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ダンハンビー最高経営責任者 ギオーム・バクーヴィエ
「日本のデータビジネスを変える」総合商社とタッグを組み日本事業に本腰

英小売最大手のテスコ(Tesco)傘下で、顧客データの分析と、それに基づいたマーケティングビジネスを展開するダンハンビー(dunnhumby)。英国のみならず、世界各国の名だたる企業にサービスを提供する同社だが、近年は日本での事業展開にも積極的だ。来日した同社のギオーム・バクーヴィエCEOに、今後の戦略について話を聞いた。

約30カ国で事業を展開、三井物産と日本市場を深耕

──まずは、ダンハンビーの現在の主な事業内容について教えてください。

ギオーム・バクーヴィエ(GUILLAUME BACUVIER)●2006年~17年、米グーグル(Google)を経て、17年4月より現職。

 

ギオーム ダンハンビーは1989年に英国で創業して以来30年にわたって、カスタマーデータサイエンスプラットフォームとして知られてきました。最先端のデータサイエンスや統計学の手法を応用して、企業が保有するさまざまな顧客データを効果的に活用できるようにし、企業がお客さまへの理解を深め、事業運営においてお客さまを中心に据えた意思決定ができるようサポートしています。

 

 とりわけ、われわれが得意とする業種は小売業と消費材メーカーです。小売企業は、POSデータから得られる購買履歴、ポイントカードに登録されている会員データ、ウェブサイトやモバイルアプリでの行動履歴データなど、多種多様なデータを大量に保有しています。これらの膨大なデータを適切に加工し、解析することで顧客インサイトが抽出でき、「その企業にとってのお客さまは誰か」「お客さまはなぜ来店したのか」「店舗で何を購入したのか」「その動機は何か」といったことが明らかにできます。

 

──解析したデータをもとに、どのようなサービスを提供していますか。

 

ギオーム ダンハンビーでは、データ解析によって得た顧客インサイトをもとに、小売企業の商品政策(MD)や価格戦略、プロモーション施策を支援するソリューションを提供するほか、ポイントプログラムの構築や顧客データの収益化などもサポートしています。小売企業が保有する顧客データを解析し、商品開発やプロモーション戦略に役立つ情報として仕立て、メーカーや供給事業者にこれを提供することで、小売企業は顧客データから収益を得ることもできるのです。

 

──日本では、ダンハンビーはCRM(顧客関係管理)に強みを持つ専門企業として知られていますが、実際はさまざまなプロダクトやサービスを展開されているのですね。

 

顧客データの分析・活用を手がけるテスコ傘下のダンハンビーは、総合商社大手の三井物産とタッグを組み日本市場の深耕を図る(写真はテスコの売場)

ギオーム たしかに、ダンハンビーは95年に英国の小売最大手テスコのポイントプログラム「クラブカード」を手がけたことで世に広く知られるようになりました。CRM、とりわけポイントプログラムで実績を上げてきたのは事実ですが、これは事業分野の一部にすぎません。

 

──そんななか日本の大手商社、三井物産とタッグを組まれました。その背景と今後のねらいについて教えてください。

 

ギオーム 現在、日本を含め、約30カ国で事業を展開しています。日本には数年前に進出しましたが、日本市場での事業拡大を加速させるべく、2018年10月、三井物産との合弁企業「ダンハンビー・三井物産カスタマーサイエンス㈱」を設立しました。カスタマーデータサイエンスの分野で強みを持つダンハンビーと、日本で確固たる地位を持ち、日本市場に精通する三井物産との強みを補完し合うことで、日本のデータビジネスを変えたいと考えています。

 

 日本では、まず、大手小売企業や消費材メーカーを主なターゲットとして事業を確立し、いずれは中小の小売企業やほかの業種にも幅広く展開していく方針です。

 

「データという“原油”を“精製”し、“燃料”として使えるようにするのがわれわれの役割だ」

データ解析専門の人材育成も視野に

──日本の小売企業におけるデータ活用の現状をどのように見ていますか。

 

ギオーム 日本の小売業界においても「データは戦略的な事業運営において重要だ」という認識が高まっている一方で、「現時点ではデータを十分に活用できておらず、もっと学ばなければならない」との課題も認識されているようです。ただ、すでに多種多様なデータは収集できている一方、データ活用のためのソフトウエアやツールの実装、データ解析に長けた人材の採用や育成への投資は十分でないように見受けられます。

