今期(2012年2月期)、創業100周年の節目を迎えるユニー(愛知県)の業績が持ち直してきた。前期は「原点回帰」をテーマに活性化策を実施、今期はこれからの100年を見据えた「7つの基本戦略」に注力する。厳しい経営環境が続く日本で、いかに勝ち残るのか。ユニーの前村哲路社長に今後の事業戦略を聞いた。
経営改革が奏功し業績が回復
──今年3月11日に「東日本大震災」が発生して以降、国内は混乱が続いています。今回の震災で大打撃を受けた小売業もありました。ユニーの被災状況はいかがですか。
前村 当社は関東以北に34店舗を展開しています。地震直後は21店舗が停電し、一時は全34店舗が休業せざるを得ない状況でしたが、幸いなことにお客さまをはじめとする人的被害はありませんでした。
ただ、震災後の見通しははっきりしませんね。品不足になる商品も出ると見ています。販売動向だけを見ると震災の影響は大きく、発生直後は衣料品の売上高が半減に近い水準まで落ち込みました。
──さて、ユニーは今期、創業100周年の節目の年に当たります。経営に対する抱負や方針について聞かせてください。
前村 09年は「100年に1度の経済危機」と言われ、一時は企業の存続さえも危ぶまれるほど業績が低迷しました。そのような状況を受けて、会社設立40周年を迎えた前期(11年2月期)は、「企業の存続」をテーマにさまざまな施策を実施しました。今期は、企業としていかに収益を上げ、成長できるかに取り組んでいます。
ユニーは創業から100年が経過しましたが、これからの100年はこれまでより数倍、いや数十倍も厳しい時代になると予想しています。そんな時代でも生き残っていけるだけの体力を養いたいと考えています。
──11年2月期の連結決算は、営業収益が1兆1127億8100万円円(対前年比1.9%減)で微減となる一方、営業利益351億100万円(同66.4%増)、経常利益322億8200万円(同69.7%増)と大幅増益を達成しました。最終損益は60億4600万円で2期ぶりに最終黒字となっており、業績が上向きつつあるようです。
前村 前期は「原点回帰」をテーマに掲げ、マーチャンダイジング(MD)改革、現場主義、ローコスト経営の3つを重点施策として推進しました。
1つめのMD改革は、高品質、低価格で、なおかつ利益が出る商品を拡販しようというものです。2つめの現場主義は、店舗へできるだけ権限委譲し、自発的な創意工夫を促しました。最後のローコスト経営は、ここ数年、力を入れている店舗作業の効率化のほか、従業員からの提案による改善活動に取り組むことで、コスト低減を図るものです。
こうした一つひとつが、少しずつ実を結んできたと見ています。
──今期に入って、足元の状況はいかがですか。
前村 昨年9月以降は売上高の前年実績をクリアしてきました。前下期だけを見ても粗利益率は対前期比1%弱改善しています。これは前期に掲げた課題の改善に取り組んできたことが功を奏したと評価しています。
生産拠点の脱・中国をめざす
──今期の具体的な取り組み方針を教えてください。
前村 現在、実施しているのは「7つの基本戦略」です。総合スーパー(GMS)事業の改革、店舗開発、ITビジネス、海外出店、既存事業部の活性化、グループシナジー、エコ・ファーストの約束──の7項目からなります。この基本戦略で足場を固め、この先の100年間に向けた基礎を固めます。
──その中で、GMS事業の改革はどのように進めていくのですか。
前村 前期に実践したMD改革、現場主義、ローコスト経営の3つの改革に引き続き取り組み、さらに進化させていきます。
MD改革については、衣料品のプライベートブランド(PB)開発で、すでに成功例が出ています。たとえば吸湿、発熱機能が特徴の機能性肌着「ヒートオン」です。この商品は一つのカテゴリーで400万枚を売る大ヒット商品になりました。その点では先ほど話したように高品質、低価格で利益が出る商品づくりがかたちになってきたと自負しています。
次は実用衣料だけでなく、アウターなどファッション衣料でも同様の成果を出せればと思います。
