2011年下期以降、家電販売市場は振るわない。ヤマダ電機(群馬県/一宮忠男社長)の2012年3月期(連結)の業績は、売上高1兆8354億円(対前期比14.8%減)、営業利益889億円(同27.5%減)、経常利益1022億円(同25.8%減)、当期純利益582億円(同17.7%減)と減収減益決算に終わった。しかし、ヤマダ電機は、そんな業績もものかわ、コア事業の家電販売に加え、新しいビジネスモデル創造で新たなステージを目指す。
家電販売市場は決して暗くはない、当面の目標は売上高3兆円
──家電販売の市場は、これまで順風満帆とマーケット規模を拡大してきました。しかし、少子高齢化や人口減少、業界再編など、これを取り巻く環境は激変しています。
一宮 家電販売市場は、エコポイントや地上デジタル放送への切り替え、節電意識の高まりなどの追い風を受けて2011年上期までは順調でした。たとえば、テレビは通常であれば、年間1000万台くらいしか売れないものなのですが、2010年は2300万台、2011年は1600万台を販売しています。しかし、その反動が去年の下期から一挙に出ており、現在の市場は苦しい環境にあります。この特需を含め市場規模は11兆円ほどに及んでいましたが、現在は8兆円ほどに縮小していると私どもは見ています。
ただ、家電販売にはフォロー要因もあります。たとえば、これまで建築会社や住宅メーカーが販売していた太陽光発電装置やHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)、蓄電池、EV(電気自動車)、省エネ・創エネ・蓄エネ商品、つなげるテレビ(スマートテレビ)やパソコン・携帯電話・タブレットパソコンの連携、LED照明など…。そうした新しい商品群の台頭と拡大を考えれば、マーケットの未来は決して暗いものではありません。
だからと言って、楽観視もしていません。今家電販売市場は、非常に厳しい踊り場にあると考えているからです。その中で、製造業の再編も進んできました。各メーカーは、「選択と集中」を進め、総合家電メーカーと呼べる企業は少なくなってきました。
──アマゾンドットコムなどを筆頭に、ネットも家電販売のひとつの大きな勢力に育っています。
一宮 確かにそうです。しかし私は、日米のインフラ状況を見誤ってはいけないと思います。米国の場合は、あれだけ広大な土地に家電量販最大手としてベストバイがチェーン展開しているに過ぎません。しかも、その店舗までは、クルマで1時間もかけて行かなければいけない。
しかし、日本ではヤマダ電機の直営店だけで730店舗以上はありますし、クルマで10~20分も行けば、大概の店舗を訪れることができます。お客さまは、ネットで商品情報を収集して、リアル店舗で購入したほうが有利なのではないでしょうか?
──最近の米国の代表的な消費行動として「ショールーミング」(リアル店舗で商品を確認後、ネットを通じて最安値で買う)がありますが、日本ではそんなことは起きにくいということですか?
一宮 家電製品の場合、同社内で同一商品であるならば大抵の店舗は、ネット価格に合わせるのが普通です。そのときに、リアル店舗かネットかどちらで購入することを選ぶのかと言えば、親身な接客を受けた安心感があり、配達、設置、接続、保証などのサービスをしっかり受けられる──。リアル店舗だと思います。
また、ネットの場合は、返品するのも一苦労であり、行きつくところ、価格しかありません。その価格についても、いくつかのネットサイトを訪れてみれば、確かに安い商品はありますが、《日替わり》や《限定台数》などが目につきます。それは、当社で言えばチラシ掲載の目玉商品に当たるものに過ぎないと考えています。また、当社は、インターネット上でもチャットを利用した安心価格保証など、店頭と同様のサービスが受けられるのも特徴です。
──そうした考えもあって、これまで店舗網をしっかり拡充してきたのですね。
一宮 そうです。市場規模と特性に合わせて、LABI(都市店)、テックランド(郊外型大型店、小商圏型店)の3つのフォーマットで店舗ネットワークを構築してきました。
M&Aの効果は絶大!
──さて、ヤマダ電機は、これまでM&A(合併・買収)を積極的に進めてきました。物販小売業では、ぷれっそホールディングス(マツヤデンキ、星電社、サトームセン)、九十九電機、ダイクマ、キムラヤセレクトなどをグループに加えています。統合効果は出ているのですか?
