「リードタイムが長期化してQR*が組めません」
こういった相談が増えている。前回のPLMと同様にメディアでは一切話題になっていないが、これが崩壊寸前ともいえるアパレル産業の生産現場の実態だ。今日は、商社とアパレルが行ってきた「南下政策」の代償として、日本がもはや世界の工場から無視されている実態とメカニズムを解説する。浮わついた話は評論家にまかせ、現実に目を向けて欲しい。
*クイックレスポンス、細かく生産を刻んで需要と供給をマッチさせる技術
SDGsの時代、「消費者が必要な時に必要な量だけ」は嘘
現在、日本のアパレル企業に対して、過剰生産が指摘され、在庫問題が産業界を破壊することが明確になっている。これを受けアパレル各社は、粗利改善のために「消費者が必要な時に、必要な量だけ」を運ぶ、などと判を押したように言っている。だが、そんなことができるならなぜ今までやらなかったのかという疑問が湧いてくると同時に、今後、こんな芸当はますますできなくなり、余剰在庫はますます増える。順を追って説明しよう。
1 商社とアパレルの南下政策の代償 円安時代でも輸出できない
90年代から2000年代にかけておきたDCブームでアパレルは我が世の春を謳歌してきた。極端な言い方をすれば、計数管理など不要。アパレルビジネスは感覚だとうそぶき、顧客より商品を見て、とにかく商社に商品を作らせ、調達原価から3倍から5倍の売価をつけて売れば山のように利益が出る時代があった。
当時、商社とアパレルは5年ごとに生産拠点を、韓国台湾、香港、次に広東省から北へ、次いで東南アジア、タイ、そして南アジアのバングラデッシュへと代え、コスト競争を繰り広げてきた。この南下政策によって、アパレル衣料品の平均単価は、バリューチェーンをほとんど変えることなく6000円台から3000円台へと下落しても耐えられ得るコスト
しかし、ここでアパレル企業は大きなミスを犯す。本来、
そして、生産拠点を南へ、南へゆくことで、もはや日本で生産している衣料品は総投入量の1%台に達し、この円安の時代でも輸出できる生産拠点が日本にはないという結果になった。
2 人口減少と所得低下により先進国で最下位の国となる
政治の問題がさらに拍車をかける。日本政府は国家戦略を持たず、金融や公共事業で難局を乗り切ろうとした。だがこの政策も失敗し、いわゆる失われた30年に突入した日本は先進国の中でもっとも消費が期待できない国となった。「景気の鏡(かがみ)」といわれる衣料品だが、学校のSDGsの授業で「衣料品は無駄に買うな、大量消費が悪いのだ。
こうした日本の課題を解決する政府の会合では、全く消費者の実態を理解していない人間が、SDGsについて、「Hermèsが、LOUIS VUITTONが、、、」という話を持ち出し、私が「一体、
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3 台頭する中国企業によりアパレルビジネスは新しい時代へ
映画、音楽、ドラマなど、エンタメの世界は完全に韓国に抜かれ、デジタル技術では中国の後塵を拝し、メディアはリッチコンテンツ、つまり画像や動画に主戦場が移り、日本のファッション雑誌は壊滅状態となり、米国Meta(旧Facebook) のインスタグラム、あるいは中国TikTokのような動画コンテンツがZ世代と呼ばれるデジタルネイティブに訴求している。
日本だけでなく世界のZ世代は、中国Sheinのようなテック企業による越境D2C、Dholicを代表とする韓国プラットフォーマーに完全に囲い込まれ、日本のアパレル企業は田舎の老人相手のビジネスに追いやられた。
しかし、それでも縮小する市場に残り、成長している世界(特に東南アジア、米国など)に出ることをせず、レッドオーシャンと化した日本で潰し合いをやり、ひたすら「QR」にすがっている。それも、90年代のQRは、欠品ロスを最小化する目的だったが、2020年以降は、「在庫を残さないことを目的とするQR」に最後の望みを託すようになった。
4 アジアの工場は、日本アパレルを無視 中韓ブランドに方向転換
しかしそのQRも、付き合ってくれる海外の工場があればこそ、だ。