──GMS衣料品改革で実績ができたことは、今後のGMS改革に向けていい傾向ですね。
前村 そうですね。衣料品、住居関連、食品の3部門のうち、最初にPBの開発体制を整えたのが衣料品でした。商品の企画、開発、製造といった機能を自社で持っています。
現在は生産拠点全体の90%近くが中国にありますが、中国の人件費などコストが徐々に上がっています。時間はかかりますが、今後は生産拠点全体の40%の程度をベトナム、ミャンマー、カンボジアといった国へ移してしていく計画です。
──衣料品部門で一定の手応えがありました。次の課題として何に取り組みますか。
前村 次の課題ははっきりしています。生鮮食品の収益力の改善です。
当社の食品部門の中で、生鮮3品の粗利益率は20%程度で、競合他社に比べて3~5%低い水準です。これはコンセッショナリー分も含めた数字ですが、その分を差し引いても生鮮3品の粗利益率は引き上げる必要があります。
そのためには商品の管理レベルを高めるほか、商品化技術の向上、仕入れの見直しなどの改革を進めて行きます。生鮮3部門には大きな収益源が眠っていると思いますね。
今期はまず、1%強の粗利率改善をめざします。私がこう話すと取引先さまは非常に神経質になります(笑)。しかし、当社が意図しているのは決して仕入れ条件の変更が第一ではありません。あくまでもMD改革を通じて実現したいと考えています。
収益力改善という意味では、過去5~6年間は作業改善にも力を入れてきました。たとえば店舗レベルの改善として、ストップウォッチを片手に作業動線管理をするといった活動です。さらなるムダ削減に向けて、今も努力を続けているところです。
店舗独自の社内コンクールで現場の士気が向上
──過去4年間でモール型ショッピングセンター(SC)を10店と、大型店を積極的に出店してきました。今後の出店戦略についてお教えください。
前村 この4年間は大型店の出店が続きましたから、毎年300億~400億円の投資をしてきた計算になります。その結果、単体ベースの有利子負債は2500億円以上になっています。今後は金利が上昇すると見られるため、有利子負債を2000億円程度まで下げる計画です。当面は、投資を少し抑制しなければいけませんね。
ただし、最近はオークワ(和歌山県/福西拓也社長)さん、平和堂(滋賀県/夏原平和社長)さんといった県外企業の出店意欲が旺盛で愛知県に侵攻されていますから、ドミナントエリアを防衛する必要があります。食品スーパー(SM)業態の「ピアゴ」を中心に、年間5店舗程度は出店していきたいと考えています。
──ユニーは東海圏と関東圏でドミナント展開しています。店舗展開エリアのメーンは東海圏ですが、関東圏の出店計画はありますか。
前村 関東圏への出店は十分にあり得ますし、実際に物件情報も集まりつつあります。
埼玉県と愛知県の人口は700万人程度で、マーケット規模が非常に近い。しかし当社の既存店の店舗数は愛知県内に100店舗以上あるのに対し、埼玉県には6店舗しかなく、非常にアンバランスなのが現状です。
埼玉県内への直近の出店は10年に開業した「ピオニウォーク東松山」(埼玉県東松山市)で、オープン後の売上は好調に推移しています。これからは埼玉県に加えて、神奈川県への出店も視野にドミナント化を進めていきます。
──都心部では小型SMが注目されています。ユニーには都市型フォーマット「ラ フーズコア」がありますが、都市部での店舗展開について教えてください。
前村 「ラ フーズコア」業態は、ややアップスケールなフォーマットで、都市部を中心に出店してきました。中には売場面積が300坪以下の小型店もありますが、非常に難しいと感じています。
当社としては、SM業態には600~700坪程度の売場面積が必要だと考えています。現状では、150坪前後の小型SMを出店する考えはありません。
──前期に現場(店舗)への権限委譲に取り組みました。この取り組みで現場の雰囲気は変わりましたか。
