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小型SM「まいばすけっと」とネットスーパーで成長戦略描く!=イオン北海道 柴田祐司 社長

イオン(千葉県/岡田元也社長)傘下で総合スーパー(GMS)を展開するイオン北海道(北海道/柴田祐司社長)。3カ年計画(2012年2月期~14年2月期)を策定し、収益力の改善や北海道に根ざした店づくり、成長戦略の構築、次代を担う人材育成──に取り組んでいる。マーケットが縮小トレンドにある北海道で同社はどのような勝ち残り戦略を描くのか。柴田社長に聞いた。

地道に小さな改善を積み重ねる

イオン北海道代表取締役社長 柴田祐司 しばた・ゆうじ●1956年生まれ。79年ジャスコ(現イオン)入社。02年、川口前川店店長、03年、マリンピア店店長を務める。その後、埼玉事業部長(06年9月)、GMS事業戦略チームリーダー(08年5月)、イオンリテール事業創造政策チームリーダー(10年3月)を歴任。10年5月、イオン北海道取締役に就任。10年10月、同取締役兼常務執行役員営業本部長、11年3月、同取締役兼常務執行役員事業本部長、11年5月に同代表取締役社長に就任(現任)。

──2012年2月期業績は5期ぶりに既存店売上高が前年実績をクリアし、営業利益率は5%の大台に乗りました。

柴田 これまで取り組んできたことがやっと花開いてきたと感じています。12年2月期業績は、当社の植村忠規会長が社長を務めていたときからコツコツと小さな改善を積み重ねてきたことが数字として表れてきた結果です。

 当社の成り立ちを振り返りますと、ニチイ(後のマイカル)の北海道法人としてスタートし、03年からはイオングループに加盟しています。07年8月にはイオン直営のGMS事業が加わりました。

 ですから当社には、大きく分けるとマイカル時代からの旧ポスフール屋号の店舗と、親会社のイオンから引き継いだ店舗(GMS、スーパーセンター)の2種類があるわけです。旧ポスフールの店舗については、売場やオペレーションの見直しがあまり進んでいませんでしたから、これまで少しずつ改善してきました。

──具体的にはどのようなことを行ったのですか。

柴田 大きく2点あります。ひとつには「お客さまのニーズに売場をどのようにマッチさせるか」という売場改革と、ふたつめはコスト構造の見直しです。

 売場改革については改装を通じて1店舗ずつテコ入れしてきました。

 イオングループはGMS改革において「専門店化」を大きな柱に据えています。

 当社は、白物家電やオーディオ・ビジュアルといった収益性の低い売場を縮小しつつ、旧ポスフール店舗にはなかった手芸専門店の「パンドラハウス」やペット関連商品、自転車、衣料品売場への熟年向けブランドコーナーの設置といった今後の成長が期待できる専門店的な売場を数年前から導入し、拡大してきました。そして、お客さまの今のニーズに売場を近づけるように努めました。

 コスト構造については、登別店や釧路店の不動産信託受益権を買い取って地代家賃を削減したり、他の店舗についても家賃の値下げ交渉を継続して進めてきました。オペレーション面ではバックルーム在庫の削減や作業軽減に取り組んでいます。

──今期からストアオペレーション部を新設して本格的なオペレーション改革に乗り出しています。

柴田 そうです。効率的な売場づくりの研究や、デリカの店内調理過程のムダを省くといった「できるところから」着手しています。優秀な若手2人と販売課長経験者1人の合計3人を選抜し、衣食住それぞれのオペレーションを見直しています。

 このようなコスト構造改革は、イオンリテール(千葉県/村井正平社長)では、1段階も2段階も進んでいますが、当社はやっと緒に就いたところです。その意味で言えば、オペレーション面ではまだまだ見直せる部分があると考えています。

