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老舗の増永眼鏡、仮装試着サービスで若いお客の「来店」が増えている理由

メガネを新調するとき、まず店頭でさまざまなフレームを試着してみるのが一般的だろう。しかし、増永眼鏡(福井県/増永宗大郎社長)が提供する仮想試着サービスを利用すると、撮影写真を基にアバターが作られ、オンライン上でメガネの試着ができる。これまで4060代の顧客が多かった増永眼鏡の直営店舗には、「仮想試着サービスを試したい」という若い世代の来客が増えているという。マーケティング室 室長の野原弘道氏と、下北沢店 店長の荒川大地氏に話を聞いた。

仮想試着サービスは「非接触接客」をテーマにした店舗づくりと親和性が高かった

撮影画像からアバターを作成する「ZEISS VISUFIT 1000」

 メガネの仮想試着サービスを始めた経緯を、増永眼鏡マーケティング室 室長の野原弘道氏はこう語る。

 「下北沢店のオープンがコロナ禍と重なり、非接触接客や接客時間短縮のアイデアを出し合っていた。ちょうどその頃、取引先であるドイツのカールツァイスビジョン社から『ZEISS VISUFIT 1000』を提案された。お客さまの顔を撮影してアバターを作成できる機能が非接触接客に生かせるのではと考え、導入を決定。下北沢店のコンセプトを『非接触接客』とした」

 光学機器メーカーであるカールツァイスビジョン社が開発した3Dデジタルセントレーションシステム「ZEISS VISUFIT 1000」には、9つのカメラが搭載されており、顔の前面180度を撮影できる。そして、撮影画像から作られたアバターの目や耳の位置、顔の横幅、髪や肌、目の色などを基に、AIがメガネフレームをレコメンドする仕組みだ。

 「メディアで紹介されたこともあり、仮想試着を試したいと来店されるお客さまもいる。アトラクション感覚で楽しんでもらえるので、知らずに来店された方にも勧めている」と下北沢店 店長の荒川大地氏は話す。

 増永眼鏡のファンは高い品質を求める4060代がメーンだが、下北沢店の客層は少し違うのだという。「下北沢という場所柄なのか、2040代の方も多くお越しいただいている。また、ファッションアイテムとしてメガネを探しているお客さまが他店舗より多い」(荒川氏)

鏡では一目で分からない周囲からの目線も確認できる

下北沢店 店長の荒川大地氏

 実際に仮想試着サービスを利用した来店客からは、好評を得ている。

 「自分では絶対選ばないメガネを提案されるのがおもしろいと言われる。さらに、自分の眼鏡姿をさまざまな角度で確認できるため、客観的に似合っているか判断しやすいという声もあった」と荒川氏。

 メガネをかけているとき、周囲から見られる角度は真正面より横や斜めなどだ。仮想試着サービスによって客観的に自分を見ると、メガネの選び方が変わるのだという。

 また、店頭で作成したアバターのデータはクラウド上に保存されるため、その後自宅や外出先でも試着サービスを利用できる。店舗で作成したアバターを基に、自宅でメガネの着せ替えをして、家族に相談しながらフレームを決める顧客もいる。

 「店頭では試着しづらい派手なメガネも、仮想試着なら試しやすいというお客さまもいる。また、度数の高い眼鏡を使用している人は、店頭でレンズの入っていないフレームを試着しても自分の姿を正確に確認できない。仮想試着サービスなら、自分の姿をきちんと確認できる」

 AIは似合うフレームを勧めるが、本人の好みまでは反映できない。その点は、店員が接客して提案するという。「品質にこだわるお客さまにどれだけファンになってもらうかが重要だ。接客を通じたコミュニケーションや提案を大事にしている」(荒川氏)

仮装試着サービスはオンライン化への布石

下北沢店の中央に据えられている「ZEISS VISUFIT 1000」

 現在、メガネ市場は5000億円と言われているが、以前は6000億円ほどの市場規模だった。規模縮小の大きな理由の一つが、低価格のメガネを提供しているスリープライスショップの登場だ。これにより、メガネの出荷枚数・数量自体は上がったものの、客単価は下がっているのだという。

 そうしたなか、増永眼鏡のフレームは3万円台後半~7万円台と価格帯は決して安くないが、売上は増加を続けている。衰えない人気の理由について野原氏は、「1905年に創業した老舗のメガネフレームメーカーであり、福井県が眼鏡の産地として知られるようになったのは、当社の創業者である増永五左衛門が福井県に眼鏡産業を持ち込んだことがきっかけ。また、1社で一貫して生産しているため、クオリティコントロールや納期管理、アフターフォローが非常にやりやすい体制だ。こうした点が評価されているのではないか」と分析する。

 一方で、メガネの購買動機を増やすため、視力矯正以外にファッションアイテムとしての存在感を伝えていきたいと話す。「たとえば、転職や入学のときに自分のイメージを変えたいからメガネを変えるというように、洋服のようなファッションアイテムとしても定着させていきたい」

 202211月からはECもスタートさせた。「若い世代はSNSから飛んで商品を購入することに抵抗がない。逆に増永眼鏡の直営店は入口が小さくて入りづらいと思われているようだ。そのため、若い世代の方に入ってきてもらうドアを作りたかった」

 サイトの閲覧は非常に多く、実際に若い世代の来店数も増加している。「視力検査やメガネの調整には来店が不可欠だ。ただ、ファッションアイテムとして使用されるのであれば、一度アバターを作っていただければ、自宅での購入がよりスムーズになる。仮想試着サービスが後押しになればと考えている」(野原氏)