ファーストリテイリング(山口県)は海外の事業展開を一段と強化する。特に北米と欧州では「事業を継続的に拡大できる基盤ができた」(柳井正会長兼社長)として出店ペースを加速し、中国や東南アジアに続く収益源に育てる。これに伴い、組織体制も変更。東京本部に加え、ニューヨークにも「世界本部(グローバルヘッドクオーター:GHQ)」を立ち上げ、商品開発やマーケティングなどの機能を強化する。
海外が国内を3年ぶりに上回り20%の増収に
ファーストリテイリングの2022年8月期連結決算は増収大幅増益で、円安の影響を除いても営業利益は過去最高を更新した。
全売上高の半分強を占める海外ユニクロ事業が約20%の増収と好調で、同事業の営業利益は前期1583億円と3年ぶりに国内を上回った。新型コロナの影響でグレーターチャイナ(中国本土、香港、台湾の中華圏)が大幅な減益となったが、東南アジアと欧米は大幅な増収増益。欧米は黒字化し、営業利益率は約10%となった。インドは進出3年目で初めて黒字転換した。
ファーストリテイリングは01年に英国に出店し海外に初進出。現在は世界26カ国・地域に約3600店を展開しているが、海外ユニクロ事業の営業利益の約53%を中華圏が占めており、圧倒的な稼ぎ頭となっている。
しかし前期は上海のロックダウン(都市封鎖)など新型コロナに伴う行動規制の影響を大きく受け、中国が減収、大幅な減益になった。一方で05年に進出以来、苦戦していた米国は初めて黒字転換を実現した。欧州(ロシアを除く)も大幅な増収となり、売上高は約1300億円、営業利益は約150億円と営業利益率約12%を達成した。各国の大都市に出店してきた地域旗艦店が利益の半分以上を稼いだという。
「グローバルブランドになれる条件が整った」
中華圏を除くすべての海外地域で増収、大幅な増益だったことを受け、柳井正会長は10月の決算説明会で「中国や東南アジアなどアジアを中心にお客さまの支持が高まり、北米や欧州でも継続的に黒字を計上できる体制が確立できた」と評価。「とくに北米と欧州では出店ペースを加速し、中国や東南アジアに匹敵する数の店舗を出店していく」として、「本当の意味でのグローバルブランドになれる条件が整った」と話した。
そして今後は「グループ全体としてグローバルで成長できるように、世界各地の個々のローカルの力を強化する」として「今後は東京の本部がすべての意思決定をし、各国に指示するかたちではなく、各国の経営者、生産や物流、ITなど各機能の責任者がそれぞれの現場で的確な情報に基づき、自ら判断し課題解決をする。GHQの経営陣は世界中を移動し、あらゆる現場に入って一緒に経営していくという体制に変えていく」と表明、海外事業を新たな方法で運営していくことを明らかにした。
具体的には、現在世界戦略の指揮を執っている東京本部(東京・有明)に加え、ニューヨークのGHQとしての機能を強化する。ニューヨークを新たなグローバル戦略の核にするため、R&D(商品開発)センターをはじめ、商品開発、マーチャンダイジング、マーケティングなど、あらゆる商品づくりの機能を積極的に担わせる。
ニューヨーク本部を機能強化、世界経営を加速
また米国の最先端のITやグローバルの物流ネットワークなど、最新の技術を取り入れ、新しいビジネスの構築を東京本部と一体となってつくり上げる。組織づくりにも着手した。
全社の経営方法も根本的に変える。「本部や各国の経営者、各機能の責任者が世界中を自由自在に移動し、互いに連携し合い、時に東京やニューヨークの本部に集まり、意思疎通をして、また各地に散っていくという働き方に変えていく」と柳井会長は語る。
このため、9月1日付でユニクロのグローバルCEO(最高経営責任者)にグループ上席執行役員でユニクロ米国CEOだった塚越大介氏を起用。同COO(最高執行責任者)に日本事業のCOOなどを務めた若林隆広氏が就任した。グローバルCEOとCOOは日常的に世界を移動し、各国の経営者とともに現場に直接入り込み、その場で即断・即決・即実行、各国の課題を解決していくという。
北米や欧州を年間30店の出店ペースに
今期はグローバルで年間310店と前期比約3割出店数を増やす。中華圏全体では年間100店の出店を継続する。北米では今期は10店、欧州では路面店を中心に5店の新規出店を予定しているが、来期以降はさらに出店を加速し、将来は両エリアとも年間30店の出店ペースに引き上げる。いずれは全世界で年間400~500店を出店する。
北米では5年後の27年8月期に売上高3000億円、欧州では売上高5000億円に拡大し、いずれも営業利益率20%をめざす。
北米では東海岸や西海岸を中心にショッピングセンター内店舗やグローバル旗艦店などを出店。5年後200店体制をめざす。欧州では今期、ロンドンに商品開発チームを新たに立ち上げる。欧州でニーズがある商品や欧州発でグローバルに売れる商品の開発を本格的に進める。また地域旗艦店を未出店国や都市に広げる。ラストワンマイルを含めた配送の内製化、24時間以内のお客への配送を進め、最終的にはすべての大都市で自社配送を実施する。
柳井会長は「各国でローカルの集合体であることとグローバルであることを両立させることが必要だ」と話す。また一方で「今後は個々の店舗が大きく変化する。店舗の持つ意味は、オンラインでは不可能なことの提供だ。デジタルの技術を確保しつつ、店舗は磨き上げられた最高の体験をお客さまに提供する場所になる。買物の場所から“実体験”の場所へ進化することが必要だ」とも述べた。その実現のため「とくに日本国内では、個々の店舗の強みをより明確に発揮するための大胆なスクラップ&ビルドを行っていく」という。