食品は「健康」「個食」「簡便」がキーワード

──衣料や住居余暇の売場改革が着々と進んでいるようですね。一方、全社売上の52%を占める食品についてはどのような改革を行ってきましたか。

柴田 実は食品フロアについてはほとんど手つかずでした。

 当社は株主やお取引先さまなどのステークホルダーにしっかりと信頼されるため、まずは配当できることを目標にさまざまな改革に取り組んできました。大きな投資ができない中で、比較的低コストでテコ入れできるのが衣料と住居余暇だったのです。

 計画どおりに業績が推移すれば今期は1株当たり年間7円を配当できるまで体質改善が進んでいます。ですから今期は衣料や住居余暇に加えて、これまでテコ入れできなかった食品部門に手を入れていきます。設備投資額は年間10億円を予定しており、食品フロアの改装に重点配分する計画です。

──食品フロアの改装ではどのようなことを行いますか。

柴田 特別なことを行うのではありません。あくまでベーシックな施策が中心です。

 ハード面では什器の入れ替えやレイアウト変更を行います。

 商品政策(MD)面では、これまでも取り組んできたトレンド商品、カテゴリーの導入やシニア対応がメーンになると考えています。具体的には、「健康志向」「個食対応」「簡便食品」などがキーワードです。

 たとえば農産部門では、人気が高まっているドライフルーツのコーナーを設けたり、地場産品をすでに充実させています。加工食品は、イオングループのプライベートブランド「トップバリュ」とナショナルブランド商品をバランスよく取り揃え、しっかりとメンテナンスされた売場を展開します。

──イオン北海道が独自に開発した商品も売場に並んでいます。

柴田 そうです。これまで、個食対応の100円のパック入り総菜「彩プラス」シリーズや骨なしの塩干魚を開発し、お客さまから好評を博しています。とくに100円のパック入り総菜は、当社の女性バイヤーとベンダーさんがタッグを組んで開発し、大ヒット商品に育っています。

──商品開発の方向性について教えてください。

柴田 これから先、冷凍食品やデリカは増やしていかなければなりません。なぜかと言えば、高齢化の進展とともに1~2人の少人数世帯が増加し、「個食化」がより進むからです。少人数世帯では一度に多くの生鮮食品は購入できません。しかし冷凍食品ならば自宅の冷蔵庫に比較的長期間、ストックすることができます。また、電子レンジやフライパンでひと手間加えるだけで調理することができる簡便・即食性の高い商品もより必要とされるようになると考えています。

 ほかにも、当社は「北海道No.1の信頼される企業」になることをミッションに掲げていますので、北海道のメーカーさんや生産者団体と組んで北海道ならではの商品を継続して開発していきます。

──マックスバリュ北海道(北海道/山尾啓一社長)や機能会社のイオントップバリュ(千葉県/仲矢長蔵社長)と商品の共同開発をするのですか。

柴田 これまでにも北海道発の商品が「トップバリュ」として発売されていますので、商品開発において連携することはあり得ます。ただし、何を言っても、まずは当社でできることが最優先です。そして当社とマックスバリュ北海道さんがタッグを組んでできること、そして機能会社にもお願いする部分をそれぞれ考えて商品を開発していきます。

──選択肢が複数あるのは大きな強みです。今後、グループの総合力を活用することも念頭に置いている。

柴田 そのとおりです。ほかの事業子会社も環境は同じだとは思いますが、グループの調達力やインフラを最大限生かして「いいとこどり」をしていきます。

「まいばすけっと」は最低でも100店舗を出店

──北海道は人口減少が進み、マーケットは縮小傾向にあります。どのような成長戦略を描きますか。

柴田 今後、食品にしても衣料品にしても、売上が対前期比5%増、そして10%増になる可能性は極めて低いと考えています。北海道は縮小マーケットですから、その中で自分たちの「パイ」をしっかりと守りながら、既存事業の売上を少しずつ伸ばしていくことになると思います。

