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マックスバリュ関東の手塚大輔社長が語る、既存店への大規模投資計画の狙いと勝算

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都/藤田元宏社長:以下、U.S.M.H)傘下のマックスバリュ関東(東京都)は、2018年度決算で増収増益となり、ここ数年続いていた低迷から脱却を果たした。その旗振り役を務めたのが、17年に同社トップに就任した手塚大輔社長だ。食品スーパー(SM)を取り巻く環境が厳しさを増すなか、長いトンネルを抜け出すべく取り組んだことと、今後の戦略について聞いた。

聞き手=阿部幸治 構成=雪元史章

「生鮮強化」を掲げ大規模改装を推進、1店舗当たり約1億円投資

──2019年2月期の決算は売上高が対前期比0.7%増の432億円、営業利益が同12.6%増の2億円と、13年度以来5年ぶりに増収増益となり、長年の低迷から抜け出した感があります。

てづか・だいすけ●1975年生まれ。2002年にイオンクレジットサービス入社、07年イオン銀行入行。同社企画部統括マネージャー、イオン戦略部長を経て、16年にユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス代表取締役兼マックスバリュ関東取締役に就任。17年3月より現職。19年にユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス代表取締役副社長(現任)

手塚 絶好調というほどではないですが、増収増益という結果は当社にとってエポックメイキングな出来事だったと思います。ここ数年、新規出店は行わず既存店活性化に注力してきましたので、その成果が業績に表れたことには大きな手ごたえを感じています。不安定な経営環境から脱して、なんとか自力で歩めるようになりました。

──既存店の改装が大きく貢献したということですね。

手塚 活性化した店舗は5~10%くらい売上が伸びています。なかには改装後2~3年経っても売上が伸び続ける店もあり、とくに大型の店舗では大きな投資リターンが得られています。

 各店舗の利用動向を分析してみると、他店との買い回りや転出入などによって、1店舗当たり年間でおよそ3分の1のお客さまが入れ替わることがわかっています。つまり、お客さまの関心を引き続けることが重要で、「ここに店がありますよ」ということを地域の皆さまに表明するためにも、改装は有効な手段です。

──具体的にどのようなコンセプトで改装を進めているのでしょうか。

手塚 同じくU.S.M.H傘下のマルエツ(東京都/古瀬良多社長)やカスミ(茨城県/石井俊樹社長)からも学びながら、SMとして、生鮮食品がしっかり買える店づくりを志向しています。実際、既存店改装時には、レイアウトも大胆に変えながら生鮮売場の拡充を図っています。当社の標準タイプのSMでは生鮮の売上高構成比は40%程度ですが、これを改装によって3~4ポイント引き上げることを目標としています。

──レイアウトからつくり直すとなると、かなりの規模の投資となりますね。

手塚 今期で言えば、1店舗当たり1億円程度の規模の活性化を予算上で組んでいます。社内で繰り返し言っているのは、「その改装計画に『変わった感』はあるか」ということです。お客さまから「店がよくなった、変わった」と思ってもらえなければ意味がありません。お客さまにとって変化が目に見え、買物体験が確実に向上するような店づくりをしていかなければならないと考えています。

現場起点で活性化を検討、新規出店も視野に入れる

──活性化はどのようなプロセスで進めていますか。

手塚 まずは店舗年齢です。当社は現在、標準タイプの「マックスバリュ」を16店舗、小型SM「マックスバリュエクスプレス」を17店舗の合わせて33店舗を展開しています。これらの店舗年齢の平均を7歳以下に引き下げることを目標にしていて、年間で4~5店舗の活性化を行っています。

 そのうえで活性化の方向性を議論するわけですが、これについては、本部だけではなく店舗にも大きな裁量を与えています。店長はもちろん、よりリアルな消費者視点を持っている店舗の従業員も交えて、自店の課題をしっかりと議論します。ときには辛辣な意見ももらいながら、その店舗の伸びしろがどれくらいあるのか、どのような店に変えていくべきかといったことをまとめていきます。

──お客の需要に合わせ、現場起点で改装を行うという体制が確立できているわけですね。

手塚 もちろん、そうしたボトムアップ型のアプローチだけでなく、マーケティングの要素も重視しています。たとえば6月に改装オープンした「マックスバリュエクスプレス六郷土手駅前店」(東京都大田区)では、旧店舗のID-POSデータを売場づくりに活用しました。

