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7期連続で既存店売上高対前期比プラス成長中=ビッグ・エー上高正典社長

7期連続で既存店売上高対前期比をクリアし続けている。ハードディスカウンターのビッグ・エー(東京都/上高正典 社長)。消費不況の中で、ディスカウントストア(DS)の展開を模索する企業が増えているが、同社はオペレーションまでを含めた仕組み全体として業態を確 立させている稀有な企業である。

「ハードディスカウンターをめざす企業がもっと増えて欲しい」

プロトタイプは7年で40数回切り替えた!

上高正典(うえたかまさのり) 1948年12月大阪生まれ。71年同志社大学。商学部卒業、同年、株式会社ダイエー入社。76年、DAIEI USAに出向。94年、株式会社。ダイエーフーズライン商品本部本部長。株式会社ニコニコ堂勤務を経て2002年9月より株式会社ビッグ・エー代表取締役社長。

──近年ビッグ・エーは、首都圏を中心に毎年2ケタ出店を行い、快進撃が目立ちます。このビッグ・エーの業態特性からお聞きしたいのですが、社内ではこの店舗スタイルを何と位置づけているのですか?

上高 業態論で言えば、リミテッド・アソートメント・ディスカウント・ストア(LADS)というのが一般的です。当社でもそう位置づけてきましたが、2008年度の年度方針から「ハードディスカウンター」と呼称することにしています。

 それは、当社の店舗スタイルがドイツのハードディスカウンターであるアルディを参考に生まれたものだからです。ドイツでは1998年くらいにハー ドディスカウンターのシェアが食品スーパー(SM)のシェアを抜き、その後もどんどんシェアを拡大しています。日本でも今後、同様の傾向が進行していくも のと考えています。当社はこの店舗スタイルを追求し、日本におけるハードディスカウンターのシェアを高めていきたいのです。

──そのシェアを高めるためには、高速出店を可能にする店舗の標準化が欠かせません。現在のプロトタイプ店舗はどのようなスタイルですか?

上高 プロトタイプは、私が02年に着任して以降、40数回切り替えています。日々実験検証の繰り返しで、どんどん最新のものへとバージョンアップさせていま す。最初は売場面積90坪タイプしかありませんでしたが、現在は120坪まで10坪間隔でプロトタイプを持っています。これらのタイプであれば、どの商圏 であっても初期投資を7年で回収する経営モデルが出来上がっています。

 このほかに現在では、150坪スタイルも本格出店しています。6月にオープンした足立谷中店(東京都)で150坪の売場は13店舗目となります。 ただ150坪モデルの勝率はまだまだ5勝5敗というレベルで、プロトタイプとして完成したとまでは言えない状況です。引き続き何店舗かで検証を重ねてい き、もう少し勝率が上がれば150坪スタイルをメーンに出店戦略を組み立てていこうと考えています。

──150坪スタイルの業態確立に時間がかかっている要因は何ですか?

上高 これまで売場面積を毎年10坪ずつ増やしてきたのですが、120坪タイプが完成した後に、一気に150坪へと取り掛かったためです。売場面積を増やせば人 時が上がり、その人時を吸収できるだけの利益構造を構築しなければならないわけですから、本来は1年に10坪ぐらいずつしか増やせません。

 とはいえ出店は、物件ありきです。ドラッグストア(DgS)や衣料品専門店跡地の物件など売場面積150坪クラスの物件が数多く出てきました。 150坪スタイルにチャレンジしなければ、こういう物件が手に入らないため、一気に大型化させた結果、今苦労している、というわけです。

──新店の1店当たり投資額は現在、いくらぐらいですか?

