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クリティカルマスが1兆円になったドラッグストア業界で、食品強化型が再編を焦らない理由 

国内ドラッグストア産業史上初めて、1兆円規模の企業が誕生することとなった。再編ドミノが次々と起こるドラッグストア業界だが、一方でM&A(合併・買収)による規模拡大を否定する有力チェーンも少なくない。また、同じドラッグストアといっても全く異なるコンセプトで展開する企業群に分かれており、それぞれが真っ向から競争するとは言えない状況となっている。それらを踏まえ、今後ドラッグストア業界はどのように再編していくのか、何が勝ち残りのキーポイントとなるのかを考察していきたい。(※ホールディングスはHDと表記)

生き残るための最低条件、クリティカルマスは一気に1兆円に!?

 7兆2700億円市場(2018年度)のドラッグストア業界。ここ数年、年間56%ずつ市場が成長しながら、猛烈な勢いで再編が続いている。14年度まではマツモトキヨシHDが首位だったが、15年にイオングループのドラッグストア4社を結集させたウエルシアHDが首位の座を奪還。17年度は179月に杏林堂HD(静岡県)を子会社化したツルハHD(北海道)が業界トップに躍り出たが、翌18年度は一転、一本堂(東京都)を傘下に収めたウエルシアHDが首位に返り咲いた。19年度は業界7位ココカラファインが再編のキャスティングボードを掌握。スギHDとマツモトキヨシHDを両天秤にかけ、後者を相手に選んだことで、マツキヨ・ココカラ連合が首位に着くことになる。

 マツキヨ・ココカラ連合誕生が意味することとして、特筆すべきは、生き残りをかけたクリティカルマス(最低限の規模)が一気に1兆円へと跳ね上がったことが挙げられよう。このクリティカルマス、10年前は約2000億円、5年前は4000億円ほどだったので、求められる規模のハードルが、短期間のうちに段階的に大きく引き上げられていることがわかる。

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ドラッグストア業界で再編が起こり続ける2つの本質的な異業態との違い

ドラッグストア業界で再編が起こり続ける2つの本質的な異業態との違い

 なぜ、ドラッグストア業界では猛烈な再編が起こるだろうのか?その理由は2つある。それは、①コンビニと比べればプレーヤー数が多く、寡占化の余地が多分に残されていることに加え、②本質的に差別化がしにくい業態であるためだ。

 前者については、全国に企業数が416社(17年度、日本チェーンドラッグストア協会)ある上、有力企業の顔ぶれがわかる2019年度ドラッグストア売上高ランキングをみれば、再編余地があることは一目瞭然だろう。

 後者については、ドラッグストアの品揃え、店舗規模、役割が関係している。ナショナルブランド(NB)が非常に強いカテゴリーである医薬品、化粧品、加工食品を中心とした品揃えであること、店舗規模が小さいため、売れ筋に絞った商品政策となることから、スーパーマーケットなどと違って品揃えで差別化することが極めて困難なのだ。結局、メーカーと強い交渉力を持てるかどうか、つまり、バイイングパワー=規模の力がモノをいう業界というわけなのだ。だから、各社のトップは勝ち残りを賭けて、M&Aに走るのである。

 とはいえ、ドラッグストア業界ではM&Aによる成長を明確に否定する有力企業もある。例えば業界5位のコスモス薬品だ。毎年新店を大量に投下することで、平均店舗年齢の若さを強さの源泉の1つとする同社は「M&Aによって古い店舗網を買うことに投資をしても仕方がない」というスタンスをとる。また、北陸の有力企業、くすりのアオキホールディングスやGenky DrugStores(以下ゲンキー)も自力出店による成長を機軸としている(クスリのアオキは直近では18年前に1店舗譲り受けしている)。

 ここで気づくのが、この3社は偶然ながら、立ち位置が他のドラッグストアとは異なることに気づく。食品の売上構成比が圧倒的に高く、北陸の2社に至っては、生鮮4品までフルラインで品揃えする(ゲンキーの場合、鮮魚は塩干のみ)店舗も展開している。

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生き残るドラッグは各特性に合わせ、2~3社ずつか⁉

食品強化型とスペシャルティ型は共存することができる

 つまり、この3社は同じドラッグストアとはいえ、消費者に果たす役割が異なると考えられるのだ。たとえばコスモス薬品は、日用雑貨、生鮮3品以外の食品等の日常の暮らしに必要な消耗品を低価格で販売する500㎡型の小商圏店舗、ゲンキーは生鮮食品までフルラインで品揃えする「近所で生活費が節約できる店」をコンセプトとする店舗だ。菓子や飲料を中心に加工食品まで取りそろえると言っても、美と健康を中心に位置づけるマツキヨ、調剤併設型を基本とするスギ薬局の店舗とは立ち位置が異なる。食品の売上構成比をみても、コスモス薬品とゲンキーが6割近いのに比べ、マツキヨは1ケタ台、スギ薬局は20%未満と大きな違いがある。したがって、店のコンセプトによって同じドラッグストアを標榜しても、部分的にしか競争しないケースもあると言えるわけなのだ。

 ゲンキーの藤永賢一社長も「ドラッグストア業界は今後15年ぐらいかけて3社ぐらいに集約されるだろう」「そうしたなか、スペシャルティ型ドラッグストアと生活型ドラッグストア、あるいはもう1つのタイプぐらいで、それぞれ3社ぐらいずつ残ることになるのかもしれない」と語る。その点を踏まえると、生活型ドラッグストアのクリティカルマスは、まだ、4000億円程度ということができるかもしれない。

 さて、業界全般で食品の取り扱いを強化して、売上の底上げを図っているなか、いかにしてスペシャルティ型ドラッグストアは「美と健康」という専門性のなかに食品を位置づけることができるか、あるいは新たにスペシャルティと生活型をハイブリットさせたコンセプトを構築できるか、という点が焦点になるだろう。一方、生活型は、小商圏を制圧する競争力の高い業態をつくり上げることができるか、そのためにSPA(製造小売り)型の商品開発体制の構築、ローコストオペレーションの追求、生鮮食品の効率的かつ効果的な取り扱い、といった点の巧拙が勝敗を分けることになるだろう。