一宮 非常に出ていると自負しています。システムや物流は、規模に応じて効果が出なければおかしいので当然ですが、中でも効果が上がったと感じているのは、人材面です。当社は、子会社だからと言って、人事的な差別は一切ありません。同じ基準で評価し、優秀と判断された従業員はどんどん登用していますし、していきたいと考えています。
M&Aは、新しい業態の開発にも貢献してくれています。たとえば、マツヤデンキと一緒になったことで、3万~5万人の小商圏を対象にした150~200坪の店舗運営やフランチャイズ展開のノウハウを習得することができました。
さらには、家電製品だけでなく、加工食品、酒類、生活雑貨、ドラッグなど取引先が拡充し、取扱商品の幅が格段に広がり、ポイント制の導入とも重なりお客さまの利便性の向上につながりました。
──12年10月にはS×L構法(木質パネル工法)で定評のある住宅メーカーのエス・バイ・エル(大阪府/荒川俊治社長)を子会社化しました。
一宮 これも新業態と言えるかもしれません。S×L by YAMADAのもと「トータルスマニティライフコーナー」と銘打ち、住宅と家電のみならず、家丸ごとひとつのソリューションを提案しています。
分譲事業にも本格的に参入していきます。すでに群馬県板倉町では、行政と連携して、スマートハウスの集合体であるスマートタウン事業をスタートさせました。東武伊勢崎線沿いで都心から1時間ほどの物件です。このように不動産付きで住宅を販売していきますが、当社の特徴は、そこに太陽光発電や蓄電池、省エネ家電などをからませスマートハウスとして提案することです。
これは、まさに川下発想です。小売業の立場ですから、お客さまのご要望にあわせたさまざまなメーカー商品を幅広く提案することができます。またグループ内には、今年6月に子会社した住宅設備機器を扱うハウステックホールディングス(東京都/星田慎太郎社長)がありますので、浴室、厨房、エコシステムなどはもちろん、リフォームなども一体でお客さまにご提案できるようになりました。
さらには、リサイクルプラントを持つ東金属(東京都/長峰登社長)を子会社化しました。これによって、家電製品を仕入れて、販売し、使っていただき、ご不要になれば回収し、再生しリユースもしくは都市資源として処理する、という家を中心としたひとつの大きな循環型ビジネスを展開していきたい、と考えています。
──さかのぼって、08年には、家電小売店事業を営む加盟店にリテールサポートシステム(協業システム)を提供するコスモス・ベリーズ(愛知県/牧野達社長)を完全子会社化しています。
一宮 地域店であるパパママストアに商品を提供している企業です。入会金は3万円で月々1万円を支払っていただき、コスモス・ベリーズが商品を卸すというものです。メーカー特約店を展開する店主がそれ以外のメーカーの製品を調達するときに使ってもらっています。だからフランチャイジーとも違います。私どもはボランタリーチェーンと呼んでいますが、制約はほとんどありません。近くのヤマダ電機をショールームとして使っていただき在庫もそこから調達、その商品を店主の小売店を通じて購入してもらうことができ、利益もしっかり確保できるというものです。
トイレットペーパーから一戸建てまで
──12年6月には、米フェイスブックと連携して、「ヤマダ電機マルチSNS」を立ち上げ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス:交流サイト)にも参入しました。
一宮 そうです。ネットは万能薬ではありません。ネットにはネットの特性があり、そのいちばんはコミュニケーションだと思います。それがサイトを立ち上げた理由です。
現在、スマートテレビが普及していますが、ネットにつながれているのはまだ7%に過ぎません。これを年間1000万軒以上の配達・設置・工事等のサービスでお客さま宅を訪問する際に設定し、「ヤマダ電機マルチSNS」の会員になっていただくことも可能です。
当社のテレビの販売台数マーケットシェアは30%を超えていますので、このシェアを生かしてビジネスにつなげていけばさまざまな可能性が広がります。アマゾンでもグーグルでもないネット社会対応を実現できるのではないかと考えています。バーチャルとリアル店舗との組み合わせを川下発想でいろいろと提案していきたい。
