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「食の提案」で難局を乗り切る=ジョイス代表取締役兼社長執行役員 小苅米秀樹

岩手県を本拠に40店舗を展開するジョイス(小苅米秀樹社長)は「食の提案型スーパーマーケット」の1号店「ジョイス三関店」を開業した。なぜ、3つの事業を食品スーパー(SM)1本に絞り、「価値訴求型」の店舗開発をしたのか? その勝算はどうか? 小苅米社長に聞いた。

旧来の店舗モデルでは立ち行かない

──2009年1月に社長に就任しました。この7月には就任から1年6ヵ月を経て、新フォーマット第1号店となる「ジョイス三関店」(岩手県一関市:以下、三関店)を開業。「食の提案型スーパーマーケット」を謳っています。

ジョイス 代表取締役兼社長執行役員 小苅米秀樹 こかりまい・ひでき 1962年生まれ。84年、法政大学経営学部卒業。同年、すかいらーく入社。88年、いちのへ(現ジョイス)入社。2007年、常務取締役、経営計画室長。09年、代表取締役兼社長執行役員就任。現在に至る。

小苅米 「できたてやつくりたて」を基本に「鮮度と味」にこだわった新しいMD(マーチャンダイジング:商品政策)を数多く導入した店舗です。とくに多くのお客さまのライフスタイルにお応えするために、総菜とベーカリーコーナーを充実させ、時間帯別の品揃えも強化しています。

 また、店舗のオール電化、高効率・省エネタイプの照明や設備を積極的に導入し環境に配慮したことも特徴で、今後のモデル店舗と位置づけています。

──就任早々、事業の再構築として食品スーパー(SM)専心路線を宣言して、フードディスカウントの「ロッキー」、ディスカウントストアの「スーパーセンター」事業を転換。また、衣料部門から撤退したり雑貨部門を縮小したり、「選択と集中」に力を入れています。この辺りの背景にはどんな考え方がありますか?

小苅米 衣食住商品を1カ所に集め、ワンストップショッピングの利便性と低価格で集客を図るという店舗モデルは、今後、難しくなるだろうと考えたからです。すでに物質的には十分に行き渡っている状況下で、お客さまのニーズは、十人十色になっています。その中で過去の店舗モデルで勝負に挑むのであれば、それぞれのカテゴリーが余程の専門性を持っていなければいけません。しかも衣料品や住居関連の分野には、専業のカテゴリーキラーがいます。

 半面、食品の場合は元々われわれの生業ですし、“価格”だけではなく“品質”という競争要素がありますから、やり方によってはまだまだやりようもあり、さまざまなビジネスの可能性があると考えました。それでSM事業への専心と「価値訴求型」の商売をすることを表明したのです。

 三関店の開業に当たって、あらためて米国を視察してきました。米国小売業はウォルマートの“独り勝ち”と言われて久しいですが、確かに市場占有率だけを見ればそれは正しいかもしれません。しかし、ウォルマートと隣接しながら、一歩も引いていないローカルチェーンが数多く存在することも事実です。そしてそのキーワードは「価値訴求型」だと考え、当社もそれを実践しようということを打ち出したわけです。

 ただ「価値訴求型」という言葉は、少し理解しにくい部分もありましたので、「食の提案型スーパーマーケット」と言い換えるようにしています。

意識改革からスタートさせる

──「食の提案型スーパーマーケット」の1号店を開業するに当たっては、何から着手したのですか?

「食の提案スーパーマーケット」1号店 ジョイス三関店外観

小苅米 従業員の皆さんに、意識を変えていただくことをまず行いました。とくに三関店の場合は、後ろの駐車場に建て替えた店舗ですから、従業員の皆さんは以前から働いていただいている方々が大半でした。しかし、新しいコンセプトの店舗が開業するのですから、その店舗風土を変える必要がありました。三関店はこれまでとまったく異なる考え方の店舗であることを店長がマンツーマンでお話しし、納得してもらいました。たとえば、「フレンドリーあいさつ」をなぜする必要があるのか、というようなことですね。

 〈お客さまとの対話の機会が増えれば、不便や不満な点を教えてもらうことができ、次の商品開発や販売方法の改善につながる。お客さまも気持ちよく接客をされれば、「またあそこに行きたい」ということになる〉。

 そんなことを、縷々(るる)、納得いくまで説明するのです。それは大変な労力ですが、それを繰り返してきました。

 昔は商店街に「八百屋さん」「魚屋さん」「肉屋さん」があって、目の前で切ったり焼いたりしてくれたものです。「これ、おいしいの?」と聞けば、「今日のは最高だよ」と説明してくれました。本来の食品小売業はそうした会話や細かな作業が大事であり、ただ商品が置いてあるだけということではないと思うのです。