前村 08年秋のリーマンショックの影響もあり、10年2月期は店舗に活気がありませんでした。新たな期がスタートした10年3月時点では、月次予算を達成している店は全体の30%程度しかなかったほどです。
そこで、活性化策のひとつとして、各店舗独自の社内コンクールの予算を出すことにしました。ある店では、視覚的にアピールできる売場づくりをテーマに掲げ、部門間で競い合う企画を立てました。このコンクール方式を採り入れたことで、かなり成果が上がりました。こうした取り組みもあって、11年2月期末時点は9割近くの店舗が予算を達成するまでに回復しました。
──予算を達成した店舗には、社長からお礼状を出すそうですね。
前村 予算を達成した店舗には、私がお礼文を書き、サインをして送ります。対象店舗は100店舗以上ありますから、書くのに3時間以上かかります。それでもお礼状を書くのは、そのことによって「見られている」「評価されている」と強く意識すると思うからです。
私も過去に店長を経験しましたが、店舗の業績は店長の意欲ひとつで大きく変わります。会社の規模が大きくなれば、人のつながりが希薄になり、次第に企業力が弱くなる。人間味のある関係を保てるような組織をつくっていきたいですね。
頂新グループと提携
上海に1号店出店へ
──日本は人口減少社会に突入しました。国内マーケットは縮小し、少子高齢化が進んでいきます。日本企業の中には、海外進出に活路を見出す動きも目立っています。ユニーも中国市場で小売、製造、飲食などを手掛ける最大手の食品メーカー「頂新国際集団」とアライアンスを組みました。
前村 日本は人が減り、国内事業はジリ貧になります。この先は一気に店舗網を拡大できるような環境にありません。
当社の現在の年商は1兆円以上ですが、このまま放置すればいずれ1兆円を切るでしょう。だから中国で事業を拡大する必要があるのです。頂新グループと組んだことで、今後の成長に向けた大きな切符を手にできたと感じています。
頂新グループは1兆円企業ですが、現在でも売上高伸長率20%、利益伸長率30%と驚異的な急成長を続けています。ユニーが70%、頂新グループが30%出資して合弁会社を設立し、上海に出店する計画です。頂新グループはさまざまな企業とアライアンスを組んでいますが、出資比率で過半数を握るかたちで合弁企業を設立したのは、ユニーが初めてのケースだそうです。
──1号店の出店はいつですか。
前村 現段階では12年末を予定しています。自社開発ではなく、デベロッパーと共同開発する計画です。2号店は13年秋に出店の予定です。
出店形態は日本国内で展開している「アピタ」業態をイメージしています。当社がノウハウを持ち、得意とするスタイルをもとに店舗を開発し、中国国内で店舗網を拡大していきます。
── 一方、国内に目を向けると、過疎地だけでなく都心部でも、近所に買物をする場がない「買物難民」の問題が浮上しています。
前村 昨夏、ネットスーパーの業務委託先のサーバーが不正アクセスによる攻撃を受ける事件が発生しました。この影響で当社のネットスーパーはサービスを一時中断していました。今年2月から再開しており、今後は少しずつサービス範囲を広げていく予定です。
現在は名古屋市内だけですが、来年には愛知県、三重県、岐阜県といった中京圏全域をカバーしていきます。
──ネットスーパーに取り組む企業は増えていますが、現時点では収益面に課題が残ります。
前村 実際にネットスーパーのサービスを始めてわかったのは、消費者からの要望が強いということです。買物したくても行くことができずに不自由されている方が増えています。お客さまに必要な商品をお届けする「御用聞き型」の商売の必要性を感じました。とくに当社のような総合小売業は、避けては通れない事業だと考えています。
日本のマーケットは今、大きく変化しています。小売業が取り組むべき課題も数多くあると認識しています。
ユニーは今期、ホームセンターや書店といった専門店事業部の活性化、環境問題への取り組み、関連企業によるシナジー創出などを重要テーマとして掲げています。
これらの施策を推し進め、足場を固めながら、新たな100年を着実に歩んでいきたいと思います。