 実際にデータを分析してみると、駅前立地ということもあって、半分くらいのお客さまがコンビニエンスストア的な使い方をされていました。しかし一方で、店舗周辺に多く住んでいる若いファミリー層を取り込めていなかったことがわかったのです。日々料理をする方も多いので、約280坪のコンパクトな売場の中で、即食・簡便商品の品揃えも追求しつつ、レイアウトを大幅につくり直して、青果、精肉、鮮魚の順に生鮮もしっかりと買えるようにしました。

 六郷土手駅前店がうまくいけば、同じようなモデルでの新規出店も視野に入れていきたいと考えています。その意味で今回の改装は当社にとって大きな意味を持つものです。

──既存店の改装に加えて、新規出店も視野に入れているということですね。

手塚 経営が安定してきたので、さらなる成長に向けて一歩踏み出していくフェーズだと思っています。実際、物件開発の担当者を1人増員して、出店に向けて具体的に動いているところです。

 出店フォーマットについては、出てきた物件に合わせて判断していきます。その意味で、小型店という選択肢を持っている点は、当社の強みの1つと言えるかもしれません。

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手塚社長、これからの経営テーマについて明言する!

従業員満足を高め「長く働きたい」組織をつくる

──一方、店舗網を広げていくなかでは、人手の確保が大きな課題になります。

手塚 そもそも新たに採用すること自体が難しくなっているので、従業員満足を高め、離職率を下げるということに努めています。

 その一環として現在、「長時間労働の削減」と「年間2回の5連休取得」をルールづけています。後者については取得率100%を人事部門のKPI(重要業績評価指標)にしました。以前はどこか、「休みを取らせてもらう」といった風潮があったのを、「休まなければならない」という考え方にシフトさせて、ワークライフバランスの両立を図っています。この点についてはマルエツやカスミはかなり進んでいるので、参考にしています。

──店舗オペレーションの部分では何か取り組んでいることはありますか。

手塚 とくに大型の店舗ではどうしても縦割りの組織になりがちなのですが、当社では店長経験のある担当者を1人配置し、「部門の大部屋化」を推進しています。まずはグロサリーと非食品の部門からスタートしていますが、夕方の見切り品セールの準備や清掃など、作業ベースでの大部屋化も進めています。担当者には会社全体にインパクトを与えるためのロードマップづくりを指示しているところです。

──従業員のモチベーションの維持というのも大きなポイントになります。

手塚 今年度から人事制度を変更していて、透明性の高い人事評価を行えるようにしました。これは、外部コンサルタントなどは一切介さず、すべて自前でつくったものです。

 たとえば、一般社員に対しては試験の結果だけでなく、業績や行動面でのパフォーマンスを昇格時の評価に盛り込みました。これまでは試験の点数だけが合否に直結していたところを、日ごろの業務での頑張りが処遇に反映されるようにしています。また、管理職についてはジョブサイズと日ごろのパフォーマンスで評価が決まるシンプルな制度にしました。評価の透明性を高め、公平性を担保することで、モチベーションの向上につなげられればと期待しています。

今後の経営テーマは「いかに独自性を出していくか」

──最後に、今後の経営戦略の方向性について教えてください。

手塚 U.S.M.Hとしては、どのようにして「次世代の業態」に進化を遂げていくかを経営テーマにしています。ボーダレスな競争とオーバーストア化が進むなかで、1店舗当たりの商圏人口はどんどん減っています。これまでと同じことを続けていては売上も客数もみるみる落ちていくのは明らかです。そうなると、いかに独自性を出していくかということが重要になります。

 マックスバリュ関東でも、来期から始まるU.S.M.Hの新中期経営計画の策定に向けて、社内で3つのプロジェクトチームを設立し、マックスバリュ関東としてどのような部分でユニークさを持つべきか、という議論も行っています。

──中長期的に見て、マックスバリュ関東としてどれくらいの企業規模、収益性を目標としますか。

手塚 1つは、毎年新規出店できるような体制に持っていくこと。もう1つは利益率の向上で、現状では営業利益率が0.5%程度なので、これを4倍くらいまで引き上げたいと考えています。それが実現できれば投資規模の4倍のリターンが得られるようになるわけで、非常に筋肉質な経営基盤が構築できます。既存店の大規模な改装を続けながら新規出店も行い、適正な成長を遂げていきたいと考えています。

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