コロナ禍でライフラインを支えたとして躍進した業界の1つがドラッグストアです。そのなかにあって、インバウンド需要の蒸発や都心部で厚い店舗展開により、その恩恵に十分あずかれなかったのがマツキヨココカラ&カンパニーです。しかし、アフターコロナを見据えるいま、同社の企業価値は大きく高まっています。その背景を探りたいと思います。
小売業の株式時価総額上位の顔ぶれをアップデート
日本の小売業の株式時価総額、上位5社はすぐ思い浮かぶと思います。2022年10月27日現在、その順位は次のとおりです(兆円以下四捨五入)。まず上位5社。
1位 ファーストリテイリング(8.7兆円)
2位 セブン&アイ・ホールディングス(4.9兆円)
3位 イオン(2.4兆円)
4位 ニトリホールディングス(1.6兆円)
5位 パン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングス(1.5兆円)
順当な布陣と思います。
では6位から10位はいかがでしょう?ここがとても興味深いので見ていきましょう。
6位 MonotaRO(1.2兆円)
7位 ZOZO(1.0兆円)
8位 マツキヨココカラ&カンパニー(0.8兆円)
9位 ウエルシアホールディングス(0.6兆円)
10位 コスモス薬品(0.6兆円)
です(便宜上、日本マクドナルドホールディングス0.7兆円を除いています)。
いかがでしょうか。
なかなか興味深いと思います。EC系2社が6位、7位を占め、次にドラッグストアが3社並んでいます。
この中でもマツキヨココカラ&カンパニー(以下、マツキヨココカラ)がドラッグストアのトップに、小売業全体で8位にあることに筆者は興味をひかれました。
マツキヨココカラ、株価は順調
過去1年間の株価の騰落を見ると、時価総額上位10社のうち、上昇しているのは4社(ファーストリテイリング、セブン&アイ・ホールディングス、イオン、マツキヨココカラ)に限られます。
また、ドラッグストア大手の中で、過去1年間に株価が上昇しているのはマツキヨココカラとサンドラッグに限られます。大手他社であるウエルシアホールディングス、コスモス薬品、ツルハホールディングス、スギホールディングス、クスリのアオキホールディングスなどの株価は軒並み下落しています。
そこで今回はマツキヨココカラの企業価値が高まっている背景を探りたいと思います。
ポスト・コロナ禍の人流回帰とインバウンド期待
まず初めに思い浮かぶのは、株式市場の物色の変化です。
ポスト・コロナ禍で人流が回復し、インバウンドが復活し、人とのコミュニケーションもバーチャルからリアルへの揺り戻しがくるーそうであれば、医薬品に加えて食品・雑貨でコロナ禍のライフラインを支えたディスカウント志向のドラッグストアから、都心立地に強くビューティー重視のマツキヨココカラ(マツキヨ側に色濃いのでしょうが)に脚光が移ってきた(戻ってきた)と考えられます。
しかしこれだけで説明を終えるのは筆者には拙速な気がしてなりません。
というのも株価がコロナ禍前の水準を超えつつあるからです。10月中旬以降株価は少し調整していますが、10月上旬には2018年につけたコロナ禍前の高値を超えています。また、現在の株価も2019年の株価のレンジより高い位置にあります。
そこでマツキヨココカラのファンダメンタルズを点検し、ポスト・コロナ禍で新しいストーリーが芽生えているのかどうか、点検したいと思います。
統合効果の着実な発現
マツキヨココカラの株価動向を考える上で見逃せないのは、2021年10月に統合したマツモトキヨシグループとココカラファインの統合効果がさっそく売上高経常利益率の向上に現れていることです。
2022年4−6月期決算では、売上高2272億円、経常利益135.6億円、売上高経常利益率6.0%でしたが、
- ココカラファイングループを含めない前年同期の売上高経常利益率に対して+0.2ポイント改善
- ココカラファイングループを含めた前年同期の売上高経常利益率に対して+1.1ポイント改善
こうした利益率向上を、ココカラファインとの経営統合に伴うのれん償却額及び商標権償却費を費用計上した上で実現していることに筆者は注目しています(統合に関する費用を除けばさらに利益率が高いというわけです)。
ちなみに、2022年3月期通期のココカラファイン合算ベースの売上高経常利益率は5.6%で、年間+0.4ポイント改善しました。これが今期(2023年3月期)に入っても継続していることになります。
商品別に粗利益率を確認すると、化粧品・雑貨・食品の各カテゴリーで満遍なく改善しています。
同社のビジネスは業界他社と比べて、売上高経常利益率が高く、かわりに在庫回転率と資産効率が低い構造ですので、売上高経常利益率は同社にとって最も肝心なKPIです。このためこの数値改善は投資家には心強い材料です。
同社の売上高経常利益率は過去数年にわたり業界内で高水準にありますが、この傾向は直近四半期でも確認できます。ビジネスモデルの違い、成長局面の違い、在庫回転の違い、あるいは補助金収入の寡多などの要素があるものの、業界トップクラスの売上高経常利益率は投資家の評価につながります。
売上高の成長が利益拡大とOMO基盤強化に繋がる好循環を生み出すか
しかし課題もあります。とりわけ、9月までの既存店売上高はいまだ回復せず、増収率が低いことは気がかりです。
現在の株価水準の高さを踏まえると、同社は早々にこの高い利益率を維持しながら、人流・インバウンド回復を既存店売上高の底上げに繋げて増益率に弾みをつける必要があると思います。
こうして生まれる利益の余力を、顧客とのオンライン接点強化とOMO構築に充当し、販促とPB開発につなげることになれば、2026年3月期の目標であるグループ売上高1.5兆円、営業利益率7.0%への道筋が確かになるはずです。在庫回転率と資産効率の改善がもたらされれば申し分ありません。
株式市場は、同社のビジョンである「美と健康をリードするアジア有数のドラッグストア」に変貌する可能性を見定める段階にあると思います。
マツキヨココカラにとって重要な局面に入りました。統合効果を利益率の面でいち早く発現した同社の”ここから”の経営手腕に期待したいと思います。
ちなみに、この利益率改善は他のドラッグストア各社に対しても強いメッセージになったはずです。いつも述べていることですが、ホームセンターとドラッグストアは業界の統合がまだまだ進むと思います。スケールメリットをこれだけはっきり見せられた競合他社の反応が大いに気になります。