──配達軒数が年間1000万軒、1日3万軒です。今は家電製品の配達が中心と聞いていますが、ヤマダ電機グループが扱うどんな商品もその物流網に乗せ、宅配することができます。
一宮 そうです。すでに飲料水の配達はスタートさせました。当社はお客さまのご自宅にお届けするだけではなく、設置までやっています。当社の強みは、お客さまの家に上がらせていただいて作業ができ、提案できることです。しかも、既存のサービスインフラとシステムですから、ローコストでできる。それを使わない手はありません。
──グループ会社のすべてが立体的につながり、大きなビジネスモデルをつくりあげている。
一宮 ただ忘れてはいけないのは、われわれは家電量販専門店であり、あくまでもコアにあるのは家電です。そして、それに関連する商品をトイレットペーパーから一戸建てに至るまで販売しているということです。
点を点で終わらせないで、線にして面で展開していくことが重要だと考えます。だからこそ多種多様な人材が必要になります。こういったトータル的なソリューションビジネスは人材抜きにしては成立しません。すでに当社の物販の利益は60%、その他40%はサービス型のソリューションビジネスで稼いでいるのです。
──そして海外ということでは、10年に中国に進出しています。現在は、瀋陽、天津、南京に3店舗を展開するに至っています。
一宮 中国というのは確実に伸長すると見込まれる魅力ある市場です。ただ、中国は身近な隣国ということもあって、これまではさまざまな面で安易に考えていた反省はあります。
現在の家電の消費動向は、中国版のエコポイント制度が終了したこともあり、家電販売市場は大きく前年を割り込んでいるような状況です。ただ、中国の場合は、地道にやるべきことに徹していれば、お客さまは確実に支持してくださる。実際、当社店舗の場合は、対前年度比はプラスで推移しています。
──そのほかの国についての進出はどうですか。
一宮 ただ今、勉強中です。とくにアジア圏は魅力的なマーケットが数多くあります。先日、業務資本提携を発表したベスト電器(福岡県/小野浩司社長)は、すでにシンガポールやインドネシアに進出しているので、今後さらに実践的な勉強ができるものと期待しています。
ナショナルチェーンは3~4社しか生き残れない
──次に商品政策。中でもPB(プライベートブランド)についての考え方を聞かせてください。
一宮 食品や衣料や家具とは違って、家電製品のPBはなかなか難しいものです。白物家電や黒物家電は、ブランド力で買われるものだからです。たとえば、過去に海外メーカーさんがテレビで日本に本格進出しようとしましたが、結果的には失敗しました。それは、日本人がブランドにこだわったからです。やはり日本のナショナルブランドは強力です。ですから、日本では、家電の海外ブランドも育ちにくいのです。
同じような理由から家電のPBはなかなか難しい。しかし、専用モデルというかたちはあると思います。メーカーさんとタイアップし、ブランドを使わせてもらい、その中で当社しか売らない商品をメーカーさんと共同開発するという格好であり、現実にそれはやっています。
──住宅や住宅設備機器のPBの可能性はどうですか。
一宮 住宅や住宅設備機器については、現実にPB開発の動きもあります。しかし、現状の当社のコアは家電ですから将来に向けて──ということになります。
──ヤマダ電機は、今現在、家電販売市場ではトップシェアを握っていますが、この先、どのくらいまで伸ばせると考えていますか?
一宮 私どもはシェアにはこだわります。現在の家電販売市場におけるシェアは27%。カテゴリーによっては40%を超えるものもあります。それだけに力のある企業にならなければいけません。力とは、利益を出せる企業で、それを通して社会に貢献できる企業になるということです。そのためにシェアを拡大すると考えています。
──そう考えると業界の再々編も起こるとみていいですね。
一宮 そうです。私どもの考えでは、家電販売市場は、ナショナルチェーンは最大に残って3~4社でしょう。10年前との比較で言えば、すでに相当の企業が合従連衡しています。グローバル的に見れば、欧米や中国の現状は、寡占化が進み現在は1~2社程度。その流れから見れば、日本はこの狭い国土の中で企業数が多すぎるのかもしれません。