アマゾンジャパン(東京都)と、食品スーパー最大手のライフコーポレーション(大阪府:以下、ライフ)が生鮮宅配サービスでタッグを組むと発表し、業界の注目を集めている。東京都の一部地域で今年中のサービス開始を予定するが、2社の前には強力なライバル、生協宅配の厚い壁が立ちはだかっている。
1兆8000億円超の巨大宅配事業者、生協
「競合相手ではない、とは言えない。当然、影響は受けるだろう――」
全国の生協が加盟する日本生活協同組合連合会(日本生協連)代表理事専務の嶋田裕之氏は、アマゾンとライフ協業のニュースを受けてこのように述べた。しかし、これを「危機感の表れ」として、額面通り捉えることはできない。なぜなら生協は、生鮮宅配市場においてあまりにも絶大な存在だからである。
その強さを直近の数字から確認してみよう。6月14日、日本生協連は2018年度(18年1~12月)の事業概況を発表した。全国の生協の供給高(売上高)は、対前年度比0.7%増の2兆7593億円と6期連続の増収となった。この成長を支えるのが供給高全体の約65%を占める宅配事業だ。
宅配事業供給高は、個人宅配サービスの利用増加などを理由に、同0.9%増の1兆8067億円まで拡大。近年、生鮮宅配市場に続々とEC企業や小売業が攻め込むなかにあっても成長を留まることを知らない。
イオンも真似できない定期宅配モデル
生協宅配はなぜ強いのか。そこには、生協ならではの強みが存在する。
まず、週次の「定期宅配」というビジネスモデルだ。週1回の決まった日に配送することで、計画的な仕入れや人員配置が可能になり、発注予測が難しい「即日宅配」よりもコストも低減できる。そして、そのぶんサービスや商品の強化が図れるとともに、持続可能な事業運営が可能になる。
このビジネスモデルに着目したイオンリテール(千葉県)は18年4月、生協と同じく定期宅配の新サービス「クバリエ」をスタートさせた。しかし、配達エリアは千葉県の一部にとどまっており、大きな事業拡大には至っていない。
同じビジネスモデルでもなぜ成否が分かれるのか――。
ここで次に挙げる生協の強みが、独自の物流ネットワークだ。嶋田氏は次のように指摘する。「店舗出荷型のビジネスモデルには限界がある。生協は専用倉庫を拠点とした物流網を長年かけて築きあげてきた。これを他社が今から構築するのは容易ではないだろう」。
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注文受注率は8割超 脅威のリピート率
注文受注率は8割超
脅威のリピート率
現在では全国に約700のセンター、約130の集品センターを有し、さらに約2万台の配送トラック、約2万人の配達担当者がラストワンマイルを担う体制を構築している。この独自の物流網は、昨今の人手不足に起因する物流費高騰の影響を各社が受けるなか、生協のアドバンテージとなっている。
さらに、生協ならではの商品も大きな強みの1つと言える。たとえば、生協が扱う「産直商品」。これは単なる産地から直送された商品ではない。生協が独自の原則を盛り込んだ協定書を生産者と結び、その基準に沿って生産された商品で、安全・安心を追求している。
また、組合員の声を反映して開発されるプライベートブランド「コープ商品」にも磨きをかけている。たとえば17年3月に発売された子育てサポートシリーズ「きらきらステップ」は、離乳食のほか、子供でも食べやすい大きさや食感、味付けにこだわった幼児食などを販売してヒット商品シリーズとなり、若い世代が生協に加入するきっかけの創出に成功している。
これらの独自商品の存在もあり、生協の配布した注文書に対する受注率は8割強と圧倒的なリピート率の高さを誇っているのだ。
そんな生協が「影響を受ける」と見るのが、アマゾンとライフのタッグによる生鮮宅配だ。ライフがアマゾンの有料会員向け即日配送サービス「Prime Now(プライムナウ)」に出店するかたちでサービスを提供する。東京都に約80店を展開するライフの店舗を拠点に、ライフの店頭の従業員が商品をピッキングし、アマゾンの専任配送員が商品を届けるというものだ。
2社のサービスの大きな特徴は、注文から最短2時間で商品が手元に届くという配送スピードの速さだ。タイミングによっては総菜をはじめ出来たて商品の配送も可能になるかもしれない。
これに対し「生鮮宅配は、商品の温度・鮮度管理が非常に難しい。ノウハウが構築されていなければ、配送品質のバラつきも懸念されるだろう。そうしたなか生協宅配は独自の配送網のさらなる強化。そして生協ならではの商品の強化にいっそう力を入れていく」と嶋田氏は語る。
アマゾンとライフは、生協宅配の牙城を崩すような新たな生鮮宅配の成功モデルを確立することができるのか注目だ。