 

 データサイエンスや機械学習の分野では、データが多種多様で大量であるほど、精度は高まり、大きな成果が得られます。日本の多くの小売企業はすでに多種多様なデータを大量に保有していますが、これらのデータはいわば“原油”のようなもので、そのままでは使えません。これを“精製”して“燃料”として使えるようにするのがダンハンビーの役割だと考えています。

 

──日本企業はダンハンビーと手を組むことで、具体的にどのようなプロセスでデータ活用を促進できるのでしょうか。

 

ギオーム われわれは小売企業それぞれのニーズやリソースなどに柔軟に対応し、データ活用をサポートするためのモデルを幅広く用意しています。

 

 たとえば、データサイエンスにまつわる業務を一括してアウトソーシングしたい企業には、専属チームを派遣し、社内組織の一部となってデータを活用したサービスを継続的に提供します。一方、社内に専門組織を設置している企業には、データ活用のためのソフトウエアやツールを提供し、社内システムへの実装支援や必要な研修、トレーニングを実施しています。

 

──日本ではデータ活用に長けた専門人材が不足しているのも課題です。

 

ギオーム 現時点で、データサイエンティストやデータアナリストなど、データ活用に長けた専門人材を日本で採用することはたしかに難しいです。そのためダンハンビーでは、日本での合弁会社の設立にあたって、必要な人材を他国から招へいし、三井物産からも人材を派遣してもらいました。今後、カスタマーデータサイエンスの分野での事業環境や労働市場が成熟していけば、この課題は次第に解消されると思います。

 

──今後、日本で専門人材の育成についても手がけていく考えはありますか。

 

ギオーム ダンハンビーには、独自の育成プログラムやメソドロジー(方法論)を通じて、データ活用に長けた専門人材を数多く育成してきた実績があります。英国や米国、インドなどでは、統計学や数学の分野で優秀な大学ともつながりがあり、大学院や博士課程に在籍する学生をダンハンビーで受け入れるといった取り組みも行っています。人材育成にまつわるこれらの実績やモデルを応用し、日本でも専門人材の育成に取り組みたいと考えています。

 

データの効果的な活用がリアル店舗の価値を高める

──近年、日本の小売企業は「アマゾンにどう対抗するか」という点を強く意識しています。それをふまえ、データ活用の観点で日本の小売企業がやるべきことは何ですか。

 

ギオーム データを効果的に活用し“顧客ファースト”になることが重要だと思います。アマゾンは、顧客データを効果的に活用し、顧客をよく理解し、お客さまの期待やニーズを中心に据えた意思決定を行っています。このようなアマゾンの思考や姿勢に日本の小売企業も順応すべきでしょう。

 

 小売企業の多くは、データを効果的に活用し、顧客インサイトをもとに意思決定するよりも、サプライチェーンの観点や調達先との取引条件の最適化を優先しがちで、必ずしもお客さまのニーズや利益にかなった意思決定をしているとは言い難いのが現状です。

 

──アマゾンやアリババなど、EC企業もリアル店舗の出店を加速しています。そうしたなか、日本の小売企業にはどのような優位性があり、それを維持するためにはどのような戦略が有効でしょうか。

 

ギオーム とくに食品の場合、既存のサプライチェーンはECのモデルとは適合していないのが現状です。品質の高い新鮮な食品を魅力ある価格で消費者に届け、これによって一定の収益を確保するためには、リアル店舗が必要なのです。そうしたなか、アマゾンが16年12月に開設したレジレス店舗「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」に代表されるように、これまで培ってきたテクノロジーやデータ活用のノウハウなどを生かし、店舗運営コストを効率化しながら食品を含む商品を低価格で販売するといった動きも見られるようになってきました。

 

 日本では、食品小売のサプライチェーンは非常に効率化されており、品質の高い新鮮な農作物を最適に輸送するためのインフラが整っている点に優位性があります。その優位性を維持するためには、アマゾンなどのEC企業を手本に、テクノロジーやデータサイエンスを効果的に活用して、店舗でのよりよい買物体験をお客さまに提供することが重要です。

 

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