街中で、電気のモーターで走るEVバイクを見る機会が増えている。原付免許で乗ることが可能で、自転車よりも速く手軽な移動手段として注目を集めているのだ。EVバイクは個人利用が多い印象だが、EV商品メーカーのブレイズ(愛知県/市川秀幸代表取締役)には、企業からの引き合いも多く寄せられているという。同社取締役である井上仁氏に、EV商品が注目されている理由やEV事業を始めた経緯、今後の市場動向について聞いた。
折り畳み可能なEVバイクなら、駐車スペースのない狭小店舗でもデリバリーが可能に
ブレイズが販売するEV商品に、ビジネス用途での利用としての注目が集まるのはなぜだろうか。
「2021年3月に『EVデリバリー』という荷台つき三輪EVバイクの販売を開始。この車種がデリバリーに適しているため引き合いが増えた。また、店舗面積が狭く『EVデリバリー』を置けない狭小店舗には、使わない時に折り畳むことができ、場所を取らない『スマートEV』(バイク)がマッチした」とブレイズ取締役の井上仁氏は話す。
実際にハンバーガーチェーン、寿司、ピザといった宅配需要のある大手企業から引き合いが寄せられている。
EV商品は排ガスがないため、環境への配慮にもつながる。電力は家庭用のコンセントから手軽に充電でき、ガソリン車と比べてもランニングコストが安い。さらに、使い勝手のよさも注目される理由のひとつだ。EVバイクは普通二輪免許が不要で原付免許や普通自動車免許があれば運転できる。加えて、車庫証明も必要ない。
「馬力がないのではと思われがちだが、パワーは充分で登り坂も乗りこなせる。また平地の場合、二輪EVは約30km/h、三輪、および四輪のEVであれば、約50km/hのスピードで走ることができる」(井上氏)
ブレイズはこれまで名古屋にしか拠点がなかったが、大企業の本社は東京が多いため、東京にも営業所を設け、2023年1月には霞が関にショールームをオープン。想像以上に反響があり、試乗会も随時開催しているという。
ブレイズは、美容器具の「ReFa(リファ)」や健康器具「SIXPAD(シックスパッド)」などのヒット商品を生み出しているMTGのグループ会社。1996年にスタートしたMTGの祖業である中古車販売事業を継承する形で、2002年に設立された。
EV事業に進出したきっかけは、軽自動車をキャンピングカーに仕立てるキットを開発・販売する新事業を展開する中から生まれた。軽キャンピングカーの顧客から、「キャンプに出かけて行った先で、移動に使える乗り物が欲しい」という要望が寄せられたのだ。「代表の市川が、『キャンプで行く先は自然豊かな場所。であれば、環境にやさしいEVはどうだろう』と考え、折り畳み式の電動バイクを企画・開発し、販売することにした。当時はEVを販売している会社はほとんどなく、珍しかった」(井上氏)
その後、さまざまなニーズに応えて、小型四輪駆動車の『ネクスト クルーザー』、レトロタイプの『E Vクラッシック』、三輪バギータイプの『EVトライク』など全6車種をラインナップ。販売数は右肩上がりで、ここ数年で倍近くに伸びている。
開発は、親会社MTGのノウハウを生かしたファブレス体制で、企画、コンセプト開発を自社で行い、製造はパートナー企業に委託している。
道路交通法の改正により、可能性はさらに広がる
2023年7月には道路交通法が改正され、『特定小型原動機付自転車』という新たな区分が設けられる。「新たな区分に対応したEV商品は、16歳以上であれば免許がなくても乗れるようになるので、より手軽に利用可能となり、市場は爆発的に拡大すると予測している」(井上氏)
今まで自転車に乗っていた人たちが、当たり前にEVに乗るようになっていくかもしれない。年配の方の移動手段としても有用だという。「市場の拡大を前に、海外製品を仕入れて日本市場で販売する卸売り企業なども増えるなど、多くの企業が参入してきている。日本の大手自動車メーカーや、中国メーカーの本格参入も予測される」(同)
それでも、顧客の要望ごとに幅広いラインナップで展開している点が優位性だという。「いち早く市場にEV商品の提供を開始し、お客さまのニーズに応えて商品を改良し続けてきた。またデザインにこだわっている点も評価していただいているのではないかと思う」(同)
今後は高いニーズに応えられるよう、生産体制の整備が急務だ。「海外製造パートナーとの関係強化、新規開拓なども進める。加えて、メンテナンス・サービスの対応については、販売代理店さまに実施いただくほか、技術担当者が客先にお伺いしたり、商品を送付いただいたりして対応しているが、大手企業への導入が増え、大量の商品が使用されるようになると、全国規模での体制強化が必要」(同)
また、三井住友海上火災保険や、レッカーサービスを提供するプレステージと提携して、同社の商品を購入した顧客が加入できるサービスを展開し、サポートの充実を図っていく予定だ。
「身近な距離『ラストワンマイル』を電動モビリティでつなぐ『LIFE EV』を商品ブランド・コンセプトとして、今後も、通勤・通学、買い物など個人の生活やレジャーの領域と、宅配デリバリーなどのビジネス領域の双方で事業成長を図っていく」(同)