 まだまだわれわれにはできていませんが、従業員の一人ひとりが自信を持ってお客さまにおすすめできる、そのような店舗になりたいと考えています。“人の力”がやはり大切です。

コストをかけても“品質”を届ける

──新しいコンセプトだから、新しい什器や照明を導入したり、まず外装・内装を変えるということではないのですね。

小苅米 そうです。重要なのは見える部分ではなく中身ですから、とくに従業員の方々の意識改革は抜きにしては何も始まりません。

 「食の提案型スーパーマーケット」ですから、従来の部門別の縦割り組織では対応できないことも、山ほど出てきます。縦割り組織からは、お客さまの食卓を飾るというメニュー提案は出てきませんから。

 たとえば、鮮魚売場の平台で鍋物の提案をしようとしたときに、以前は鮮魚部門の商品しか並んでいませんでした。しかしそれでは鍋物の提案にはなりませんから、青果、日配、加工食品なども並べなければいけません。

縦割り組織を壊すなかから生まれてきた「サラダアイランド」のコーナー

 それを試行錯誤しながら、なんとか実現させようと努力しています。縦割り組織を壊すことは、各部門の長にとっては面白いことではありません。はじめのうちは抵抗や反発もありましたが、徐々に理解度は深まっています。

 三関店では「サラダアイランド」と称し、魚や肉を使ったいろいろなサラダを提供するコーナーを展開していますが、これもこの取り組みの一環です。これまでの考え方で各部門がばらばらに動いていたならばできませんでしたし、まだまだ中身的に改善の余地もありますが、いろいろな分野でさらに推し進めていこうと考えています。

──総菜売場では「生肉から焼いた焼き鳥」を1本100円で販売しています。

小苅米 そうですね。われわれも以前は、中国やタイで生産した焼き鳥を88円程度、安いときには58~68円などで販売していましたので、当初この取り組みは社内でも懐疑の声が上がりました。

 ところが実際にふたを開けてみると、オープン時には毎日1000本を売り切りました。1本を焼くのに15分位かかりますので、焼き手はフル稼働でも間に合わないほどの盛況で、現在もかなりの数の日販があります。

 つまり、商売の仕方によって、まだまだ売上や業績は変えられるということです。ですから社内では、「トライ&エラー」で構わないからまず実際にやってみよう、そして「1人の知恵より100人の知恵」を集めながらよりよいものを創りあげていこう、と話をしています。

 自分たちで考え、成功と失敗を繰り返しながら経験値を積み重ねないとノウハウにはなりませんから、みんなで知恵の汗をかいていきたいと思っています。

 11年2月期上期は苦戦を強いられ下方修正する結果になっていますが、社内には、商環境や競争環境が厳しいことが原因なのではなく自分たちの努力不足が主因である、と話をしています。

出店再開、次年度は3店舗を計画

──次のトップマネジメントの担い手となる店長の教育にも力が入ります。

小苅米 先ほどからお話ししているように、当社は全員参画型経営を標榜していますので、従業員の皆さんが自らのスキルアップを図れる機会を平等に提供していこうとしています。とくにキーになる店長向けは、社長就任当初から力を入れています。

 「食の提案型スーパーマーケット」は、1号店である三関店でうまくいったから次の店舗でもコピーして出店すればうまくいくかといえば、そうとは限りません。商圏や立地やお客さまの年齢構成、あるいは店内風土や店長のキャラクターあるいは従業員の皆さんの能力も店舗ごとに違うからです。

 当社もチェーンストアですから70%くらいの標準化はしなければなりませんが、残りの30%は個店経営するようなかたちをとり、画一化は考えていません。

──これから出店のアクセルを踏んでいくと聞いています。

小苅米 そうですね。12年2月期からは、新規出店を再開することにしました。中期経営計画の最終年度ですが、新規2店舗と建て替え1店舗の計3店舗を予定しています。私を含めた社内にいる人間のレベルが向上しないと業績も上がりませんし、そのための手段も施していますが、やはり出店することによって技術革新も進みますし練度も高まりますので、新規出店を再開することで企業のレベルを上げていきたいと考えています。

 三関店の状況は非常によい感触で、その考えを取り入れて改装した盛岡東安庭店(岩手県盛岡市)も順調に推移していますが、三関店ではサッカー台のスペースや休憩スペースが狭く、バックルームもまだ工夫が必要ですので、次の店舗は多少売場面積を拡大することを検討しているところです。