──成長戦略という意味では、12年3月から小型食品スーパー(SM)「まいばすけっと」の出店を開始しています。

柴田 「まいばすけっと」は当社の次期成長エンジンと位置づけています。

 北海道は人口が減っていきますから、これまでのように大きなショッピセンター(SC)を郊外に数多く新規に開業するわけにはいきません。そして人口が集中している札幌市は、実はこの8月から用途地域等の見直しにより延床面積1万平方メートル以上の店舗が郊外にほぼ出店できなくなります。このような状況から、札幌市内への小型店の出店という選択肢が浮かび上がりました。

 札幌市のマーケットを分析してみると、人口は増加傾向で高齢者が多く住んでいます。札幌市外と比べてクルマの保有率は低く、自転車や徒歩圏内で買物する消費者が多い。だから「まいばすけっと」が出店できる余地はたくさんあると判断しました。

──札幌市への「まいばすけっと」出店の第一報を聞いた際、マックスバリュ北海道が事業を展開するものだと思いました。なぜマックスバリュ北海道ではなく、イオン北海道が事業を手掛けることになったのですか。

柴田 「『まいばすけっと』をやりなさい」と言われたわけではなく、自ら手を挙げました。当社の成長戦略を考えたときに、GMSやSCをあまり出店できないならば、それとは異なる業態を新規に手掛けることでしか成長できないと考え、「『まいばすけっと』にチャレンジさせてください」と岡田元也社長に直談判しました。

 GMS1店舗の投下資本回転数は1~1.5回転ほどで効率はあまりよくはありません。ところが「まいばすけっと」ならば仮に1店舗の年商を2億円として計算すると、初期投資が4000万円ならば投下資本回転率は5回になります。それが100店舗になればそれだけで年商は200億円です。

──15年2月期までに「まいばすけっと」を100店出店すると聞いています。

柴田 そうです。事業開始の前提として、関東エリアの「まいばすけっと」の出店条件を札幌エリアに当てはめ、それを満たせるのかどうか、またどれぐらいの出店余地があるのかをしっかりと検討しました。そうすると最低でも100店舗は展開できるという結論になりました。今後、「まいばすけっと」を確実に成功させ、競合他社のシェアを奪取していきます。

──一方で、ネットスーパーの取り組みも本格化させています。

柴田 ネットスーパーも成長戦略のひとつです。現在、北海道の人口の90%超をカバーできるまでサービスの展開エリアを拡大しています。今後の課題はいかに早く事業を黒字化できるかどうかです。そして黒字化に向けてのアイデアはたくさんあります。

人に投資するのはイオンのDNA

──店舗改革を担う人材の育成にも力を入れています。

柴田 収益力が改善してきたこともあり、「人」に投資ができるようになりました。

 3カ年計画で掲げた「次代を担う人材育成」では、販売課長養成コースを設置して若手の育成に努めているほか、スポーツサイクルアドバイザーやハンドクラフトアドバイザー、一般用医薬品を販売できる登録販売者を育成しています。

 昨年から始めた販売課長養成コースでは、販売課長になっていない従業員を対象に自ら名乗りをあげてもらい、当社独自の教育を施しています。すでに約25人が研修を終え、若手を中心に5~6人が店舗の販売課長になっています。

──12年6月には米国を視察したと聞いています。

柴田 そうです。若手を中心に従業員約30人を選抜して米国の流通視察を行いました。これも利益を出せるようになったから可能になったことです。

 視察に行った従業員は、自身が担当する売場や商品を時間をかけて分析したり、現地のコーディネーターの話を逐一メモするなど、非常に勉強熱心でした。一般的に無気力と言われる若者ですが、当社の従業員は「企業をよりよくするために自分は何をしなければならないのか」といったことを自ら考えることができるということがよくわかりました。

 成長戦略に位置づける「まいばすけっと」や食品フロアへのテコ入れもそうですが、すべては資金がなければできないことです。資金ができたら次のステージにつなげる「種まき」をしなければなりません。そうしなければ企業としての発展はあり得ないからです。

 中でもいちばん大事なのは「人への投資」だと私は考えています。次代を担う人材を育成し、どう開花させられるのか。その手助けをするのが私の仕事です。今後も人材の育成に力を入れ、経営基盤をより強固なものにしていきます。