上高 私が着任した当時は1億円かかっていました。居抜き出店とまったくの新店では異なりますが、現在では平均すると7000~8000万円の投資額になります。

──新店の投資額を見てもわかるように、ビッグ・エーの経営戦略で特筆すべき点として、総資産回転率を最大限に高めたいという戦略を持っています。

上高 ハードディスカウンターなら、総資産回転率は5回転以上ないとだめだと考えています。08年度現在の当社の総資産回転率は5.62で、他の上場小売業と比 較しても業界ナンバーワンです。企業規模を大きくしていくにしても、これからの出店スタイルを150坪店舗をメーンにしていくにしても、5回転以上なけれ ばだめだと考えています。

7期連続既存店売上高がプラス成長

──新店を積極的に開発する一方で、02年度から08年度まで7期連続で既存店売上高対前期比が伸び続けているというのは驚異的ですね。

上高 われわれは、とくに既存店のお客さま数を伸ばすことに注力しています。02年度から08年度まで一貫して伸び続けています。その伸び率も、たとえば03年 度は既存店対前期比で14.4%増、04年度同7.2%増と高い伸びを示していますし、06年度以降も既存店のお客さま数は06年度4%増、07年度 3.1%増、08年度2.6%増と着実に増え続けています。09年度も順調に伸びており、第1四半期も同2%増で推移しています。これがいちばんの財産で す。

──すごく価値があるのは、この間、デフレもインフレの時代もありましたが、そうした環境下で一定して客数が増え、既存店売上高対前期比がプラスであり続けている点です。

上高 これを実現できた要因は大きく2つあります。実はこの間、われわれは首尾一貫して商品価格を引き下げ続けてきました。ただし、一気に「何百品目値下げ!」 という派手なものではありません。取引先さまとの条件交渉と当社の仕入れボリューム増大等によって値下げは可能になるわけですから、月に4品目とか、多く て10品目という地道な活動です。その、“コツコツと毎月価格を下げ続けている姿勢”をお客さまにご評価いただけたのだと思っています。

 もう一つは商品コンセプトを、安全第一に切り替え、野菜をすべて国産に切り替えたことです。一部商品では売価が上がるものもあり、社内で反対もあ りましたが、売上が1.3倍に増えました。私は日本の食品小売業では、“野菜の鮮度感と価格のバランスがよい会社”が栄えると思っています。だから、その 点をいち早くお客さまに認知していただけたのだと思っています。その後、他の商品も順次国産化を進めており、直近では、主原料も副原料もすべて国産という 国産100%の商品のアイテム数が324SKUで全アイテム数に占める割合が12.1%にまで高まりました。

──SKU数についてですが、社長就任時は1000SKUだったと聞きます。現在、2500SKUありますが、どのような意図を持って、どのカテゴリーを増やしてきたのですか?

上高 お客さまの消費頻度を第一に考えてやっています。かつて当社は、LADSという業態に固執し過ぎていました。お客さまのニーズが毎年どんどん変わっている のに、それに合わせずに、1000SKUと決めたら1000SKUしか置かなかったのです。業態論は大事ですが、“お客さまの食生活の中でどの部分をわれ われが担うのか”のほうがより大事です。

 ただGMS(総合スーパー)やSMのように、選択の幅を広げてお客さまの来店頻度を高める戦略とは当然違いますか ら、消費生活に必要だけれども当店に不足しているもの、という切り口でアイテムを追加していきました。

──ただし増やしすぎても、その商品が売れなければ商品回転率は下がり、ロス率も上がってしまう、そのさじ加減は大変難しいのではないですか。

上高 私が来たばかりのころ、1000SKU数しかないのに、ロス率は0.57%もありました。これは1万SKU以上品揃えするSMのロス率と変わらないひどい 水準です。その後当社は、SKU数を徐々に増やしながら、逆にロス率も徐々に引き下げていきました。ここ数年は0.2%を下回る水準を保っており、09年 度もその範囲内でコントロールできています。

──口で言うのは簡単ですが、売れる商品だけを適正な在庫量だけ品揃えする、ということを徹底されたわけですよね。

上高 それを実現するうえで、大事な役割を果たしているのが商品開発会議です。毎週開催のこの会議の中で、商品の改廃を決めています。会議に参加するのは商品部 の人間だけではなく、経営幹部のメンバーと地区長以上のメンバーが参加します。多いときで20SKU、平均すると毎週10SKUぐらい入れ替えています。

 それでも、店舗のオペレーションが狂えば在庫回転率は悪化しますから、店にも標準仕様があり、おのおの基準を守ると適正な在庫回転率を維持できる ようになっています。今、1店舗当たり在庫金額は約900万円ですが、今後はこれを800万円にまで引き下げたいと考えています。

ドイツのアルディをめざす!

