉が出てこなくなった問題を抱え込む在宅医療クリニックを紹介したい。

 

第22回の舞台:都内の在宅医療クリニック 

人員:理事長以下、医師5人、看護師17人、事務スタッフ8

 

1人の人間に現場の権力が集中する悪弊

 この話は、2年前に在宅診療クリニックを経営する理事長(61歳)からオフレコで聞かされたものだ。

 ここには、15年前の開業時から勤務する女性の看護師がいる。年齢は50代前半で、看護師の経験は前職を含め、30年を超える。現在の職場では、数人の医師が最も信頼するほどで、16人の看護師を束ねる部長でもある。

 仕事はできるのだが、理事長いわく「後継者を育成できない。そもそも、そんな考えすらない」らしい。毎年2∼3人の看護師を中途採用するが、多くは数年以内に退職する。理事長が現場の看護師達から聞き取りしたところ、この看護部長がいじめ抜くのだという。部長に確認すると、「あの人はミスが多いから…」などと答える。真相は、わからずじまいだ。

 次々と辞めていくために、部長を中心とした態勢は一段と強くなる。年収は900万円程で、この規模のクリニックの看護部長としては相当に高い。看護師たちを始め、医師や事務スタッフからも一目置かれる。患者や家族からも評判はいい。部長抜きでは、もはや、クリニックは成立しない。

 しかし、3年ほど前に深刻な問題が起きた。16人のうち、7人程が深夜(2200∼07:00)の勤務をローテーションで担当するのだが、部長は自らが当番であることを失念してしまった。その日、患者の家族から「容体がおかしい」との緊急の電話がクリニックに入ったが、誰も出ない。家族が直接、理事長宅に電話する。理事長が、医師へ急いで伝えた。朝方に、医師が患者のもとへ駆けつけたときは、すでに死亡していた。

 翌日、部長は悪びれた様子もなく、出社した。理事長や医師が昨晩、勤務に入らなかった理由を問うと、「ほかの看護師との間に引継ぎができていなかった」とだけ答えた。看護師たちは引き継ぎが本当にあったどうかなどについて、全員が黙ったままだった。

 この一件以降、リーダー格の医師は、理事長に「あんな人が部長でいいのかな」と漏らすようになっているという。看護師からも少しずつだが、部長がいないときに理事長などに疑問の声が寄せられるという。

 理事長は、私のヒアリングの最後に漏らしていた。

 「どうしたら、いいんでしょうかね…」

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こうすればよかった!解決策

一人に依存しない 外部から管理職人材を登用すべき

 患者の死の理由を私は詳細には把握できていない。医師と看護師が当日、早急に駆け付けたとして、助けることができたかどうかはわからない。それでも、深刻な問題ではある。私は、次のような教訓を導いた。

こうすればよかった①
相手が誰であろうと公平に厳罰を持って処すべき 

 看護部長だけの責任にすることは無理があるのかもしれないが、看護師を束ねる立場でありながら、今回のような問題は致命的といえよう。理事長は本人に事実関係の確認のうえ、適切な処分をするべきだった。状況いかんでは、退職してもらうことも必要ではなかっただろうか。

 処分は、本人に対してだけなくなく、ほかの看護師や事務スタッフ、そして医師らにも「こんないい加減なことは許さないぞ」といったメッセージとして伝わる。優柔不断な姿勢は必ず、マイナスのイメージを与える。意識の高い医師や看護師、事務スタッフらが失望し、退職する場合があるのかもしれない。毅然たる姿勢が必要なのだ。

こうすればよかった②
ひとりに依存する態勢は絶対につくるべきではない

 看護部長が必要以上に力を握るのは好ましくない。いじめが事実であるのかはわからないが、退職者が多いことは間違いない。このことが、部長に様々なものが集中する態勢をつくる大きな理由となっている。

 これまでのいきさつを見ると、部長が部下を育成しようとする意志が希薄で、自分の身をおびやかされることを警戒している可能性が高いのではないか。ここを起点に考えると、新しい部長を外部からハンティングし、新体制にするべきではないだろうか。そうしないと、同じようなことが続く可能性がある。理事長らは心を鬼にして、部長に退職を迫ることを検討したほうがいい、と私は考える。

 最後に…。今回の一見は、患者の家族からは弁護士を通じて抗議があったという。その後の結末はわからずじまいだったが、はっきりと言えるのは、人の命を預かる職場としては極めて軽率な行為であったことだ。ひとりに依存する態勢の危うさについて、あらためて考えるべきではないだろうか。

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

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