「何度も無駄なサンプルを作らされる」、「量産発注は驚くほど小ロット」、「コストプレッシャーが半端ない」など、「うるさい」、「すくない」、「安い」の三悪企業と見なされた日本のアパレル・商社を見限って、アジアの工場は、成長する中国大陸や東南アジアを主戦場とした韓国、中国アパレル・ブランドの方に向くようになり、「日本のアパレルは無視」するようになった。
私はあれほど「QRなどもはや通用しない、QRばかり追いかけるから工場の段取り替えが増え製造コストが上
今、平均リードタイムはバングラデッシュやミャンマーで3〜4ヶ月から半年。中国で2〜3ヶ月で、
また、現場を全く知らない評論家集団が、未だにシーインが数日で数千アイテムのものづくりをするなど、産業界の人間が聞いたら大笑いするようなことを平気で書いているが、ある大手の関連企業から、「本当に3日で3000枚も生産できるのか」と私に問い合わせが来たほどだ。その企業は、「3日で3000枚」に対応すべく投資をどうやってすべきかを考えていたという。
このように、コロナで分断された現地視察と、知ったかぶりの評論家、実務を知らない学者が産業界をいっそう混乱させた。拙著『知らなきゃ行けないアパレルの話』で、「日本企業が世界企業に将来勝つ見込みはゼロ」
考えて頂きたい。工場を見て、自分の頭で考えられる人間であれば、生産納期は素材と付属がすべて揃っている前提で、1週間から10
「納期は半年」と言われて何が見えるか?
日本のアパレル企業の人と話をすると、数字に弱い、論理に弱い、考える力が弱い、の「3弱」を強く感じることがある。例えば、納期が半年ですといわれたら、物理的な生産の流れを考えれば、
「私は工場を見たことがある」、「私は昔ものづくりをやっていた」と豪語する人も多いが、「そこから見えるインサイト(洞察)があるのか」と聞けばゼロで、ただアジアに行っただけという人がほとんどだ。また、最近では「工場でものづくりをやっていました」という人間も増えてきたが、細かな話と大きな話の論点設定がデタラメで、戦略から詳細設計という流れが組み立てられない。だから、アジアの工場に突然小ロット発注が増え、愛想を尽かされ納期が長期化するのである。
日本企業のものづくり戦略
日本企業のものづくり戦略は、ハニーズ、ワールド、MNインターファッション、オンワードホールディングス、三陽商会などがやっている如く生産工場を自社化する、あるいは、工場内シェアを圧倒的に増やすことだ。特にリテール出自のSPAアパレルは、取引先だけで1000アカウントもあるなど、集約がまったく進んでいない。だから、お互い本気になれない関係が続き、商社を外して直貿化をすれば、逆に工場側の発注量が減るため愛想を尽かされるのである。特にハニーズはミャンマーに自社工場を持ち、圧倒的コスト競争力を同社に与え、売上高販管費率は50%と高いものの、それでも営業利益は10%近くをたたき出し、他社を圧倒している。
その秘密は驚くほどシンプルで、仕入れた商品は全部定価で売り切る、というものだ。多くのいい加減な評論家の分析は信じてはならない。というより、
次に、素材の問題である。私は、事あるごとに「素材はアパレルリスクであらかじめ海外のアセットとして持て」と提案してきた。なぜなら、素材段階で持つ在庫は、虫食いや変色などが起きない限り、保存状態が良ければ何年でも持つし、簿価も製品の1/3程度、使い回しも効くからだ。製品で在庫を持つことは慣れているからといって、何十億円分も在庫を持ち、損金処理を出すくせに、素材で在庫を持つ方がよほどリスクが少ないし理にかなっていると言っても「過去前例がない」といって聞く耳をもたなかった。
しかし、スペインのZARAが素材備蓄し、ユニクロまで素材の備蓄宣言をした今、アパレルが素材をもたないことはリードタイムを長期化させるだけでなく、余った素材のコストを製品にのせ簿価ゼロにし製造原価を上げるだけでなく、シーインなどの餌食になることは幾度も話した通りだ。物理的リードタイムの中で最も時間が長く、サプライチェーンのボトルネックは「素材」なのである。
ここまで書けば、PLMとリードタイムは全く関係ないこともおわ
プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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