日本のディスカウントスト。アの多くがベンチマークしているのが、欧米で急伸するアルディとリドルだ。低価格かつ高品質を追求し、利用者の拡大をねらう

──商品開発会議が大きな肝になっているということですね。その商品開発に関する考え方を教えてください。

上高 ナショナルブランド(NB)の担当バイヤーとストアブランド(SB)を開発するマーチャンダイザーに分かれますが、SBチームのメンバーは5人全員が女性 です。理由は、基本的に当社の商品は、女性のお客さまが商品を選択し、料理されます。ですから女性の視点を外れることはありえないわけです。

 また当社は、商品を仕入れるかどうかを、バイヤーやマーチャンダイザーだけでは決定できない仕組みをとっています。サプライヤーさんの工場審査も、バイヤーだけでなく、経営幹部のメンバーが抜き打ちで工場を訪ねて確認しています。

──商品原価を落とす努力については、PB開発以外ではどのような取り組みを行っていますか?

上高 仕入れの仕方を工夫しています。SKU数を限定しているがゆえに、当社は単品当たりのマーケットシェアがかなり高いのが強みです。取り扱いロットが増える ことでお取引先さまのメリットも出ますから、そこで原価を下げていただく。とくに、一般食品の物流センターは、商品の調達機能も備えているのですが、そこ では「10t車一台でいくら」、という買い方をしており、返品はゼロです。メーカーさんにもかなりのメリットがあると思います。

──次にローコストで収益を出す仕組みについてお聞きします。まずは、売上高販管費率と粗利益率について教えてください。

上高 売上高販管費率は店段階で15%を目標にしています。現状でもそれが実現できている店が何店舗かはあります。粗利益率はそうとう低く設定しています。われわれは低価格高回転でビジネスをやろうとしていますから、その意味では低経常利益率になります。

 見ようによっては「リスクが大きい」と言われることもあり ますが、総資産回転率をずっと現在の水準で保つことができればリスクはありません。利益が出なくていいとまでは言いませんが、拡大再生産できるだけの最低 限の資金が生まれてくればそれでよいと思っています。

──本当に薄利多売というか、本当のDSですね。

上高 そうです。ただそのためには、本部(間接部門)と店舗(直接部門)の人数の比率を表す直間比率が9.2%と高すぎる点が課題です。11年度までに7%まで 落とし、最終的にはアルディUSAが実現している5.4%(推定)をめざしたいです。当社は本部人員157人で170店舗をオペレーションしていますが、 アルディUSAは当社とほぼ変わらない170人の本部人員で1000店舗もオペレーションしていますのでそれが目標です。会社の売上が増えれば増えるほ ど、本社人員を増やす企業が多いですが、それをやるとハードディスカウンターはできないのです。

──ここまで徹底してDSをつくろうとしている企業は、それほど多くはありません。

上高 実は、われわれはハードディスカウンターをめざす企業がもっと増えて欲しいと思っています。競争が激しくなれば当社ももっと考えるようになりますから。た しかに、DS業態に参入する企業は相次いでいて、かたち上の売価は下がっています。ですが、実態のオペレーションまでを含めた仕組み全体の競争はまだない ですから。早くわれわれの弱い部分を補うノウハウを持った競争相手が出てきて、そしてわれわれがそれを見習ってさらに業態革新を進める、という切磋琢磨を したいのです。